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英雄翁の詩  作者: ジージ
英雄になれない僕だから
10/10

今日も今日とて世界は回る

──森の都シルヴァリエの門が見えてきた頃には、もう陽はすっかり沈んでいた。三人は、静まり始めた街を抜け、討伐隊の拠点へと辿り着く。


「おっす! ただいまー!」


 その気の抜けた声に気づいた隊員達が、一斉に振り向き、三人の姿を見てざわめいた。


「ティル!」


「無事だったのか!」


 隊員達が駆け寄り、ティルを取り囲む。叱責と安堵と涙と笑いが一度に押し寄せ、ティルはどう返していいか分からないといった様子で頭をかいた。


「……よかった、本当に……」


 書記官の女性が胸を押さえ、小さく息を吐いた。その視線が、次にシグルドとガンバへと向けられる。


「ありがとうございます。皆がこうして無事に戻れたのは、お二人のおかげです」


「礼には及ばん。皆が無事で戻れたのなら、それで十分だ」


 シグルドは静かに答え、視線を隊員たちへ向けた。壊滅しかけていたのが嘘のように彼らの顔にはすでに活気が戻っていた。


「……」


 その様子を見届けながらも、シグルドの視線は仲間にどつかれて笑っているティルに向けられる。


 ──この少年を、どうするべきか。


 魔王の五魔具の一つである以上、放置すれば魔王の復活に繋がる可能性は高い。だがシグルドにはあの屈託のない笑顔を切り捨てる事ができないでいた。


「悩みますよね……」


 シグルドの様子を見て小さく漏らしたガンバの声に、シグルドはわずかに目を細めた。


「魔具である以上、わしが手を出さなければいずれ他の魔具に狙われるだろう。だが──」


 言葉はそこで途切れた。しばしの沈黙の後、シグルドは低く呟く。


「今、ここで斬るべきかは迷うところだ」


「……やっぱり斬るという選択肢もあるんですね」


 ガンバの声は小さく、どこか重かった。


「まだ魔王復活の可能性が無くなったわけではないからな、それに……」


「お二人共、暗い顔をされてどうされたんですか?」


 書記官の女性が、二人の会話にそっと割って入った。だが、話していた内容をそのまま口にするわけにもいかず、シグルドは言葉に詰まる。


「あ、あの……まだ宿を取っていなかったなぁ、なんて話をしてまして……」


 ガンバがおずおずと、照れくさそうに笑みを浮かべながらその場を取り繕う。


「あら、それでしたら、討伐隊の医務室をお使いください。本来は仮眠や負傷者の救護に使う部屋ですが、今回は被害もほとんどありませんでしたので、空いておりますよ」


「それは助かりますね」


 ガンバはほっとしたように肩を落とし、深く頭を下げた。シグルドも小さく頷き、短く礼を述べる。


「世話になる」


「いえ、こちらこそ仲間の命を救っていただいたのですから。この程度では返しきれません」


 書記官の女性はそう言って微笑み、奥の廊下を指し示した。


「こちらです。簡素な部屋ですが、ゆっくり休めると思います」


 案内された部屋には木製の簡素な寝台がいくつか並び、壁際には包帯や薬を収めた棚が置かれていた。ほのかに薬の匂いが漂い、静かな灯りが室内を柔らかく照らしている。


「良いですね、こういう場所は落ち着きます」


 ガンバはそう言いながら大きく息を吐き、肩の力を抜いた。


「お疲れでしょうし、今夜はどうぞゆっくりお休みください」


 書記官の女性はそう言って、静かに扉の方へ下がった。


「何か必要なものがあれば、遠慮なく呼んでくださいね」


 軽く頭を下げると、足音を忍ばせるように部屋を後にする。扉が閉まると、室内には二人と柔らかな灯り、そして薬の香りだけが残った。


「……助かった、わしは誤魔化すのは苦手でな」


 シグルドは小さく息を吐き、近くの寝台へ腰を下ろした。


「いえいえ、私も内心はかなり焦ってましたよ」


 ガンバは苦笑しながら杖を壁に立てかける。


「それにしても……ティルさんのこと、どうするんですか」


 シグルドはしばらく黙ったまま、魔法の灯りの揺れる天井を見上げていた。


「……少し様子を見る、害がなければ無理に手を出す必要もあるまい」


 その答えにガンバは、ほっとしたように小さく息を吐いた。


「正直あんないい子を手にかけるのは気が進みませんしね」


「とは言え、戦いにならんとも限らん。覚悟はしておけ……いや、覚悟が必要なのはむしろわしのほうか」


 シグルドは感情に振り回され魔剣を振るった日のことを思い出していた。いざ彼を斬らなければならないとなった時、聖剣を出せないようでは真の勝利はない。


「……ガンバ、お前は確か二重詠唱が使えたよな?」


 不意の問いに、ガンバはきょとんとした顔でシグルドを見る。


「ええ、まあ……できますけど。どうしてです?」


「少し教えて欲しいことがあってな。付き合ってもらえるか」


