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神さま、一発殴らせて頂いてよろしいですか?  作者: 崑崙
一章 こうして私は世界に「爪痕」を残す決意を固めた
11/21

11話「王都セントレア」


「ほら、見てみて! レイ! セントレアの街が見えて来たよ!」


 約束から三日後。

 一年前までそうやっていたように、アラベスク家とデボワ家の中間地点にて機動馬車を乗り換え(両家の面子を保つため、人目に付く場所に移動するときは中立な移動手段を用いる習慣があるのだ)、私達はグロリア王国の首都であるセントレアを目指していた。


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《機動馬車》

 グロリア王国で広く用いられる移動手段。神なき世界における「車」に相当する乗り物で、非市街地における主要交通手段となっている。

 基本的には馬車と同じだが、客の乗る「キャビン」を引く馬が、馬用に調整された「力」と「堅牢」の魔導石によって強化されていることが特徴。

 この発明によって速度が上昇し、馬の負担も大幅に減った。また一台、もしくはそれ以上のキャビンを一匹の馬で引くことが可能になり、コスト面でも大幅な削減が可能になっている。

 ちなみに、この機動馬車自体はレイチェルが考案したものではなく、彼女が生まれる前から存在している。レイチェルは機動馬車に用いられる魔導石の改良法を考案した程度の関わりしかない。

------------------------------



「さすがに、この距離からはあまり変わっていないように見えますね」

「でも、中は結構違うと思うよー!」

「そうなんですか。楽しみにしておきます……!」


 グロリア王国の首都であるセントレアは、文化の中心地点だ。

 潤沢な魔導石が都市計画に用いられ、時には「眠らない街」と表されることもあった。


 私は「魔導機技師」としての肩書きも持っているので(厳密にはモグリだ。なぜなら国家資格を取れるのは20歳からだからだ。これは貢献が認められて、特例で商工ギルドのマスターが肩書きとして名乗れるようにしてくださったに過ぎない)、この一年で街が物理的に、どのような発展を遂げているかに興味があった。


 おそらく、新進気鋭の店で美味しいケーキを食べることを目的にやって来たシャルとは見たい場所が違う。


 私が見たいのは、主に道だとか街灯とか城壁、そして建造物そのものだ。


 眠らない街は、きっとこの一年で目まぐるしい発展を続けているはず。

 私一人がいなくなったとしても、それが変わるはずがない。

 絶対に。

 街の鼓動が一人の人間の有無程度でで左右されるはずがないのだ。

 

 私が先行している「魔導工学」、そしてそれを生かした「都市工学」というのは、大前提として非常に多くの人間が関わる事業である。

 一人でできることは、高が知れている。けれど何十、何百、何千という人間が力を合わせることで巨大な建造物を作り上げることもできる。

 そこに個人のちっぽけさを感じると同時に、私はそれこそが素晴らしいことだとも思っていた。

 


 私は異様なまでに、何でも出来る人間だった。

 今となっては神さまがそんな風に私を創ったからだとわかってはいるが、少し前までは……どうしようもない孤独に襲われることも珍しくなかった。


 だって、何でも出来るということは、「他人と協力する必要がない」という意味にもなるから。

 支えられることも、手を貸されることもない。

 それはある一面だけ見れば、良いことだ。けれど同じくらい――寂しいことでもあると私は思う。


 もちろん、私が何でも出来てしまっても「もうあいつ一人でいいんじゃないかな」なんて、誰も言わなかった。

 私の周りの人は、誰もが優しかった。人間関係にすら謎の祝福が掛かっていたのかもしれない。


 けれど、私は。

 私自身は、ずっと居心地の悪さを感じていた。


 全能に浸れるほど、私の「何でも」は生半可なモノではなかった(本当に神さまも罪なコトをされたものだ……)。


 だからこそ、私は数ある魔法の分野の中で、大規模な都市開発に用いる大型魔導機の製造・考案を手掛ける「魔導工学」に興味を持った。


 都市や巨大建築物は、一人では絶対に造ることはできない。

 複数の人間が集まって、何日も時間を掛けて造り上げるものなのだ。この界隈なら、私は他人と協力することができる。手と手を合わせて、一つの目標のために切磋琢磨ができる!

 それが魔導工学の一番の魅力だとすら私は感じていた。

 けれど――


「これは…………」


 ――いったい、どういうことなのだろう。


 機動馬車の発着場についた私達は、馬車を降りて、街へと繰り出した。

 だが、街並みが目に入った瞬間、私は思わず眉をひそめざるを得なくなる。

 

 ――なんだか街並みが「ぼやっ」として見えたからだ。


 私は思わず、隣に居たシャルに声を掛ける。


「……シャルは一人でもセントレアに来てましたよね?」

「ん? そりゃ、そうだよー。ブノワ領ってどこ行っても農地ばかりだもん。栄えてるところで遊ぶなら、セントレアまで行く方が良いし」

 

 シャルの実家であるブノワ家の領土はグロリア王国随一の農業地帯として知られている。

 一方で、娯楽や文化などはあまり栄えていない。

 機動馬車の発達もあって、隣接したグロリア直轄領に行く方が楽だと領民どころか領主の娘まで思っているわけだ。


(一応補足するとグロリア王国というのは領地を持つ貴族達がそれぞれいて、その上にグロリア王家が君臨している形になる。

 つまり、グロリア王国は神なき世界で例えるなら「日本」に該当する。そしてアラベスク領は日本における「名古屋」ぐらいの立ち位置で、ブノワ領は「山梨」ぐらいだ。そしてグロリア直轄領というエリアも存在し、これが「東京都」。その首都であるセントレアが「東京駅周辺」に該当するという感じのイメージになる。微妙に違うところも多々あるが)


 しかし、今私はブノワ領が娯楽不毛地帯であることの再確認を行いたかったわけではない。セントレアの街に入ってすぐに、私は信じられない物を目撃してしまったのだ。

 私は小さく咳払いをして、シャルに尋ねた。 


「では――()()()は、ずっとこんな感じでしたか?」

「……んんん?」

 シャルが首を傾げる。ブノワ家特有の鮮烈な赤髪がさらりと揺れた。

「えっ。橋って言うと……今、私達が渡ってる、この橋?」

 両手の人差し指を真下に向け、シャルはつんつんつんと何度も下方向を指し示した。


 私は頷いて、

「はい。まさにこの橋です」

 もう一度、質問の具体性を上げて、尋ねた。



「この橋――『セントレア大橋』と言うのですが、()()()()()()()()()()()()()()()()()……もしシャルが気付いていたのなら、話を聞かせてもらいたいのです」



 

 NEXT 12話「崩れてからでは遅いんです」

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