俺と魔王と変態と 〜砂川悠弥の非日常〜
突発的に書かせていただきました。続編は気が向いたら書く………、かもしれません(´ω`)
砂川悠弥の日常は、毎日が常に果てしない危険と隣り合わせである。
「……ちょっと退いてくれるとホント助かるんですけど。いやマジで」
「ふぅん、悠弥くんは教会より神前派なんだ。安心してよ。ボクはキミの花嫁姿が見れればそれだけで満足だからさ!」
「話聞きましょーか!? 先輩耳いかれてますか勿論いかれてますね末期ですね」
「日取りはボクに任せてよ。いろいろとツテもあるしさ。いやー、兄貴が早くお前の最愛のヒト連れてこいってうるさくってさ。ボクとしてはキミをとられたくないからあんまり行きたくないんだけど。でも兄貴に自慢したいしさぁ。あ、もしかして明日の放課後空いてる?」
「いやいや空いてるわけないじゃないですか。空いてたって言いませんよアンタなんかには。てか人の話聞きましょう?」
「大丈夫だよ。もし兄貴が悠弥くんのことを気に入ってボクから奪おうと計略をめぐらせても、ボクがキミを守るから!」
「誰かー。この人精神科連れていってあげてくださーい」
快く了承してくれた人、無し。
うんそーだよね、わかってたよ皆さん。近所迷惑かけまくってホントすみません。この度めでたく頭のいかれてしまったヤツに代わって心から謝罪します。
「恥ずかしがってんのかな? 悠弥くん可愛いー」
「アンタ頭大丈夫ですか!?」
ホント病院行ってくれ。頼むから。
名高い私立藤代学園(男子校)に入学してから早一週間。悠弥の悩みの種は勉強でも友達付き合いでも寮生活でもない。
学園一の天才だという折口水斗のかなり迷惑で異常な愛情表現だった。
「ゆーくんは優しいねぇ。でもボクはキミからの愛の力があればどんな病気だってすぐに治してみせるから安心してよ」
「ゆーくんって誰だ。ああもうわかったからさっさと部屋に帰ってください。俺も眠いんで」
「えー? ゆーくんと一緒に寝たーい」
「どうかそのまま永遠の眠りについてください。そしたら安眠できそうなので」
バカと天才は紙一重という。その点からいわせてもらうと、水斗はそれを見事に跨いでいる。それもど真ん中を。実際頭ははるかにいいはずなのにこうやってとんでもないことを言いだすのがしばしば……、いやしょっちゅうある。振り回されるこっちの身にもなってほしいものだ。迷惑この上ない。
成績優秀。スポーツ万能。残念ながら顔も整っている方なのでバレンタインの時は他校の女子の行列が一キロできたという逸話も持っている。しかも実家は日本最大規模を誇る大手産業メーカーというオマケつき。文句のつけようのない水斗だが実体は一癖も二癖もあるとんでもない変態野郎だった。
「砂川ー。オレコンビニ行ってくるからー」
「こら待て逃げるな将人」
「いやだってオレお邪魔みたいだしー? 折口先輩とふたりっきりでごゆっくりどーぞ」
「アハハ、坂下くんはいい子だねー」
「あざーっす」
「だから上がろうとするなこの変態野郎が! 将人手前覚えてろよー!」
隙あらば侵入してこようとする水斗の手と足を必死になって食い止める。ドア一枚だけが悠弥の守りだ。
「残念。オレ記憶力最悪なの」
「坂下くん、ゆーくんちょっと押さえといてくれるかな?」
「うぃーっす」
「な!?」
聞いてないぞ坂下! お前だけは俺の味方だと思っていたのに…。
小学校の頃引っ越しで離ればなれになった親友との再会は高校入学というドラマチックな展開はどこへやら。数年の間に親友は変わってしまったらしい。
ああ目の前が霞んで見えないよ。何だろうこの目からあふれ出てくる熱い水は。
「砂川ー。だいぶイタい人なってんぞー?」
「ははっ。その胸に手を当ててよーく考えやがれ」
「折口センパーイ、砂川が壊れましたー」
「ゆーくん!? 大変だ直ぐに医者の手配を…」
「将人ー。一回でいい。殴らせろ」
「暴力反対ー」
中高通してバスケ部のスタメンが女子みたいにほざくなこの野郎。
むだに体格のよくなった将人と比べるとその細身な体つきがよくわかる。ちなみに悠弥の運動神経は切れてる。というより、ない。
「ねぇゆーくんここ開けてよ〜。ボクもゆーくんに触りたいー」
「変態発言は禁止です先輩」
「変態じゃないよ! これは立派な愛のカタチ」
「だからその口黙らせろと言ってんだよ!」
誰でもいいから本当に助けてくれ。
と、ふいにドアの外からの圧力がなくなった。あれだけ騒いでいた廊下が一瞬にして静かになる。
まさかと思い、悠弥は数センチだけドアを開ける。
──ドアの向こうには、偉大なる魔王様がいらっしゃいました。
「司……」
「さて水斗。そろそろ消灯時間でお前の部屋は最上階の五階にあるっていうことをいつになったら覚えてくれるのかな?」
にっこりと微笑む二条司に黒い翼と角が見えるのはけして気のせいなんかじゃない。普段はやさしい司をあそこまで怒らせるのは水斗ぐらいだ。少なくとも悠弥が知るかぎりただ一人である。そんな命知らずな行動は誰もしないらしい。まったくもって正しい判断だと思う。
「これから帰ろうとしてたんだよ……」
「ほぉ? 俺の耳には砂川の部屋に押し入ろうとしていたように聞こえたんだが、気のせいだったか」
司は水斗の襟首を有無を言わさず掴みあげると、そのままずるずると引きずっていった。
「痛い痛い司! 歩く! 歩くから」
「他人の部屋に逃げ込まれたら俺も困るがそいつも困るからな」
「ゆーくんヘルプー」
悠弥の名前が水斗の口から出ると、司はぴたりと足を止めて振り返った。もちろんいつもの人のいい笑顔で。
「毎日毎日すまないな砂川。このバカがどうにも話を聞かなくて」
毎度のことながら素晴らしい変わりようだと思う。どちらかといえば魔王が素なのだろう。多分。
「だって司の話は説教じゃないかぁ」
「俺のは一般論もしくは正論というんだ。覚えとけ」
逆らおうとか絶対に思えない。多分司は悠弥にとって最後の砦だ。
「オレ、二条先輩敵に回すならいさぎよく死ぬな」
もっともだと思ってしまう一年生は、まだ人生経験が浅いのだろうか。
ガミガミ説教をくらいながら小さくなっていく水斗に揃って合掌し、部屋に引っ込む。だいたいそうこうしているうちに一日が終わってしまうのだ。朝から晩までドタバタである。無論天才とは名ばかりのアホな先輩のせいなのだが。
「まぁ頑張れ。例えダチがそっち系でもオレは軽蔑しねぇから」
「将人!?」
「あれ違うわけ? オレの思い込み〜?」
どうやら第二ラウンドスタートらしい。
もちろん見回りに来た寮長にこっぴどく叱られたのは言うまでもないが。
砂川悠弥は叫ぶ。
「みんなして俺を巻き込んでんじゃねぇー!」
俺は無実だ!
そう怒れる少年が「特別」な誰かを受け入れるのは、もう少し先のことである。