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ルーペルト・クリスタ外伝23


 結界の手前。

 皇帝レオナルトは近衛騎士団を率いて待機していた。


「SS級冒険者のクロエとイングリットが城にて古代魔法文明について調べていますが、いまだ解決策は見つかっておりません。外部からの攻撃を吸収してしまう結界のようで、攻撃は今のところ意味はありません」

「南部国境守備軍は?」

「こちらとは反対側、南の結界ギリギリにて待機中とのことです。報告では先行していたランベルト隊長、フィン隊長を含む第六、第八近衛騎士隊、十八名が結界内への侵入に成功した模様とのことですが、正確なことはわかっていません」

「彼らなら問題ない。間に合ったと仮定すると、中の戦力はそれなりか……」


 二人の近衛騎士隊長にクリスタがいるならば、リタ、ラース、ジークもいるだろう。

 本来なら援軍など必要ないほど戦力は揃っている。

 けれど、クリスタは紫の狼煙を上げた。

 必要だからだ。

 この戦力でも足りない何かが中で起きている。

 すぐにでも駆け付けたいが、結界が邪魔をする。

 微かな苛立ちを覚えながら、レオナルトは剣を握りしめた。

 そんな中、伝令がやってきた。

 城からのものだ。


「クロエ殿、イングリット殿より報告でございます! 発動した古代魔法文明の遺物はドライエックという召喚装置とのことです! 効力は七日間続き、古代魔法文明は魔力切れが起きるまで戦い、その後、封印したそうです!」

「結界については?」

「破る手段は見当たらないとのことです!」


 レオナルトは伝令を下がらせると、深く息を吐いた。

 古代魔法文明が魔力切れまで戦う羽目になった相手ならば、同じ状況を想定しなければいけない。

 だが、外から援軍は送れない。

 外から破れない結界の場合、対処は一つ。


「中に期待するしかないか……」


 自分の無力さを感じながらレオナルトは呟くのだった。




■■■




 二日目にアロイスたちの援軍が到着し、防衛戦はだいぶ楽になった。

 ヴェヒターの防衛に参加していた者たちは疲労困憊だったため、三日目は完全にアロイスたちが主力となり、ヴェヒターを守り抜いた。

 そして四日目の昼頃。

 休養中だった城壁組がようやく復帰し始めていた。


「大丈夫? ルート……」

「平気だよ。傷もセラが治してくれたしね」

「私の力は傷を治すだけで体力まで元通りにはならないわ……ほかの人も……」


 セラは心配そうにルーペルトを見つめる。

 セラの先天魔法は傷を治すが、体力まで戻らない。

 そして城壁で戦っていた者たちはほとんど休む暇もなく戦っていた。

 少しだけ休める時があっても、敵の襲撃を警戒していたのだ。

 まったく精神が休まらない中で戦っていたのだ。

 それが一日ちょっとの休息で回復するとは思えない。

 けれど、彼らは自発的に城壁へ向かっていた。


「大丈夫。必ず何とかするから」

「でも……」

「僕を信じて」


 そう言うとルーペルトはセラと別れて城壁へ向かった。

 セラの能力は希少なため、前線には出せない。

 重傷を負った者が後方に下がった時の治療要員として、後方に残ることが決まっていたのだ。

 そんなセラに見送られ、ルーペルトは城壁と上る。

 そこではアロイスが陣頭指揮にあたっていた。

 アロイスの近くで戦っていたリンフィアがルーペルトの姿を認めると、スッと下がってルーペルトの傍までやってくる。


「状況は?」

「今のところ問題なく防衛できております。クリスタ殿下の回復を待ち、結界を発生させているモンスターに総攻撃をかける予定です」

「あね、いや、殿下はどれくらいで回復する?」

「そろそろかと」


 リンフィアの言葉にルーペルトは頷く。

 最大戦力であるクリスタの回復を待ったのは正しい。

 甲羅付きは二体。

 一体は外側からの援軍を遮断しており、もう一体はその甲羅付きを守るようにして結界を張っている。

 あれを破らないことにはいくら近づいても無意味。

 だが。


「敵の様子は?」

「変化ありません」

「変化なしか……まずいな」


 これまで幾度も進化してきた敵が一日以上、変化なし。

 ここが打ち止めという考えもあるが、ルーペルトはそこについて楽観視することはできなかった。

 こちらが対策を考えるように、敵も対策を考えている可能性がある。

 そんな風にルーペルトが思った時。

 空にクリスタが上がった。

 それを見て、アロイスが号令を下す。


「殿下が回復なされた! これより打って出る! 騎馬隊準備!」


 士気は高い。

 騎士たちはすぐに馬の準備へと取り掛かる。

 だが、すぐに皆の足は止まった。

 ドライエックが大きな音を立て始めたからだ。

 そしてドライエックから蜘蛛たちが這い出てくる。

 止まることのない召喚。

 通常の蜘蛛と羽根つき。双方合わせておよそ三万。

 それが甲羅付きを守るように布陣していた。

 あまりの大群に城壁の上で腰を抜かす者も出始めた。

 誰もが思ったのだ。

 あの大群に突っ込んでいくのは自殺行為だと。

 実際、戦力差は如何ともしがたい。

 アロイスが率いてきた六千の騎士に加え、ヴェヒターを守る一千の守備兵を加えても七千。

 しかもこれは数だけを見ただけ。

 その中には今、戦えない者もいる。

 突撃するのはあまりにも無謀。

 ゆえに。


「……突撃中止! ヴェヒターの防御を固める!」


 アロイスは判断を下した。

 それは敵の魔力が切れるまで、消耗戦に付き合うという決断。

 そちらのほうが勝算が高いと思ったのだ。

 敵の三万の中には見たことがない蜘蛛もチラホラと見えている。

 おそらく進化した個体。

 あれに突っ込んで戦力を損耗した場合、さきに力尽きるのはこちら側。

 だが。

 ルーペルトは違った。


「いや、打って出る!」




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