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2話 『夢見心地』

ブクマしてくださるととても喜びます。はい、よろしくお願いします。ありがとうございます。

今日はゴキブリ酒場の話です。


 家の扉に(もた)れかかって20分ぐらいすると、友人がいきなりドアを開けてご飯に誘ってくれた。

 外開きで良かった。


「何してんの?」


 俺を見下ろし、彼は言う。


「泣いてた」


「おぉおぉ。泣いてるときは寝るか食うかするのが一番だぜ。飯行こう」


 彼はいつも深く聞かない。とてもやさしい。だから俺も深く考えない。


 夕暮れのオレンジに眩しさを覚え、俺は俯きながらボブについて行った。そして、一番近くの酒場に来た。

 店全体が重厚感のある黒っぽい木材で彩られており、そこを黄色っぽい照明が照らしている。点滅する光源が渋い雰囲気を作っていて、どことなく開拓時代の酒場っぽい雰囲気だ。


 ここはこの村で一番店が汚い。机は揚げ物より脂っぽいし、なぜか床に摩擦がない。ゴキブリが居そうなものだが、普通に居る。

 これでも割と人気があるし、客のガラもちゃんと悪い。今日も何人か顔を知ったガラの悪い人たちがいる。だけど、友人がいたのには驚いた。

 ただ、彼女は俺を見ても少し動揺するくらいで話しかけてこない、ただ座っているだけだった。俺が友人といるから話を邪魔しないように、というタイプでもない。多分今日は関わらないほうがいいのだろう。


「ギャハハ! また世間知らずのガキが来たぜ? お家に帰ってまんまのミルクでも飲んどけボケがッッ!」


 一瞬俺たちに言ったのかと思った。

 普通にゴキブリに挨拶している人だった。

 普通ってなんだ。


 ここの空気感はいい感じに頭を悪くできていい。なんだか頭が痛くなるほどに頭が悪くなる。なんだか変な感じがする。そういえば、頭が悪いというのは知能の低さだけでなく頭の体調不良も示すのだった。忘れていた。