 ガンバは首を傾げながらも頷く。その夜、二人の話し声はしばらく途切れることなく続いた。


 ──そして、夜が明ける。


 窓の隙間から差し込む朝の光が、静かな医務室を淡く照らしていた。身支度を整えた二人は討伐隊と言葉を交わし、詰所を後にした。


「うーん、やっぱりティルさん悪い子じゃなさそうですよね」


「だが魔物の異常行動があるのは確かだ、彼の仕業でないとすれば別の魔具が動いている可能性が高い」


 シグルドは歩みを止めず、静かに言葉を続ける。


「グラムは盗賊を率い、戦力として使っていた。こちらでも盗賊の動きが活発になっているという話がある。となれば、その背後に魔具がいても不思議ではあるまい」


 ガンバは小さく頷いた。


「確かに……そう考えると辻褄が合いますね」


 シグルドはその言葉に軽く目を細め、前方へ視線を向ける。朝の市場にはすでに人の姿が増え始め、商人や旅人が行き交っていた。


「まずは街で話を聞くとしよう。討伐隊だけが知っていることには限りがある。流れている噂の中にこそ、見落としていた手掛かりがあるかもしれん」


「ティルさんのことも、街の人から見た様子が分かるかもしれませんね」


 二人はそのまま森の都の大通りへと足を向けた。露店には果物や薬草が並び、行き交う人々の声が木々の合間に柔らかく響いている。だが、その賑わいの裏には、どこか落ち着かぬ空気も混じっていた。


「最近、魔物が増えて嫌になるね」


「盗賊も増えて困ったもんだよ」


 道端では商人たちが声を潜めて噂を交わしている。


「……お父さん、まだ帰ってこないの?」


 不安そうに巡回兵を見上げる子供を、母親がそっと抱き寄せていた。


「……街の空気、思ったより重いですね」


 ガンバが小声で呟くと、シグルドは静かに頷いた。


「街中にまでは及んでいないにせよ、周辺の被害は相当なものなのだろうな」


 その時、不意に通りの向こうの広場から歓声が上がった。


「……? 何でしょう、気になりますね」


 二人は顔を見合わせ、歓声のした方へと向かう。人だかりの隙間から、閃く光が一瞬だけ見えた。


「……あれ、ティルさんじゃないですか?」


 ガンバが驚いたように声を上げる。近づくとあの少年が剣を振るい、軽やかに動いているのがはっきり見えた。


「ああ……あいつだな」


 シグルドは小さく息を吐き、その様子を見据えた。


「いくぞ──スパイラルストライク!」


 踏み込むと同時に、ティルの身体が大きく捻られる。そのまま回転しながら跳躍し、その勢いを剣へと乗せると目標に据えられた木製の柱に叩き込んだ。

 一瞬の内に何度も斬撃を刻み込まれた木柱は達磨落としのように幾つもの輪となってずれ落ちていく。


「おおおっ!!」


 周囲から歓声が上がる。

 ティルは剣を軽く振り、得意げに笑って見せた。


「どうだ! これくらいできりゃ、魔物なんて怖くねぇだろ!」


 ティルは剣を掲げ、得意げに笑って見せた。


「こんなところでどうしたんでしょうね」


 ガンバが首を傾げていると、ティルも二人に気付く。


「あっ、じーちゃん達じゃん」


 その一言に、周囲の視線が一斉にシグルドとガンバへと向けられた。ざわめきが広がる中、ティルは気にした様子もなく歩み寄ってくる。


「どうしたんだよー、こんなとこで」


 出会った頃のよそよそしさは影を潜め、屈託のない笑みを浮かべるティルにガンバは穏やかに笑って返す。


「街の様子を見て回っていただけですよ」


 シグルドは一歩前に出ると、静かにティルを見据える。


「お前こそ、こんな場所で何をしている。討伐隊の務めはどうしたんだ?」


「昨日の件でさ、俺だけ休みもらったぜ!」


 得意気に親指を立てて笑うティル。


「え、それって……謹慎とか、そういう類のものでは?」


 ガンバが遠慮がちに口にすると、ティルは一瞬だけきょとんとした顔をした後、けろりと笑った。


「まあ、そんな感じだな!」


 まったく悪びれる様子もない。その様子に、周囲からどっと笑いが起こる。


「おいおいまたかよ!」


「しっかりしてくれよ~」


 口々に飛ぶ声に、ティルは肩をすくめて笑う。


「いいだろー! ちゃんとみんな生きて帰ってきたんだからさ~」


 その軽い返しに、再び笑いが広がる。ガンバはそのやり取りを見て、少し驚いたように目を瞬かせた。


「……怒られてはいるみたいですけど、嫌われている感じではないですね」


「ああ」


 シグルドは短く答え、穏やかな視線をティルへ向けたまま続ける。


「むしろ、信頼されているからこそだろう」


 その時、ティルが二人の方へと顔を向ける。


「なあ、英雄翁達もなんか見せてくれよ!」


 突然の一言に、周囲の視線が再び二人へと集まった。


「英雄翁……?」


「本物なのか?」


 人だかりから半信半疑の声が漏れる。実のところ名を知るものこそ多いものの、伝わっているのは像になったりしている若き日の姿ばかりで今のシグルドの姿を知る者はあまりいないのだ。


