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神さま、一発殴らせて頂いてよろしいですか?  作者: 崑崙
序章 神なき世界への追放
2/21

2話「こんな奴がいたら僕の世界がつまらなくなるじゃん」


 レイチェル・アラベスクはなぜ生まれたか。

 ぶっちゃけ、勝手に生まれたんだ。

 まぁ、突然変異ではあったけどね。


 当然だけど人間一人一人の精子と卵子とそれから遺伝子の管理なんて神の僕がしていられない。神の力でゼロから生み出したりもしない。


 基本、この世界では勝手に人間共が盛って子供を作って増える。


 でも、その根幹のシステムを作ったのは僕だ。

 遺伝子と遺伝子が交差して、親の特徴などを反映して、そこに多少の偶然を噛ませた結果、色々な可能性を持った人間を生まれるようにした。

 そして。

 そこにちょっとばかし、「神さま」である僕が手心を加えられるようにした。


 だって、あるがままに任せていたら、しょうもない「歴史」が紡がれてしまうかもしれないだろ? 

 最強の帝国がその最大武力を披露する機会に恵まれることなく、王が妾に刺されて死んで帝国が崩壊するとか。

 高名な学者が笑いすぎて死んだり、宴席でトイレに行くのを躊躇いすぎたせいで死んだりだとか――才能が下らない喜劇で潰されるのが僕は本当にイヤなんだ。



 優れた人間が生まれたら、その人間に華々しい歴史を作ってもらいたい!

 そして僕の世界をド派手に楽しくしてもらいたいんだ!



 だから僕は時代を作れるだけの人間が生まれたときには、そこに能力を「盛る」ことにしている。


 美貌、武力、知能、魔力、社交性、生まれて来る家柄――

 ただでさえ優れた能力を持つ人間にプラスαすれば、本当に誰も太刀打ちできない傑物が誕生するわけだからね。


 たしかに他の世界を管理している「他の神さまには、優れた人間が偶然誕生するのをひたすら待って、その人間がその人間なりの歴史を紡ぐのを見ているだけで満足――っていうタイプも結構いる。

 まぁ僕に言わせれば、そういうのは単なる根暗ヤローだけどね。

 自分の世界が大きくなっていくのを見ているだけでニヤニヤできる自然主義者共と僕は根本的に違う。

 僕は完全に「ドラマチックな歴史なんて簡単にできるわけがない派」なんだ。


 だってこいつらは人間だぜ?

 僕らが手を貸してやらないと、何千年も猿であり続けるような連中なんだ。

 だったら、あるがままに任せるよりは、傑物が生まれたとき、そいつに更に設定を盛って、僕が考える世界をより良くする登場人物として活躍してもらうのが一番手っ取り早いはずだ。

 僕の理想とする世界ができるはずなんだ!


 実際、その方法でこれまで世界は上手くいっていた。

 レイチェル・アラベスクが生まれる前は、ね……。



 レイチェルも「生まれながらにして活躍を保障された人物」の一人だった。

 突然変異って言っただろ?

 彼女は遺伝子の時点で恐ろしく優秀だった。彼女が生まれる未来を感じ取ったとき、僕は本当に心が躍ったものだよ。

 だから――今まで通り、様々な能力を盛りに盛った。

 加護やら祝福もたんまり付けてやった。


 調整はあまりに良い感じに進んだ。だから――楽しくなった僕はレイチェルにありえないほどたくさん「設定」を盛りまくってしまったんだ。



 そしたら、とんでもないことになった。



 レイチェルが三歳の時点で「オマエはどこの傾国の美女だよ」みたいな感じで周囲の大人を巻き込んで、戦争の火種を作り始めた時点でおかしいと思ったんだ。

 レイチェルの顔はたしかに超美少女だけど、所詮人だぜ? 三歳児に何マジになってんだよ、お前ら。しかも戦争になりかけた? もう少し成長してからなら前例があったけどさ……意味がわからなさすぎる!