 しかしながら、頭が悪いというのは二つの意味を持ちながら二つの意味を含んでいるわけではない。

 頭が悪くて頭が悪い人に、頭が悪いあなたは頭が悪いのですね、と言わないと伝わらない。なんだか頭の体調がますます悪くなってきた気がする。

 というか頭なのに体調不良なのか? 体なのか頭は。

 なんだかここの空気を吸っていると心が胃もたれする。


 サラダセットを2つ注文して、俺たちは丸テーブルの4人席に座った。


「にしたって、レクサスは記憶力がいいよなぁ」


 俺の横に座ったボブが、頬杖を突きながら俺に言った。


「そうか?」


「そうだって。ぜってー普通じゃない」


 話す俺たちを無視して、店主が水の入ったガラスのコップを置いた。なぜロックグラスなのだろう。


「別に普通だ。生きてたらなんとなく覚えられるだろ」


「いーや幼馴染として言っておく。お前は頭がいい!」


 声がでかい。


「頭の良さと記憶力は別だろ」


「そういう事言うのも頭いい感じがする!」


 声がでかい。


「オレはお前よりお前を理解していると自負している!」


「声がでかい」


 店で大声を出すのは素行が悪い。ゴキブリでさえそこら辺のマナーはわきまえている。


「……あ、悪い」


 ボブは額を掻きつつ、ささやき声で言った。言ったことを素直に聞くのはいいが、こいつの場合徐々に声が大きくなる。

 ただ、俺を慰めようとしている心意気は伝わる。とてもやさしい。


 俺はグラスを持ち上げて水を飲んだ。なぜか妙にしょっぱかった。

 まだ心は落ち着いていないらしい。


「……ところでよぉ」


「好きな人でも居んの?」


 ロックグラスを落として割りそうになったが、何とか耐えた。

 グラスの方が。


「おいおい、水飲んでる最中に聞いたオレも悪かったかもしれねぇけどよお。何も落とす事ぁねぇだろ」


 動揺を隠すために、すぐハンカチで濡れた机を拭いた。相手がボブだから大丈夫、多分大丈夫、きっと大丈夫。バレないはず。


「『面白い人は、一度見たら忘れないんですよ』」


 めちゃくちゃ強引に話題を変えた。ボブはこれに違和感を持つし、ボブは深く考えないからこれでイケる。


「なんだあ、急に女々しい喋り方だな」


「最近友人になった人が言っていた」


「ふ~ん……ん?」


「女の人?」


「え? そうだけど」


「好きな人?」


「違う違う、違う、違う、違う」


 焦りすぎて変える話題をめちゃくちゃ間違えた。


「お前女とっかえひっかえしすぎだろ」


 ボブが眉間に手を当てた。これは多分、冗談で茶化しているとかじゃなくマジに言っている。

 ……彼女は普通に友達なんだが。


 というか……


「俺ってそんなイメージあるの?」


「よーく思い出してみろ、今まで何人の女と関わってきた?」


「母親と」


「ノーカンだろそれは」


「てかそもそも誰なんだよ新しいその『友人』とやらは」


「……マリアさん。知らない? 宿屋の受付してる子。ほら、目がぱっちりしてて、茶髪の……」


「あぁ! あの胸がでか」


 俺は迷わず脇腹に肘打ちした。


「いてぇ! 何するんだよいきなりよぉ!」


 とりあえず、俺は親指で斜め後ろを指した。

 さっき俺の友人が座っていた所だ。


「……?」


 ボブが訝しむように後ろを向いた。


「あ」


「セーフか?」


「顔に書いてあるんじゃないか?」


「あっち向いてる、セーフだ!」


「その事実がアウトなんだよ」


「はいよ。サラダセットおまち」


 浅黒い店主が俺たちの前にサラダを置いた。

 さまざまな葉野菜を薔薇の形のように並べたサラダ。下には細切りのダイコンが見える。上にはシーザードレッシング。

 なんだこれは、空間に対して浮きすぎている。提供スピードも3分くらい。なんなんだその技術は。

 というか、なぜサラダだけでセットを名乗っているんだ。


「よし食うか」


 切り替えが早すぎる。なんなんだこの男は。


「この店のサラダ、なんか腹立つぐらい美味ぇんだよなぁ」


「胃もたれしてるからだろう」


「……」


「そういう商売だったのか……!?」


 どうやらこの店で胃もたれしていたのは俺だけではなかったらしい。


「……てかよお、なんでこんな店に女がいるんだ?」


「別に居てもいいだろ」


「……悪いってんじゃねぇよ。でも普通こねーだろ」


 ボブは思い出したようにささやき声になった。口の横に手を置いて、こそこそ話している。

 ボブはボディランゲージをいっぱいするタイプの人だ。


「そもそもこの店に客が入ってる事自体普通じゃないと思う」


「まぁでも、飯食いながら寝てるような感覚になるし、オレは結構気に入ってるぜ」


 夢見心地と言うのは違和感があるが、頭がふわふわした感じになる。気に入ってる気持ちはわかる。


「同感」


 しかしながら、普通の感覚であればここには来ない。俺がここに来る時も決まって傷心中の時だ。


「……何か辛いことでもあったのかな、マリアさん」


「お前……そういうトコだぜ」


 まぁ言わんとすることはわかるが、人を心配する気持ちを下心のように悪くとらえられるのはちょっと悲しい。


 ……ただ、傷心中ではなさそうだ。マリアさんは俺たちが店についた時点で何も食べていなかった。


「……この提供スピードってことは、マリアさんはまだ注文をしていない」


「それがなんだよ?」


「この店の雰囲気に溺れて夢を見るなら、サラダまでがセットだ」


「傷心中ならなおさら、店に来てすぐ注文するだろう」


「つまり?」


「誰か待ってるんじゃないかってこと」


「へぇ……この村に平常心でここに来れる猛者が、オレ以外にもいたのか」


 斜め後ろのマリアさんを見ながら、ボブは吟味するように腕を組んでいた。

 ……気づくと、ボブはサラダを食べ終わっていた。

 俺も早く食べ終わらないと。

 急いでサラダを掻き込み、少し気分の悪さを覚えながら立ち上がった。


「……帰ろう」


「えぇ~…もうちょっとゆっくりしてこうぜ」


「別にいいだろ、もう帰ろう。俺奢るからさ」


「マジ? じゃあいいか」


 相変わらずボブは深く考えない。俺に寄り添うために連れてきてくれたのに、いつの間にか俺が奢ることになっている。最初、彼は俺に奢る気でいたはずだ。というか、前この店に連れてきてくれた時はそうだった。