「……お前、余計なことを」


 呆れ混じりにそう言うと、ティルは悪びれもせず笑って木柱を用意する。


「まったく、わしには派手な技など無いんだがな」


 そう言って腰の剣に手を添え、静かに抜き放つ。次の瞬間、白い輝きがふわりと灯った。


「あれが伝説の聖剣か……!」


「ティルのとはまた違う雰囲気だな」


 ざわめきが一気に広がる。誰もが目を離せず、その白い輝きを見つめていた。正眼に剣を構えたシグルドを誰もが見ていたはずだった。


「あれ?」


「斬った……のか?」


 誰も確信を持てないまま、戸惑いの声が重なる。シグルドが剣を構えたと思った瞬間には、すでに振り終えた姿勢へと移っていたのだ。遅れて木柱がずれて静かに二つに分かれて滑り落ちる。


「まあ、こんなものか。歳を取るとあまり派手な動きはできんのだ、許せ」


 静かに剣を収め一礼するシグルド。


「いやいやいや、今のが“こんなもの”なわけないだろ!」


「全然見えなかったぞ!?」


 堰を切ったように声が上がり、どっと歓声が広がった。


「ははっ、やっぱすげぇな、じーちゃん」


 ティルが楽しそうに笑い、肩を回す。


「でもさ、ああいうのもいいな。派手じゃないのに全部終わってる感じ」


 シグルドはその言葉にわずかに目を細めて笑みを浮かべる。


「無駄を削げば、そうなる」


「無駄のない動き、というか動き自体が無かった気がするんだけど」


 ティルが首を傾げると、シグルドは小さく息を吐いた。


「意識や認識に頼って捉えた物に実体がなければ当てにはならんということだ」


 その言葉にますます首を傾げるティル、そこにガンバが口を挟んだ。


「さっきのは聖剣の光に意識を向けさせて剣を振るための予備動作を隠していたんですよ」


 ガンバによる種明かしに、シグルドは感心する。


「……ほう、気付いていたか」


 ガンバは頭をかきながら、照れくさそうに笑う。


「詩人は、物事をよく観るのが大切ですからね」


 ガンバの言葉に、ティルが目を丸くする。


「え、丸いじーちゃんって詩人だったんだ」


 ガンバは一瞬だけ固まり、すぐに苦笑を浮かべた。


「ま、丸……、まあ本業はそちらですよ。魔法は……まあ、都合で覚えたようなものでして」


 ティルは感心したようにガンバを見る。


「へー、なんか英雄譚に出てくる『詩の賢者』みたいだな」


 ティルの言葉にガンバは思わず苦笑した。


「さすがにそこまで大仰なものではありませんよ」


 そのやり取りを横で聞いていたシグルドが、ふと口を開く。


「……詩の賢者、初めて聞くな」


 シグルドの言葉にティルは意外そうに目を見開いた。


「あれ? 知らないんだ、カルバリア砂漠連合出身の魔王と戦った勇士の一人だぜ」


 その話を聞きながら、シグルドはわずかに眉を動かした。


「……カルバリア商業同盟ではないのか?」


 その問いに、ガンバは静かに応えた。


「ええ、今はそう呼ばれています。ですが元は部族による連合でして、百と四十年ほど前に交易を軸とした同盟へと姿を変えたんですよ」


 ガンバの解説にシグルドは小さく頷いた。


「なるほど……となると詩の賢者とやらも随分と昔の話か。知らんわけだ」


「それでさ、その人も元々は詩人なんだけど、魔法も使えたらしくてさ。その腕を見込まれて魔王討伐に加わったんだ。なんか似てるだろ?」


 そうティルは笑いながら語る。


「確かにわしもこいつの魔法の腕を見て、相当な使い手だと見込んで誘いをかけたな」


 シグルドはそう言いながら、横目でガンバを見やった。


「私は詩の賢者ほどの使い手じゃないですけどね」


