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ルーペルト・クリスタ外伝7


「ジンメル侯爵? 領内の西側に行ったはずだよ。ここらへんの高ランクモンスターが軒並み、そっちに移動してね。西側は今、大変なことになってるそうだ」


 観光都市ヴェヒターの宿屋。

 そこの店主から話を聞き、ウォルフは盛大にため息を吐いた。


「ってことは大物は西かよ……しかも領主が追いかけたってことは討伐されてる可能性もあるのか……」


 肩を落とし、ウォルフはやる気をなくしたように自分の部屋に戻ってしまう。

 残されたルーペルトとセラは苦笑しながら、今後のことを相談する。


「セラはどうするの?」

「しばらくここに留まるわ。モンスターを追ったということは、モンスター次第じゃまた違うところに行ってしまうから」

「それがいいね。じゃあ一緒に街を見て回らない?」

「お気楽なのね? 私は暗殺者に狙われてる女よ?」

「観光地で狙うほど愚かじゃないはずだよ。それにもしも狙われたとしても、二人でなら対処できるでしょ?」


 だから二人で観光しよう。

 そう言って手を差し出すルーペルトを見て、セラはため息を吐きつつ、その手を取るのだった。




■■■




 ヴェヒターの観光スポットは、絶景を誇る湖と、歴史ある建物の数々。

 帝国成立以前からの建物が現代でもそのまま使われており、いたるところに遥か昔を感じることができる。

 現代の建築様式とは違う建物を見つつ、現地の食事を堪能する。

 観光地として名を馳せているだけあり、食事の質も一級品。

 食べ歩きだけでもしばらく楽しめそうだなと感じつつ、ルーペルトとセラは街の中から湖を一望できるスポットにたどり着く。

 確かに絶景だ。

 今は夕方のため、夕日が反射して幻想的な光景が展開されている。


「うわぁ……」


 ルーペルトはその光景を見て、目を輝かせる。

 この程度の光景は見飽きたはずだった。

 けれど、今まで見たのは強力な護衛たちと共に馬車でやってきて、周囲の安全を確保したうえでの光景だった。

 今は違う。

 自分の足でやってきた。

 周囲には自分と同じように絶景を見て、目を輝かせている人たち。

 所詮、景色は景色だ。

 けれど、感じ方は違う。

 今のほうが感動は大きい。

 充実感が違う。

 誰かに連れてきてもらったわけじゃない。

 自分で選択して、自分でやってきた。

 世界の広さを感じられている。

 だが。


「嫌な感じ……」

「えっ?」


 横から聞こえてきたまさかの言葉にルーペルトは固まる。

 世の中にはそういう女性もいるのか、とルーペルトがショックを受けつつ学習しかけた時。


「あの湖から嫌な感じを受けるわ……」

「嫌な感じ?」

「そう、嫌な感じ……そうとしか言い表せないわ」


 セラの言葉を受けて、ルーペルトは考え込む。

 セラが変わった感性を持っているという可能性もあるが、他の人に気づけないものを察知している可能性もある。

 多くの場合、先天魔法を持つ者は微弱な魔力の変化を感じ取れる。

 ルーペルトの姉のように。


「とりあえず離れよう」


 セラの具合が悪くなる前に、ルーペルトはそう提案して素早くその場を離れた。

 ルーペルト自身も多くの変化に反応できるほうだ。

 流れる血がそうさせる。

 だが、ルーペルトは何も感じなかった。

 にもかかわらず、セラは見ただけでそれを感じた。

 長く見ていたら体調に影響しかねない。


「似たような感覚って前にもあった?」

「そうね……古代遺跡を見たときに同じようなものを感じたことがあるわ」

「古代遺跡……」


 セラの言葉にルーペルトは目を細めた。

 古代魔法文明時代の遺跡は現代では考えられない力を残していることが多々ある。

 もしもアップグルント湖がその類だとしたら、厄介なことになるかもしれない。


「気になるから調べてくるよ。セラはウォルフと宿屋にいて」

「私も行くわ……」

「軽く調べるだけだから平気だよ。大丈夫」


 心配するセラの手を握り、ルーペルトは笑顔を浮かべる。

 セラは顔を曇らせるが、ルーペルトは大丈夫と言い続けてセラを宿屋に帰すのだった。




■■■




 アップグルント湖の周辺。

 明るいときであればボートで湖中央まで行くこともできる。

 そこにルーペルトはやってきていた。

 とりあえず湖の周囲をグルリと見て回る。

 古代遺跡関連なら近くに跡地のようなものがあるかもしれない。

 そう思っての行動だったが、わかりやすい跡地のようなものはない。

 ただ。


「魔力……?」


 注意して湖を観察すると、少しだけ湖から魔力を感じられた。

 近づくまで気付かなかったのは、本当に微弱だったから。

 それが発せられるのは暗く、深い湖の底。


「なにかあるな……」


 見えないが、この湖には何かある。

 ただ、ルーペルトが気をつけないと感じられないレベルだ。

 本来、注意するレベルではない。

 それでも嫌な予感が拭えなかった。

 顎に手をあて、ルーペルトは湖の前で考えこむ。

 湖から感じる魔力。

 それが何を意味するのか?

 底に何かある、ということだ。

 生き物かもしれないし、人工物かもしれない。

 ただ、何かが底にある。

 自分だけならそんなものかで流すが、セラの反応が引っかかった。

 とはいえ、調査しようにも人手が足りない。

 潜るにしては深すぎる。

 下手に調査した結果、何かを目覚めさせる可能性もある。


「さて、どうするか」


 自分の人脈を生かして誰かに調査を依頼するか?

 しかし、帝都はいろいろとゴタゴタしており、南部はモンスター問題で手一杯。

 気になったからといって仕事を増やすわけには……。

 そこまで考えて、ルーペルトは静かに目を閉じた。

 そして。


「高ランクモンスターが移動したのは、セラと同じ感覚を得たから……?」


 今のモンスター騒動の始まりは高ランクモンスターの謎の移動。

 だが、その原因がこの湖なら?

 セラと同じく嫌な感じを覚えて、モンスターが移動することもあるだろう。むしろ人間よりモンスターのほうが些細なことに気づきやすい。

 彼らの本能が移動を促したとしたら?

 そうなると。


「ここ最近になって魔力が発せられるようになった?」


 ずっとここで魔力を発していたわけじゃないなら、湖の底にある何かが活性化したことになる。

 それが南部の騒動の根本だとするなら。


「しっかりと調査したほうがいいか」


 調査する価値はある。

 すべてが繋がっているなら。

 そのことに気づいた時。

 ルーペルトは右手を剣の柄にかけていた。

 周囲を囲まれていたからだ。


「嫌な予感は当たってたか……」


 ルーペルトは呟きながら、素早く剣を抜き放つのだった。



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