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第十話 皇帝即位




「新皇帝陛下万歳!!」


「レオナルト陛下万歳!!」


「帝国万歳!!」




 帝都。


 その大通りを馬車が通っていく。


 民たちが新皇帝を一目見ようと、殺到している。


 今日は皇太子レオナルトの即位の日。


 すでに実権はレオに譲られており、これによって名実ともにレオは帝国のトップとなった。


 この日を待ちわびた人々にとっては、ようやくといった感じだろうか。




「こんなところじゃなくて、もっと傍で見ればいいのに。お師匠様」


「ここで良いんだよ」




 城壁の上。


 遠目からレオを見つめていた俺の傍にやってきたのは、クロエだった。




「クロエこそ傍にいかなくていいのか? SS級冒険者として皇帝と仲がよいのは大事だぞ?」


「そう言われてもねぇ。殿下、あ、もう陛下か。陛下は冒険者ギルドにはまったく関与してこないから。こっちも無理して接近したりしないっていうのが今の冒険者ギルドのスタンスなんだよ」


「クライドも大変だな」


「戻ってきてほしいって言ってたよ? ギルド長が。人手足りな過ぎて」


「俺がギルドの傘下に入ったら、ギルドが力を持ちすぎる。無理な相談だ」


「強いっていうのも考えものだね」


「その強さはもうないがな。今はクロエと大差ないさ」


「あたしも強くなったはずなのに、なんか複雑……」




 クロエの呟きに苦笑しつつ、俺は風が揺らいだのを感じた。


 そして新たな客人たちがやってきた。




「間に合ったか」


「危うく遅刻じゃったな」


「ジジイのせいだろうが」


「ジャックとて二日酔いで潰れ取ったじゃろうが!」


「俺はそれでも道には迷わなかった!」


「はぁ……」


「いらっしゃい、イングリットさん」


「ご迷惑をかけます、クロエ。主にこの二人が」




 新たな客人は三人のSS級冒険者。


 帝国の皇帝が代替わりするというのは、大陸の一大イベントだ。


 一目見に来たのは理解できるが。




「正式に手続きすれば全員、招待だろうに……」


「堅苦しいのは苦手じゃ」


「賓客として椅子に座るのは性に合わねぇんだ」


「私は、しっかりと、そうするべきだと、主張しました」




 言葉を切りながら、イングリットが自分は違うと言ってくる。


 まぁ、ここに合流しているということは、自分だけ正式な賓客として出席するのは嫌だったんだろう。


 エルナとの一騎打ちで帝国ではイングリットも人気があるしな。


 騒がれるのを好むタイプでもない。




「まぁ、予想通りだ」


「これはこれは。皆さま、おそろいですな」




 音もなく現れたセバスは、両手にお盆をもっていた。そのお盆には料理が乗っていた。


 事前に手配していたものだ。


 どうせ、人は増えるだろうから多めに。




「おいおい、豪華な客席だな」




 セバスとは別に城壁に上がってくる人物が一人。


 その両手には酒が握られていた。




「来たか、ガイ」


「酒もってこいっていうから何事かと思ったら……」


「おお! 酒が来たわい!」


「じゃんじゃん持ってこい! ほら! じゃんじゃん!」


「……すみません」


「ガイさん、手伝います」


「悪いな、クロエちゃん。下にまだいくつかある」




 酒が来たことでテンションの上がるエゴール翁とジャック。


 それを見て、保護者のように申し訳なさそうにするイングリット。


 そんな三人のSS級冒険者を尻目に、セバスが料理を運び、ガイとクロエが酒を持ってくる。


 ある程度、運び終えるとガイが俺の隣に腰を下ろした。


 そして酒を手渡してきた。




「さて」


「それじゃあ」




 二人で酒を大通りのほうへと向ける。




「「レオの即位を祝って」」






■■■






 帝剣城。


 その玉座の間に家族が勢ぞろいしていた。ほかの者は気を遣って、今は別室に控えている。


 父上と母上、そしてジアーナ義母上。


 トラウ兄上、リーゼ姉上。


 クリスタとルーペルト。


 そして俺とレオ。


 帝位争いが始まったとき、六人いた妃は二人となり、十二人いた兄弟は六人となった。


 あと一名、この場にいる資格を持つ者がいるが、その者は決して名乗り出ない。それが自分なりのケジメであると思っているから。


 声はかけたが、来る気はないらしい。


 今は連合王国にいる義姉上と姪のことも含めて、いずれ打ち明ける日が来るのかどうか。


 それは本人にしかわからない。


 ただ。


 打ち明けたとしても、この場にいる家族は受け入れるだろう。


 その程度で崩れるほど脆い絆ではない。


 玉座に座るレオ、その前に立つ俺。


 左右には家族が立っている。


 そんな中、俺は静かに膝をついた。




「レオナルト陛下の即位を喜び申し上げます」


「感謝する……〝ファルケシオン銀爵〟」




 ほぼ使われることがない俺の家名。


 あえてそれを口にしたのは、区切りのため。


 俺が立ち上がると、レオはニッコリと笑った。


 笑みを見て、俺もニヤリと笑う。




「即位おめでとう、レオ」


「ありがとう、兄さん」




 帝位争いに加わると決めた時。


 あの時もこんな構図だった。


 あの時と違うのはレオが座る椅子が玉座に変わったこと。


 ゴールにはたどり着いた。


 理想の皇帝。


 俺の自慢の弟を皇帝まで押し上げた。


 けど。


 此処がすべてのゴールじゃない。


 時代は続く。


 皇子としてのレオナルトの時代は終わった。


 今日は皇帝としてのレオナルトの時代。


 だから。




「さて、これからどうする? 方針を示せ」


「うーん、まずは家族で食事でもどうかな? 互いに妃を待たせているわけだし」


「悪くないな」




 互いに笑い合うと、レオは玉座から立ち上がり、そのまま俺の傍へと歩いて来る。


 そんな俺たちの下に家族もやってきた。


 他愛のないことかもしれない。


 けど、欲しかった家族の団欒はここにある。


 笑顔がある。


 先に逝った人たちが守り抜いたものがここにある。


 これからはそれを守る時間だ。

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