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1話 『悲しみはいつか綺麗になる。きっとたぶん』

最初は暗い感じですけど、まぁ明るくなると思いますよ。多分。


 通り過ぎていく景色は、過去を通すと綺麗に見える。

 きっと俺は、今を生きられていない。


「こんばんは、今日は月が綺麗ですね」


 文学的な愛の表明に、彼女が気づいてくれると思っていた。


「えぇ、貴方は死んだ方がいいと思います」


 理解はしてくれているようだが、告白は断られたようだ。


「ナルシストになれと……? 僕はそんなに自分を愛せません」


「死んだ後にも?」


「直喩ですか……? 死ぬのを選ぶって事は、自分を愛せてない事の証明ではないでしょうか」


「直喩ではありませんが……自分を愛せないから自分を殺す。それは自分を肯定して、その為に行動したという事です」


 話題がとても冷たい。きっと彼女は、俺をなんとも思っていないのだろう。


「恋愛的な話を始めようと思っていたんですが」


「私は、貴方が好きですよ」


 少し期待してしまった。だけど、少しの期待も許されなかった。


「……ライクという意味で」


「驚いた。ライクとラブの違いでここまで傷つく人が生まれてしまうんですね」


 我ながら、結構声が震えている。好きな人と話しているのに、情け無い姿しか見せられない。姿を見せているわけではないが。


「懺悔室では懺悔をしましょう。神は貴方の報われない気持ちも優しく包み込んでくれます」


 報われない……ハッキリ言われると、かなり傷つく。傷つかない為に懺悔室の中に話に来た自分が馬鹿みたいだ。馬鹿なんだけど。


「……」


 彼女の表情は相変わらず見えないが、凄まじくしかめっ面なのだろう。懺悔室で痛客の対応をするとは思ってなかっただろうし。


「すみません。貴方に迷惑をかけてしまいました」


 本当はもっと謝りたかったけど、謝れなかった。

 諦められなかったの方が正しいかも知れない。


「神の名の下、貴方を許しましょう」


「言わせてるみたいで嫌ですね」


「神の下、嘘はつけませんよ」


 彼女は、慈愛に満ちた声でそう言った。


「……では、帰りますね」


 曖昧な意識で、地面を踏む感覚すら無いような感じで、太陽の下、少しふらつきながら家に帰った。

 家に帰り、扉を開ける。木製で温かみのあるその扉のドアノブは、いつも冷たい。

 家に入り、扉を閉める。鍵を閉めると、何故だか少し、泣いてしまった。


 暖かいドアを背に、倒れ込んでしまった。なぜか、手を顔に押し当ててしまった。

 妙に高まる心拍が、恋なのか、それとも……肯定しようとしているのか。

 この苦しさは本物だけど、恋が偽物だって思いたくないような、思いたいような。

 昔持っていた楽観主義が、今も俺の中に残っている。そして、新しく持ち始めた悲観主義が、それを覆っている。


 こういう時、俺は何をしても涙が出る。だから、何もしないし何も考えないのが、一番いいんだと思う。でも、考えてしまう。

 あの人の声が、笑顔が、優しさが、笑えないときに、傍で笑ってくれる、あの人が、やっぱり、好きで、手が届かなくて、眩しくて……

 暗くなり始めた俺に、光がある事を、思い出させてくれて。彼女が、やっぱり好きで。


 考えると、やっぱり泣いてしまった。

 傷つくのは怖いけど、人を想うのに恐怖はない。ただ、やっぱり傷ついてしまった。


 恋が相手に迷惑だと思っても、なぜか相手を忘れられない。

 彼女に言われたように、自分の気持ちがわからなくなったときは、決まって昔を思い出している。


∇  ∇  ∇


 半年ぐらい、前だったと思う。村のはずれの木の下に俺は座っていた。


『太陽の下で静かに泣くなんて、貴方は信仰心が浅いのですね』


 別に泣いてなどいなかった。あの時は少し俯いて、木陰に座っていただけだった。

 見上げると、知らない顔。辺鄙(へんぴ)な村なので、知らない顔はない。

 私服姿で、彼女は俺を見ていた。


『この辺の人じゃないですよね……どこから来られたんです?』


 見上げた彼女は、冷たい顔をしていた。大きな目で、少し鋭い目つきで、唇が硬く結ばれていて、太陽を受け入れるように輝く金髪が、少し眩しくて。とにかく、凛としていて冷たい表情だった。あまり優しい人ではないのだと思っていた。


『私は、今貴方の話をしているのです』


 最初に受けた印象とは違い、彼女は、優しく微笑んだ。目つきが鋭いせいか、なんとなく悪戯っぽい笑顔だった。


『隣、失礼しても?』


 有無を言わさず、少し距離を空けて女性が隣に座った。あの頃の俺は、懐かしい感じを覚えていたと思う。


『さて、なぜあなたは静かに泣いているのです?』


 彼女は、俺に優しく微笑んだ。


『泣いてるように、見えました?』


 隣に座った彼女を見つめながら、俺は微笑んだつもりでいた。


『太陽と神の下、私たちは平等』


『エレーナ・ヴィンテージです。あなたは?』


『レクサス・カルラトスです』


『なんだか語呂感が良い名前ですね。あなたはどうして涙を見せないのですか?』


『ズバズバ聞いてきますね』


『太陽は、私たちの涙を温めてくれる。貴方の涙は、神が許してくれますよ』


 神、人々はそれを信じ生きている。

 あの頃の俺にとっては、苦しいときに何もしてくれない神に不信感を覚えていた。

 しかしながら、狭い田舎で、誰が何を言ったのかがすぐ耳に入る田舎で、俺はそれを言えずにいた。

 だから、気づくと見知らぬ女性に話していた。


『僕……あまり、神を信じられなくなったんです』


『わかりますよ』


 全くためらいがなく、彼女はそう言った。


『神職者っぽいような事ばかり言っていたのに、急にそんな事言うんですね』


『私、ぽいじゃなくて神職者です。ですけど、貴方の気持ちはわかりますよ』


『……すいません。さっき言ったことは忘れてください』


『忘れません』


『じゃあせめて、誰にも言わないでくれると嬉しいです』


『神を信じられないのなら、人を信じてください』


 彼女は立ち上がり、木の影がない太陽の下、俺の前でしゃがんだ。


『汝、隣人を愛せ。私は貴方を愛しています』


『なので、私を信じてください』


『私が許します。貴方は、泣いていいです』


 青い目が、青空よりも清々しい青だった。

 なぜか、自然と目を合わせられなくなったのを覚えている。

 涙は、出なかった。



ちなみに、レクサス君には女の子の幼馴染が居ます。

次は多分2日後くらいに出します。間に合わなかったらごめんなさい。

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