 そういう深く考えないところが好きなのだが……時々、もう少し考えてほしいと思う時もある。今回の場合とか。


 俺はカウンターに近づいた。


「会計で」


「はいよ、10リンね」


 リンゴ8個分。サラダ1つにリンゴ4個。田舎のくせして結構強気な価格設定だ。まぁ雰囲気代として払っておこう。


 ……チップどうしよう。選択がこちらに任されるのは苦手だ。

 ただ、泣いていた心が胃もたれで落ち着いた。お礼の意味を込めて、いっぱい払った方がいい、きっと。

 店主の居るカウンターにサラダ代以上のチップを置き、ドアの前で待っているボブに近づいた。


「……そういえば、この店なんて名前なんだ?」


「結構来てるけど知らねぇんだな」


 正直、傷心中は周りが見えなくなる。だから店の名前も知らなかった。


 ボブは少し驚いた表情を浮かべながら顎に手を当てる。

 そして、少し微笑みながら言った。


「『開拓酒場ウエストン』って言うんだぜ?」


「なかなかイカす名前じゃねぇ? そういうのも含め気に入ってるんだぜ、このオレは」


「……」


 変な所はあった、というか、変な所ばっかだった。

 不自然な雰囲気、ガラの悪い客、ちょうどいいタイミングで現れるゴキブリ、なぜかロックグラスのコップ……そして、店名。


「…」


「どうした? また泣きそうか……?」


「……この店」


 そもそも、メニューの値段設定もおかしかった。他の店でサラダ食ったら普通リンゴ1.5個分くらいだ。田舎だから物価は安い。なぜ都会よりちょっと安いくらいの価格設定なのか疑問だった。


 そういえば、前来た時も何人か若者がいた。何回か来てもガラの悪い人か、若者しかいなかった。

 若者に人気があって、その中にガラの悪い人がいて、そして、そのガラの悪い人は前来ていた時も居た。

 多分あれは従業員だった。ギャハハおじさんはあれで仕事をしていた。


 つまり、つまりこの店は……


「コンカフェかよ……」


「あんだぁそれ」


 片方の瞼を少し下げるボブを尻目に、俺は外に出た。

 眩しかったオレンジの夕暮れが、なんだか温かかった。

 なんか、開放感がある。

 たまには雰囲気に溺れるのも悪くないけれど、溺れすぎて呼吸がうまくできていなかった。


 悲観的になりすぎていた。現実を見ているつもりが、悪夢を見ているなんてこともあるのかもしれない。

 悲観も楽観も、溺れすぎたら体調が悪くなる。もっと今を見る目を養わなくては。


 ……コンセプトカフェがどこもこんな感じなのかは知らないが、開拓時代の酒場をコンセプトにしているならこんな感じなのかもしれない。俺が知っている開拓時代とは結構違うようだが……この村で新しい風を吹かせようとしているという点では、開拓酒場、なのかもしれない。