 しかも、そのせいで結局、レイチェルは、誰とも婚約できずに終わった……。

 これが本気でありえない!!


 この時代の女の子ってのは、そこそこの年齢になる頃には嫁ぎ先が決まってるのが普通だろ。そういう社会として発展して来てるんだから。

 女は政治のための武器だぜ。どう話が拗れたら自由意志でレイチェルが相手を選べるようになるんだよ!?



 僕の予定だと、そもそもレイチェルはグロリア王国の王女になるはずだった。

 グロリア王国はこの時代では中堅国家ぐらいの立ち位置なんだけど、レイチェルの嫁ぎ先である王の時代に版図を大幅に拡大してもらいたかったんだ。グロリア王家は遺伝子の劣化がちょっとキツくてね。ただ国が滅ぶのはもう少し先が望ましかった。

 そんなわけで、優秀な王女を家系図に迎え入れる必要があったんだ。


 つまりは順当に国王がレイチェル争奪戦に勝って、息子のために彼女を宛がう筋書きを作っていたってわけ。

 

 そんな展望がレイチェル三歳の時点で破綻した。

 ちなみに、これを阻止出来なかったのは僕が昼寝からさめて気付いたら、もうレイチェルは四歳になっていたからだ(この辺りの事情は後から調べて知った。僕は神さまだけど、時間を巻き戻すことはできないんだ)。

 僕は悪くない。人間とは時間の感覚が違うんだ。

 


 だから仕方なく、何度も軌道修正をしようとした。

 レイチェルは年齢を重ねるごとに美しくなっていった。いや、違うか? 元々、容姿は最高のはずなんだから老いるまでは年齢がどうとかは関係ない気がする。

 僕の趣味、というよりは一般的な趣味嗜好の持ち主の好みに合致するようになったというのが正しい。


 とにかくレイチェルに興味を持つ人間はどんどん増えていった。

 だとしても、暮らしている国王の命令には逆らえないはずだと思った。

 僕は国王の精神に干渉して、レイチェルを自分の息子と婚約させるよう仕向けた。

 何度も、何度もね。

 具体的には46回ほど試みた。

 けれど、これが不思議なコトに……すべて失敗したのだ。


 ……これが歴史の怖いところだ。

 国王の精神に影響を与えることぐらいは余裕で出来る。

 でも、その頃には――レイチェルの存在があまりに大きくなりすぎていたんだ。



 本当に大誤算だよ。

 例えば今までレイチェルの自由意志に結婚相手を任せていたはずの王が、いきなり「うちの息子と婚約しろ!」なんて迫ってみろ。

 ぶっちゃけ――そんなことしたらグロリア王国が終わるんだ。



 レイチェルを欲しがっているのはかの王だけじゃない。他の貴族もそうだし、他国の王侯貴族だってレイチェルの恋愛事情には興味津々だ。

 レイチェルは「婚約禁止協定」で守られているからこそ均衡が保たれているとも言えるんだ。そんな彼女を独占しようとする? 協定を破って?

 ――レイチェルを庇護することを口実に戦争を起こすことだって普通に可能なのに?

 