 シグルドの視線を受けたガンバは、どこかむず痒そうに肩をすくめながら話す。


「……では、せっかくです。私からはひとつ、詩を披露しましょうか」


 ガンバは一歩前に出ながら詠唱を始める。


「言の葉よ、詩となりて、万巻の知を紡げ──『書記』」


 詠唱を終え、ガンバは一拍だけ息を止め、やがて静かに口を開く。その言葉は声となって広がると同時に、淡い光を帯び、宙に文字として紡がれていった。



──魔王が討たれてより半世紀


魔は狂い、血は乾かず


平穏は騒擾の中に崩れゆく



魔王の力と共に分かたれし五魔具


寄り添うその時、魔王は再び顕現し


世は星なき空よりなお昏き闇へと沈む



だが忘れてはならない


朽ちぬ誇りをその身に刻み


なお剣を掲げし者がいることを



今こそ終わらせよ、この永遠なる輪廻


魔王よ、滅びて甦ることなかれ──




「……これが、今の英雄翁を詠んだ詩ですよ」


 言葉が終わった後も、光の文字だけが宙に残り、ゆっくりと揺れていたが、やがて一つ、また一つとほどけるように消えていく。


(これは……)


 シグルドはガンバの狙いを悟る。情報を出すことでティルの反応を引き出すつもりなのだろう。


「輪廻を終わらせる? 魔王の復活を止められるのか……?」


 誰かの呟きが、静まり返った広場に落ちた。


「ええ──魔王の復活の仕組みなら、すでに分かっています」


 ざわめきが一瞬で膨らむ。


「ほ、本当か……?」


「なら、どうすればいいんだ!」


 声が重なる中、ガンバはにこやかな笑みで静かに説明していく。


「へー、じゃあ五魔具を倒せばいいのか! 燃えてきたぜ!」


 やる気を見せるティルにシグルドは訝しげな視線を向ける。


(微塵も動じていない……まさか、自分が魔具と気付いていないのか?)


 あまりにも自然すぎる。作った反応ではない──本気で、自分が“討つ側”にいると信じている目だ。


「ずいぶんと乗り気だな」


 静かに口を開くシグルドにティルは満面の笑みを浮かべる。


「だってさ、魔王を完全に討ち果たすなんて偉業成し遂げたら英雄間違いなしだろ!」


 ティルは拳を握り、まっすぐにシグルドを見据えた。


「強ぇって認められたいし、ちゃんと名前も残したい──それが俺の夢だ」


 シグルドはしばし黙したまま、その瞳を見返した。


「……功名心を否定はせん。それはお前の心を支え、強さにもなるだろう」


 一拍置き、シグルドは視線を外さずに続ける。


「お前の信じた道こそお前にとっての最良の道だ、その信念を貫くといい」

 

 ティルはその言葉を受け、ぐっと拳を握った。


「おう! 魔王だろうが魔具だろうが、全部ぶっ倒してやるぜ! ……でさ、そいつらどこにいるんだ?」


 目の前にいる、とは流石に言えないシグルド。言葉を詰まらせていると横からガンバが静かに口を開いた。


「正確な所在までは掴めていませんが、魔物の異常行動や、人の動きの乱れ……これらは魔具の影響の可能性が高いです」


 その言葉に、ティルの口元がゆっくりと吊り上がる。


「つまりこの近くってことか、分かりやすくていいな」


 ガンバは小さく頷いた。


「以前、別の魔具が盗賊を率いていた例があります。こちらでも同様の動きをしているかもしれません」


 ティルは口端を吊り上げ、気合を入れるかのようにぐるりと肩を回した。


「へぇ……じゃあ盗賊のアジトを当たればいいってわけだ。それなら心当たりあるぜ」


 挑戦的な笑みを浮かべ、ティルが身を乗り出す。


「案内するからさ! 一緒に戦ってくれよ!」

 