 ただ、ドアが普通の店と同じなのは少し気になる。虫が入ってこないようにしているのだろうか。


「おいおい。やっぱお前いつか刺されるんじゃねぇか…?」


 ボブが店から出てきた。


「…? なんで」


「あの……女の人、名前なんだっけ」


「マリアさん?」


「そう! マリアさんがよぉ、レクサスにお礼言っといてって言ってたんだ! お前何したんだよ……」


「……」


「言わない」


「んだよ。気になるなぁ」


 首元を掻きながら、ボブは怪訝な顔を浮かべた。

 しかし、すぐに表情を変える。


「まぁでも、話したくねーんだったら別にいいぜ」


 口元の片方の歯を見せるように笑い、彼は俺の肩に手を組んだ。


「次は奢るからよ。また泣いたときは飯行こうぜ」


「次はもっと楽しめそうだな」


「……ただ、時間帯は考えたほうが良いかもしれない」


「なんで?」


「友人の邪魔はしたくないからな」


「…?」


 ……マリアさんは恐らく彼氏を待っている。そんな場に友人が居たら気分が悪いだろう


 少し前、交友関係を広め誰かを理解しようとする意識を持っている彼女は、俺に人の覚え方を聞いてきた。


∇  ∇  ∇


 少し前、エレーナさんと散歩をしていたら、マリアさんが話しかけてきた。


『あの、すみません。レクサスさん……で、よろしいでしょうか』


 よくとかれた茶髪が重力に従うように垂れていて、三つ編みを肩に引っ掻けるような感じの髪型だった。身長は平均くらいで、エレーナさんより少し高い。

 オドオドとした印象だった。大事にされて育った町娘って感じだった。ここは定義的には村だが。

 丸い目で、鼻が小さくて、顔は少し丸くて、それが自然体な感じで、一番モテるタイプだなぁと思ったのを覚えている。


『だ、誰です……?』


 隣に居たエレーナさんが、気づくと俺の後ろに居た。

 そんな彼女を見て、マリアさんは申し訳なさそうに俯いた。


『あっ…す、すみません。不審者みたいですよね、こんな時間に……あ、マリアです。名前はマリア……』


 確か、深夜と早朝の間くらいの時間だった。この時間帯に出歩く人は少ないのに、なぜ居るのか不思議だった。


『その、うわさで聞いた……というか、うちのお客さんが言ってたんですけど、その……』


『は、はっきり言ったらどうですか! お、怒りますよ…』


 エレーナさんの声が震えていた。

 昔言っていたように、人と関わるのは相当苦手らしい、そう思った。


『ご、ごめんなさい! あ、その、レクサスさんは記憶力が凄くいいと、聞いたので、どうしたらそんなに覚えられるのかと……』


『何を覚えたいのかにもよりますよ』


 俺はなるべく平常心を保つように言った、でも少し声が震えていたと思う。

 いつも、エレーナさんが傍にいると緊張してしまう。


『あ、あたしは…お客さんの趣味とか、あと、店にあまり来ない人のことも知っておきたいんです。というか、まったく知らない人のことも知っておきたくて……覚えたいのは、名前とか性格ですね…』


 誰かに興味を持つのは、基本的にその『誰か』を少し知ってからだ。容姿の功罪とか、振る舞いの綺麗さだとか。まったく知らない人を知りたいと思うのには勇気がいる。

 見かけによらず勇気がある人なのだと思った。


『だったら……映像記憶って出来ますかね』


『え? な、なんですかそれ』


『……それなら、その人の印象を勝手につけたり、性格の要素とかに繋がりを見つけるだとか』


『……あ!』


 少し大きな声を出したマリアさんに、エレーナさんが驚いていた。子供っぽく俺の服の裾を引っ張るように掴んでいた。


『言われてみると、あたしが覚えている人たちは全員印象深い人でした』


『レクサスさんのことを話していた人も……なかなか、印象深い人でしたね……』


 丸い目を左に流し、マリアさんは少し苦笑していた。


『それ、誰なんです?』


『本屋さんの人です。仲がいいんですよね』


 マリアさんは俺を見上げ、優しく微笑んだ。


『あぁ……まぁ、う~ん。……はい、と言っておきます』


 マリアさんは苦笑していた。


『…あたし、あんまり気づかなかったんですけど……』


『面白い人は、一度見たら忘れないんですよ』


『なので、面白い人から覚えて行こうと思います』


 そう言った後、マリアさんは体を傾けて俺の後ろを覗き込んだ。


『そこの後ろにいる方は、なんて名前なんですか?』


 エレーナさんは面白い人認定なんだなぁと思った。


『わ、私ですか、えぇっと』


『え、エレーナです』


『趣味は何ですか?』


『早朝散歩……』


『あたし、もうあなたのことは忘れません。ありがとうございました!』


 ギャグなのか?

