婚約者は誰だったのか
「失礼します」
使用人より廊下で呼び止められ客室にお茶を運ぶように言われた女性フローリアは公爵家の長子17歳である。
扉を開けると、フローリアの目の前では自分の婚約者のアンディと双子の妹メアリーローズが抱き合っていた。
「アンディ様?今日は訪問の予定はなかったと」
震える声で問うフローリア。
「お姉さま、変な事言わないでください。私は何度も呼びに行きましたわよ。こんな姉がアンディ様の婚約者だなんて。私が代わってあげたいわ」
「フローリア、私はメアリーローズの事を好きになってしまった。すまないが婚約を解消してほしい」
そう伝えるのはフローリアの婚約者のアンディ。公爵家の嫡男である。婚約者としてフローリアを毎回お茶に誘うも断られ、その度に妹が相手をしてくれていた。
また学園にもほとんど登校しない婚約者よりも妹との交流が多くなり気付くと妹のメアリーローズを好きになっていたのだった。
「お姉様、私もアンディ様のことが好きなの、私たちは『真実の愛』で結ばれているのよ」
「フローリア、君は学園にもあまり登校しない、成績も下位である。そして毎回お茶会の誘いも君の我儘で私を待たせ、結局は来ない。何度もメアリーローズは謝罪し私の相手をしてくれていたのだよ」
「それは……」
フローリアは悲しそうにアンディを見つめた。その瞳は今にも涙が零れそうであった。
「お姉様、今更健気なふりをしないでください。いつも私を虐めていたじゃない。私は悲しいのです。アンディ様はそんな私を気遣ってくれていたのです」
メアリーローズは勝ち誇った顔で姉を見て、アンディに抱きつく。
「お姉様、睨まないでください。怖いですわ」
フローリアにお茶を運ばせたのは、メアリーローズが使用人に指示したためだった。そして、二人が抱き合う所を見せつけたかったのだった。
その時、勢いよく客室にやってきたのはフローリアとメアリーローズの母だった。
「フローリア、仕事をさぼるな。さっさとお茶煎れ立ち去れ、やる事があるだろう」
「そうよ。早く行きなさい。しかし二人はお似合いね。私たちの様ね〜旦那様」
「あぁ。可愛いメアリーにアンディ君はお似合いだ。フローリアと婚約を解消しメアリーと婚約してもらうか。2人はそういう仲なのだろう?」
「えぇ、パパ、ママ。アンディ様も私の事を好きだと言ってくれたわ」
「おお、そうか。それなら卒業後に結婚式を盛大に挙げないとな。そして、この家は2人の子に継いでもらうとしよう」
「あの、フローリアは……どうなるので?」
「あぁ、心配はいらない。ランチェスター侯爵の後妻として嫁げばいい」
「そうね、ランチェスター様ね。奥様を亡くして寂しいと言ってましたし」
「ランチェスター公爵殿?」
(たしか、子供たちは皆結婚していて、当の本人は昨年、奥方を亡くして……もうすぐ50歳になる男の元にフローリアを?)
「あの、彼は……」
思わず、アンディは口を挟む。
「出来損ないの娘でもいいと言いてくれているんだ。卒業までは待ってくれるそうだ」
「お姉様、良かったですわね。婚約を解消され傷物でも貰ってくれる方がいて。もう、ここには用はないので出て行ってください」
(傷物って、私とメアリーローズのせいで……婚約が解消されたのに。自分の両親よりも年上の男性の元に?)
「アンディ様、至らない婚約者ですいません。お幸せに……失礼します」
そして、その日のうちに婚約が解消され、フローリアの妹のメアリーローズとの婚約が成立したのだった。
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