 勢いよく言い切ったティルを、シグルドの冷静な一言が遮った。


「待て……お前、謹慎中だろうが」


 ティルは苦笑いしながら頬をかく。


「……うっ、まあ、それはそうなんだけどさ、やっぱ黙って見過ごせねぇし」


 シグルドはため息をひとつ吐いた。


「気持ちは分かるが、決まりを破るのはあまり感心はせんな」


 ティルは視線を逸らし、足元の土を軽く蹴る。


「……でもさ、その盗賊のアジトの場所、知ってんの俺だけだぜ。昨日、一人で動いてた時に見つけたし」


 シグルドはしばし沈黙し、やがて低く言う。


「……仕方ない、案内しろ」


 ティルは一瞬きょとんとした後、満面の笑みを浮かべる。


「やった! 任せてくれよ!」


 その様子を見ていたガンバは肩をすくめ、軽く笑いながら息を吐いた。


「……ずいぶんお優しいですね」


 シグルドはわずかに目を細め、やや不満げに返す。


「手掛かりを逃すつもりはない。それだけだ」


「ふふっ、そう言う事にしておきますよ」


 二人のやり取りをティルは気にも留めず、先へと歩き出す。


「なあ、じーちゃん達早く行こうぜ。あそこ結構遠いしさ」


 先へ急ぐその背に、二人は一瞬だけ視線を交わし無言で続く。


 朝の喧騒は変わらぬはずなのに、どこか落ち着かない空気が街に漂っていた。

──森の都シルヴァリエの門が見えてきた頃には、もう陽はすっかり沈んでいた。三人は、静まり始めた街を抜け、討伐隊の拠点へと辿り着く。


「おっす! ただいまー!」


 その気の抜けた声に気づいた隊員達が、一斉に振り向き、三人の姿を見てざわめいた。


「ティル!」


「無事だったのか!」


 隊員達が駆け寄り、ティルを取り囲む。叱責と安堵と涙と笑いが一度に押し寄せ、ティルはどう返していいか分からないといった様子で頭をかいた。


「……よかった、本当に……」


 書記官の女性が胸を押さえ、小さく息を吐いた。その視線が、次にシグルドとガンバへと向けられる。


「ありがとうございます。皆がこうして無事に戻れたのは、お二人のおかげです」


「礼には及ばん。皆が無事で戻れたのなら、それで十分だ」


 シグルドは静かに答え、視線を隊員たちへ向けた。壊滅しかけていたのが嘘のように彼らの顔にはすでに活気が戻っていた。


「……」


 その様子を見届けながらも、シグルドの視線は仲間にどつかれて笑っているティルに向けられる。


 ──この少年を、どうするべきか。


 魔王の五魔具の一つである以上、放置すれば魔王の復活に繋がる可能性は高い。だがシグルドにはあの屈託のない笑顔を切り捨てる事ができないでいた。


「悩みますよね……」


 シグルドの様子を見て小さく漏らしたガンバの声に、シグルドはわずかに目を細めた。


「魔具である以上、わしが手を出さなければいずれ他の魔具に狙われるだろう。だが──」


 言葉はそこで途切れた。しばしの沈黙の後、シグルドは低く呟く。


「今、ここで斬るべきかは迷うところだ」



「……やっぱり斬るという選択肢もあるんですね」


 ガンバの声は小さく、どこか重かった。


「まだ魔王復活の可能性が無くなったわけではないからな、それに……」


「お二人共、暗い顔をされてどうされたんですか?」


 書記官の女性が、二人の会話にそっと割って入った。だが、話していた内容をそのまま口にするわけにもいかず、シグルドは言葉に詰まる。


「あ、あの……まだ宿を取っていなかったなぁ、なんて話をしてまして……」


 ガンバがおずおずと、照れくさそうに笑みを浮かべながらその場を取り繕う。


「あら、それでしたら、討伐隊の医務室をお使いください。本来は仮眠や負傷者の救護に使う部屋ですが、今回は被害もほとんどありませんでしたので、空いておりますよ」


「それは助かりますね」


 ガンバはほっとしたように肩を落とし、深く頭を下げた。シグルドも小さく頷き、短く礼を述べる。


「世話になる」


「いえ、こちらこそ仲間の命を救っていただいたのですから。この程度では返しきれません」


 書記官の女性はそう言って微笑み、奥の廊下を指し示した。


「こちらです。簡素な部屋ですが、ゆっくり休めると思います」


 案内された部屋には木製の簡素な寝台がいくつか並び、壁際には包帯や薬を収めた棚が置かれていた。ほのかに薬の匂いが漂い、静かな灯りが室内を柔らかく照らしている。


「良いですね、こういう場所は落ち着きます」


 ガンバはそう言いながら大きく息を吐き、肩の力を抜いた。


「お疲れでしょうし、今夜はどうぞゆっくりお休みください」


 書記官の女性はそう言って、静かに扉の方へ下がった。


「何か必要なものがあれば、遠慮なく呼んでくださいね」


 軽く頭を下げると、足音を忍ばせるように部屋を後にする。扉が閉まると、室内には二人と柔らかな灯り、そして薬の香りだけが残った。


「……助かった、わしは誤魔化すのは苦手でな」


 シグルドは小さく息を吐き、近くの寝台へ腰を下ろした。


「いえいえ、私も内心はかなり焦ってましたよ」


 ガンバは苦笑しながら杖を壁に立てかける。


「それにしても……ティルさんのこと、どうするんですか」


 シグルドはしばらく黙ったまま、魔法の灯りの揺れる天井を見上げていた。


「……少し様子を見る、害がなければ無理に手を出す必要もあるまい」


 その答えにガンバは、ほっとしたように小さく息を吐いた。


「正直あんないい子を手にかけるのは気が進みませんしね」