 数万人を超える国民もレイチェルが大好きだ。そんなレイチェルが王の暴虐によって、無理矢理、王子と結婚させられそうになったら……余裕で革命を起こしかねない。


 もちろん、そのすべてに干渉することはできるよ。当たり前だ。

 僕は神さまなんだから。


 でも、そこまで手を出してしまうのは――世界を運営する楽しみをほぼ放棄するに等しい。

 やっぱりね。自分がなにもせずとも世界が自らの力で大きくなっていくのを見ているのはすごく楽しいことなんだよ(根暗な他の神に同意するようでちょっとイヤだけどね)。



 これは神さまに共通する習性なんだ。

 この世には僕も知らないような色んな神がいるんだろうけど、自分の世界が、民が成長していくのを見て、喜ばない神なんていないんだよ。

 抗うことはできない。


 実際、この世界はかなり良い感じに理想的な世界になりつつあった。

 レイチェル・アラベスクのせいで、そこに要らない干渉をするなんて以ての外だ。新雪は新雪のままにしておきたい。なにもかもを人工的な雪細工にしたいわけじゃない。



 だからこそ、あまりにレイチェル・アラベスクの存在は邪魔だった。

 世界はこのままだと「レイチェル前・レイチェル後」に分かれるほど、彼女を中心とした歴史が紡がれてしまう。



 ちなみに「生命力」「健康値」も死ぬほど盛ってあるから、レイチェルはたぶん100年は余裕で生きる。魔術師として研究を重ね、更に寿命を延ばす危険性もある。

 美しく、更に強く、ね……。

「天運」も最高クラスだから、何らかの偶然でコロッと弓や石に当たって死ぬこともないだろう。

 こんな奴が数百年も生きたら、世界にどれだけの影響を与えてしまうかわからない。

 これでは世界は――レイチェルのモノになってしまう。




「……レイチェル・アラベスク。僕の最高傑作にして、最悪の失敗作。君には消えてもらうしかないようだ」



 だから僕は、決意した。

 レイチェル・アラベスクを――僕の世界から排除することを。



 でも「殺す」わけにはいかない。

 今、レイチェルに「死」を与えれば、彼女の死を誰もが心の底から惜しみ、そして悲しみ――その嘆きは留めることのできない奔流と化すだろう。


 レイチェル・アラベスクは……存在そのものが「伝説」になる。

 誰の心からも、どの歴史からも決して消えることのない――英霊になってしまう。

 それでは彼女を排除した意味がない。


 レイチェルには、いなくなってもらわなくてはならない。

 だが、僕は知っていた――この世界にいる限り、レイチェルの輝きを潰すことはできないことを。

 


 だって、僕がレイチェルに()()()()()を与えてしまったからだ。

 なんといっても……生まれる前は「ただの可愛い女の子」だと思っていたからね。ついつい甘くなって、彼女には取り消し不可の超強力な加護を盛りまくってしまったのだ。


 世界は昏い。

 暗澹としていて、残酷で、人の倫理に囚われない外法は無限に存在する――

 人一人を消し去ることなんて、本当はすごく簡単なんだ。

 その繰り返しがこれまでの歴史を創ってきたといっても過言じゃない。

 

 たとえば、レイチェルを誘拐する。

 そして一生出られない牢獄に幽閉するんだ。殺してやることすらしない。

 最初は彼女の不在が、消失が騒がれるだろう。でも突然の「死」ほどは、人々は騒ぎ立てない。いずれ誰もが彼女の存在を忘れていく。

 そしてレイチェル・アラベスクのいない世界が再臨する――!




 わけじゃないから困ってるんだ……はぁ……。


 まぁ、つまり、そういうのもレイチェルには効かないってコト。

 レイチェルは攫われないし、毒殺も暗殺もされないし、あらゆる奸計も無効化する。

 そういう加護がある。天運もある。

 彼女の世界は明るさしかない。僕がそうした(なんて愚かな……)。

 

 だって、レイチェルを普通の偉人程度にするつもりだったからだ。きっと嫉妬に駆られた人間に、刺客を差し向けられることもあると思ったわけ。

 さっきも言っただろ? 

 僕は素晴らしい人間が、つまらない理由で破滅するのが大嫌いだって――


 ……そのせいでレイチェルを正攻法で世界から排除する方法はなくなったわけだけどね。

 だから、もう、これしか手段は残ってない。

 


 僕は虚空に手をかざし、ささやいた。



「来い――レイチェル・アラベスク」



 直接、僕自身が彼女に手を下す。

 神の力によって――彼女をこの世界から「追放」する。

 それ以外に、僕の世界を守る方法は……ない。



NEXT 3話「いなくなれ、レイチェル・アラベスク」


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