 たった二つの質問でエレーナさんを覚えてしまった。

 まぁ、金髪の人は少ないし、そもそもエレーナさんは日中外にほとんど出かけない。あまり見かけない人だったから印象的だったのかもしれない。たしかそんな事を考えていた。


『な、なんだか失礼な人ですね……そんなに面白いですか、私』


『はい! 私が会ってきた人の中に、美人で臆病な人はいなかったので』


 この人すごく失礼だなと思った。まぁ、俺がさっき言っていた『勝手に印象付ける』を守っていたのかもしれない。


『美人……臆病……』


『こ、これは怒った方がいいのでしょうか…レクサス君』


 エレーナさんが懇願するように俺を見上げていた。何か助け舟を出した方がいいなと思った。


『……マリアさん、別に敬語じゃなくてもいいんですよ?』


『え? いいの……? 初対面の人にタメ口使うなって母さんに言われてるから、いつもあんまり上手く喋れないんだよ。ありがとう、なんか気をつかわせちゃったね』


 会話の対象を俺にすり替えたが、エレーナさんはタメ口の彼女を見て少しビビっていた。

 正直俺もビビった。

 まぁガツガツ行くタイプの性格っぽかったのでイメージ通りではあるのかも。


『あたしね……あぁ、二人の恋仲を邪魔しようってわけじゃないよ? 嫌だったらいいんだけど……』


『……恋仲じゃ、ないんですよね……は、はは』


 神職者は恋愛禁止だ。一応言っておかないといけなかった。

 マリアさんはエレーナさんが神職者だと知らないだろうけど……一応、言っておいた。


『ふ〜ん……』


 マリアさんは俺の後ろを覗き込んでいた。


『……よかったら、二人とお友達になりたいなぁって。ダメかな?』


『僕……俺はいいですけど、エレーナさんはどうでしょう』


『私……外出かけないのであんまり会わないと思いますよ…』


『出かけてるじゃん。ここに散歩しに来たらまた会えるよ』


『私なんかでいいのでしょうか……』


『友達になるのってそんな深く考えることじゃないよ。あたし優しいから、きっとエレーナちゃんもあたしのこと気に入ってくれる。ダメ、かな?』


 マリアさんは少し顔を傾けて、ねだるように言っていた。

 あぁやっぱモテるだろうなこの人、と思った。


『じゃ、じゃあ…よ、よろしくお願いします』


 エレーナさんは顔を傾け、訝しむような目でマリアさんを見ていた。


『……あたし彼氏いるからさ、ほんとにそういうのじゃないよ? 安心してね、エレーナちゃん』


 マリアさんはニコニコ笑っていた。意外と性格が悪いのかもしれない。


『……』


 エレーナさんはその言葉に対して何も言わなかった。

 ここで黙ると、少し期待してしまう。

 ただ、拒絶か肯定の二択ではあるが…

 たしかあの時の俺は、そこまで考えていなかった。というか、考えられなかった。

 エレーナさんといると、いつも頭が回らない。


 あの時にエレーナさんの顔を見ていたら、どっちかわかったのかも知れない……ただ、正直今の俺にもその時のエレーナさんの顔を見る勇気はない。


『あたし店の手伝いで早起きだからさ、ここら辺散歩しにくるならまたお話ししてね?』


 マリアさんは俺に会釈して、後ろのエレーナさんに軽く手を振った。


『じゃ!』


 そしてそのまま小走りで宿屋の方へ向かって行った。


 次にマリアさんと話すときは多分俺もタメ口の方がいい。だけど、エレーナさんは次を望むのだろうか。そんな事を考えていた。


『……れ、レクサス君』


『……』


『こんど一緒に散歩するときは、ここら辺にしましょう』


『…はい』


 エレーナさんは、口元に手を当てていた。

 口元が見えないと、どういう表情なのかわかりにくい。

 ただ、イタズラっぽく目元が笑っていた。

 少し鋭い目元が、和やかになっていた。

 早朝の冷気を忘れるほど、心が温まったのを覚えている。


 彼女がその目で俺を見上げた時、俺は咄嗟に目を離してしまった。


 その日の散歩、俺はエレーナさんといつもより距離をとって歩いた。

 そんな俺を見て、エレーナさんは近づいたり離れたりして歩いていた。


 エレーナさんも、実は結構性格が悪いのかも知れない。


ちなみに、マリアちゃんは村のかわいい子ランキングというもので上位らしいです。

マリアちゃんはそれを知っていて、夕食のときに父と母に笑って話したそうですが、父親はめっちゃ怒ったみたいで、母親は、『娘が楽しそうに話してるときに話の腰おってんじゃあねぇわよ!』って怒ったらしいです。

マリアちゃんはその時笑っていました。


ブックマークありがとうございます! これからも書くのでブックマークよろしくお願いしまァす!


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