「とは言え、戦いにならんとも限らん。覚悟はしておけ……いや、覚悟が必要なのはむしろわしのほうか」


 シグルドは感情に振り回され魔剣を振るった日のことを思い出していた。いざ彼を斬らなければならないとなった時、聖剣を出せないようでは真の勝利はない。


「……ガンバ、お前は確か二重詠唱が使えたよな?」


 不意の問いに、ガンバはきょとんとした顔でシグルドを見る。


「ええ、まあ……できますけど。どうしてです?」


「少し教えて欲しいことがあってな。付き合ってもらえるか」


 ガンバは首を傾げながらも頷く。その夜、二人の話し声はしばらく途切れることなく続いた。


 ──そして、夜が明ける。


 窓の隙間から差し込む朝の光が、静かな医務室を淡く照らしていた。身支度を整えた二人は討伐隊と言葉を交わし、詰所を後にした。


「うーん、やっぱりティルさん悪い子じゃなさそうですよね」


「だが魔物の異常行動があるのは確かだ、彼の仕業でないとすれば別の魔具が動いている可能性が高い」


 シグルドは歩みを止めず、静かに言葉を続ける。


「グラムは盗賊を率い、戦力として使っていた。こちらでも盗賊の動きが活発になっているという話がある。となれば、その背後に魔具がいても不思議ではあるまい」


 ガンバは小さく頷いた。


「確かに……そう考えると辻褄が合いますね」


 シグルドはその言葉に軽く目を細め、前方へ視線を向ける。朝の市場にはすでに人の姿が増え始め、商人や旅人が行き交っていた。


「まずは街で話を聞くとしよう。討伐隊だけが知っていることには限りがある。流れている噂の中にこそ、見落としていた手掛かりがあるかもしれん」


「ティルさんのことも、街の人から見た様子が分かるかもしれませんね」


 二人はそのまま森の都の大通りへと足を向けた。露店には果物や薬草が並び、行き交う人々の声が木々の合間に柔らかく響いている。だが、その賑わいの裏には、どこか落ち着かぬ空気も混じっていた。


「最近、魔物が増えて嫌になるね」


「盗賊も増えて困ったもんだよ」


 道端では商人たちが声を潜めて噂を交わしている。


「……お父さん、まだ帰ってこないの?」


 不安そうに巡回兵を見上げる子供を、母親がそっと抱き寄せていた。


「……街の空気、思ったより重いですね」


 ガンバが小声で呟くと、シグルドは静かに頷いた。


「街中にまでは及んでいないにせよ、周辺の被害は相当なものなのだろうな」


 その時、不意に通りの向こうの広場から歓声が上がった。


「……? 何でしょう、気になりますね」


 二人は顔を見合わせ、歓声のした方へと向かう。人だかりの隙間から、閃く光が一瞬だけ見えた。


「……あれ、ティルさんじゃないですか?」


 ガンバが驚いたように声を上げる。近づくとあの少年が剣を振るい、軽やかに動いているのがはっきり見えた。


「ああ……あいつだな」


 シグルドは小さく息を吐き、その様子を見据えた。


「いくぞ──スパイラルストライク!」


 踏み込むと同時に、ティルの身体が大きく捻られる。そのまま回転しながら跳躍し、その勢いを剣へと乗せると目標に据えられた木製の柱に叩き込んだ。

 一瞬の内に何度も斬撃を刻み込まれた木柱は達磨落としのように幾つもの輪となってずれ落ちていく。


「おおおっ!!」


 周囲から歓声が上がる。

 ティルは剣を軽く振り、得意げに笑って見せた。


「どうだ! これくらいできりゃ、魔物なんて怖くねぇだろ!」


 ティルは剣を掲げ、得意げに笑って見せた。


「こんなところでどうしたんでしょうね」


 ガンバが首を傾げていると、ティルも二人に気付く。


「あっ、じーちゃん達じゃん」


 その一言に、周囲の視線が一斉にシグルドとガンバへと向けられた。ざわめきが広がる中、ティルは気にした様子もなく歩み寄ってくる。


「どうしたんだよー、こんなとこで」


 出会った頃のよそよそしさは影を潜め、屈託のない笑みを浮かべるティルにガンバは穏やかに笑って返す。


「街の様子を見て回っていただけですよ」


 シグルドは一歩前に出ると、静かにティルを見据える。


「お前こそ、こんな場所で何をしている。討伐隊の務めはどうしたんだ?」


「昨日の件でさ、俺だけ休みもらったぜ!」


 得意気に親指を立てて笑うティル。


「え、それって……謹慎とか、そういう類のものでは?」


 ガンバが遠慮がちに口にすると、ティルは一瞬だけきょとんとした顔をした後、けろりと笑った。


「まあ、そんな感じだな!」


 まったく悪びれる様子もない。その様子に、周囲からどっと笑いが起こる。


「おいおいまたかよ!」


「しっかりしてくれよ~」


 口々に飛ぶ声に、ティルは肩をすくめて笑う。


「いいだろー! ちゃんとみんな生きて帰ってきたんだからさ~」


 その軽い返しに、再び笑いが広がる。ガンバはそのやり取りを見て、少し驚いたように目を瞬かせた。


「……怒られてはいるみたいですけど、嫌われている感じではないですね」


「ああ」


 シグルドは短く答え、穏やかな視線をティルへ向けたまま続ける。


「むしろ、信頼されているからこそだろう」


 その時、ティルが二人の方へと顔を向ける。


「なあ、英雄翁達もなんか見せてくれよ!」


 突然の一言に、周囲の視線が再び二人へと集まった。


「英雄翁……?」


「本物なのか?」


 人だかりから半信半疑の声が漏れる。実のところ名を知るものこそ多いものの、伝わっているのは像になったりしている若き日の姿ばかりで今のシグルドの姿を知る者はあまりいないのだ。


「……お前、余計なことを」


 呆れ混じりにそう言うと、ティルは悪びれもせず笑って木柱を用意する。


「まったく、わしには派手な技など無いんだがな」


 そう言って腰の剣に手を添え、静かに抜き放つ。次の瞬間、白い輝きがふわりと灯った。


「あれが伝説の聖剣か……!」


「ティルのとはまた違う雰囲気だな」


 ざわめきが一気に広がる。誰もが目を離せず、その白い輝きを見つめていた。正眼に剣を構えたシグルドを誰もが見ていたはずだった。


「あれ?」


「斬った……のか?」


 誰も確信を持てないまま、戸惑いの声が重なる。シグルドが剣を構えたと思った瞬間には、すでに振り終えた姿勢へと移っていたのだ。遅れて木柱がずれて静かに二つに分かれて滑り落ちる。


「まあ、こんなものか。歳を取るとあまり派手な動きはできんのだ、許せ」


 静かに剣を収め一礼するシグルド。


「いやいやいや、今のが“こんなもの”なわけないだろ!」


「全然見えなかったぞ!?」


 堰を切ったように声が上がり、どっと歓声が広がった。


「ははっ、やっぱすげぇな、じーちゃん」


 ティルが楽しそうに笑い、肩を回す。


「でもさ、ああいうのもいいな。派手じゃないのに全部終わってる感じ」


 シグルドはその言葉にわずかに目を細めて笑みを浮かべる。


「無駄を削げば、そうなる」


「無駄のない動き、というか動き自体が無かった気がするんだけど」


 ティルが首を傾げると、シグルドは小さく息を吐いた。


「意識や認識に頼って捉えた物に実体がなければ当てにはならんということだ」


 その言葉にますます首を傾げるティル、そこにガンバが口を挟んだ。


「さっきのは聖剣の光に意識を向けさせて剣を振るための予備動作を隠していたんですよ」


 ガンバによる種明かしに、シグルドは感心する。


「……ほう、気付いていたか」


 ガンバは頭をかきながら、照れくさそうに笑う。


「詩人は、物事をよく観るのが大切ですからね」


 ガンバの言葉に、ティルが目を丸くする。


「え、丸いじーちゃんって詩人だったんだ」


 ガンバは一瞬だけ固まり、すぐに苦笑を浮かべた。


「ま、丸……、まあ本業はそちらですよ。魔法は……まあ、都合で覚えたようなものでして」


 ティルは感心したようにガンバを見る。


「へー、なんか英雄譚に出てくる『詩の賢者』みたいだな」


 ティルの言葉にガンバは思わず苦笑した。


「さすがにそこまで大仰なものではありませんよ」


 そのやり取りを横で聞いていたシグルドが、ふと口を開く。


「……詩の賢者、初めて聞くな」


 シグルドの言葉にティルは意外そうに目を見開いた。


「あれ? 知らないんだ、カルバリア砂漠連合出身の魔王と戦った勇士の一人だぜ」


 その話を聞きながら、シグルドはわずかに眉を動かした。


「……カルバリア商業同盟ではないのか?」


 その問いに、ガンバは静かに応えた。


「ええ、今はそう呼ばれています。ですが元は部族による連合でして、百と四十年ほど前に交易を軸とした同盟へと姿を変えたんですよ」


 ガンバの解説にシグルドは小さく頷いた。


「なるほど……となると詩の賢者とやらも随分と昔の話か。知らんわけだ」


「それでさ、その人も元々は詩人なんだけど、魔法も使えたらしくてさ。その腕を見込まれて魔王討伐に加わったんだ。なんか似てるだろ?」


 そうティルは笑いながら語る。


「確かにわしもこいつの魔法の腕を見て、相当な使い手だと見込んで誘いをかけたな」


 シグルドはそう言いながら、横目でガンバを見やった。


「私は詩の賢者ほどの使い手じゃないですけどね」


 シグルドの視線を受けたガンバは、どこかむず痒そうに肩をすくめながら話す。


「……では、せっかくです。私からはひとつ、詩を披露しましょうか」


 ガンバは一歩前に出ながら詠唱を始める。


「言の葉よ、詩となりて、万巻の知を紡げ──『書記』」


 詠唱を終え、ガンバは一拍だけ息を止め、やがて静かに口を開く。その言葉は声となって広がると同時に、淡い光を帯び、宙に文字として紡がれていった。



──魔王が討たれてより半世紀


魔は狂い、血は乾かず


平穏は騒擾の中に崩れゆく



魔王の力と共に分かたれし五魔具


寄り添うその時、魔王は再び顕現し


世は星なき空よりなお昏き闇へと沈む



だが忘れてはならない


朽ちぬ誇りをその身に刻み


なお剣を掲げし者がいることを



今こそ終わらせよ、この永遠なる輪廻


魔王よ、滅びて甦ることなかれ──




「……これが、今の英雄翁を詠んだ詩ですよ」


 言葉が終わった後も、光の文字だけが宙に残り、ゆっくりと揺れていたが、やがて一つ、また一つとほどけるように消えていく。


(これは……)


 シグルドはガンバの狙いを悟る。情報を出すことでティルの反応を引き出すつもりなのだろう。


「輪廻を終わらせる? 魔王の復活を止められるのか……?」


 誰かの呟きが、静まり返った広場に落ちた。


「ええ──魔王の復活の仕組みなら、すでに分かっています」


 ざわめきが一瞬で膨らむ。


「ほ、本当か……?」


「なら、どうすればいいんだ!」


 声が重なる中、ガンバはにこやかな笑みで静かに説明していく。


「へー、じゃあ五魔具を倒せばいいのか! 燃えてきたぜ!」


 やる気を見せるティルにシグルドは訝しげな視線を向ける。


(微塵も動じていない……まさか、自分が魔具と気付いていないのか?)


 あまりにも自然すぎる。作った反応ではない──本気で、自分が“討つ側”にいると信じている目だ。


「ずいぶんと乗り気だな」


 静かに口を開くシグルドにティルは満面の笑みを浮かべる。


「だってさ、魔王を完全に討ち果たすなんて偉業成し遂げたら英雄間違いなしだろ!」


 ティルは拳を握り、まっすぐにシグルドを見据えた。


「強ぇって認められたいし、ちゃんと名前も残したい──それが俺の夢だ」


 シグルドはしばし黙したまま、その瞳を見返した。


「……功名心を否定はせん。それはお前の心を支え、強さにもなるだろう」


 一拍置き、シグルドは視線を外さずに続ける。


「お前の信じた道こそお前にとっての最良の道だ、その信念を貫くといい」

 

 ティルはその言葉を受け、ぐっと拳を握った。


「おう! 魔王だろうが魔具だろうが、全部ぶっ倒してやるぜ! ……でさ、そいつらどこにいるんだ?」


 目の前にいる、とは流石に言えないシグルド。言葉を詰まらせていると横からガンバが静かに口を開いた。


「正確な所在までは掴めていませんが、魔物の異常行動や、人の動きの乱れ……これらは魔具の影響の可能性が高いです」


 その言葉に、ティルの口元がゆっくりと吊り上がる。


「つまりこの近くってことか、分かりやすくていいな」


 ガンバは小さく頷いた。


「以前、別の魔具が盗賊を率いていた例があります。こちらでも同様の動きをしているかもしれません」


 ティルは口端を吊り上げ、気合を入れるかのようにぐるりと肩を回した。


「へぇ……じゃあ盗賊のアジトを当たればいいってわけだ。それなら心当たりあるぜ」


 挑戦的な笑みを浮かべ、ティルが身を乗り出す。


「案内するからさ! 一緒に戦ってくれよ!」

 

 勢いよく言い切ったティルを、シグルドの冷静な一言が遮った。


「待て……お前、謹慎中だろうが」


 ティルは苦笑いしながら頬をかく。


「……うっ、まあ、それはそうなんだけどさ、やっぱ黙って見過ごせねぇし」


 シグルドはため息をひとつ吐いた。


「気持ちは分かるが、決まりを破るのはあまり感心はせんな」


 ティルは視線を逸らし、足元の土を軽く蹴る。


「……でもさ、その盗賊のアジトの場所、知ってんの俺だけだぜ。昨日、一人で動いてた時に見つけたし」


 シグルドはしばし沈黙し、やがて低く言う。


「……仕方ない、案内しろ」


 ティルは一瞬きょとんとした後、満面の笑みを浮かべる。


「やった! 任せてくれよ!」


 その様子を見ていたガンバは肩をすくめ、軽く笑いながら息を吐いた。


「……ずいぶんお優しいですね」


 シグルドはわずかに目を細め、やや不満げに返す。


「手掛かりを逃すつもりはない。それだけだ」


「ふふっ、そう言う事にしておきますよ」


 二人のやり取りをティルは気にも留めず、先へと歩き出す。


「なあ、じーちゃん達早く行こうぜ。あそこ結構遠いしさ」


 先へ急ぐその背に、二人は一瞬だけ視線を交わし無言で続く。


 朝の喧騒は変わらぬはずなのに、どこか落ち着かない空気が街に漂っていた。


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