七章 匂いの調べ⑨
「人酔いをしたのなら部屋で少し休みますか? 他にも空き室はありますよ」
「え、えぇっと……」
ハインツ子爵からの申し出に言葉を窮し、シンシャに目線で助けを求める。だがフレアリーフの時とは異なり子爵との会話に割って入ることはできないのだと思うと、イヴは言葉に詰まりながらも答えた。
「お、お気遣い痛み入ります。それなら少しだけ……」
断っては失礼にあたると思ったイヴは恐る恐る言葉を紡いだ。
「わかったよ。それならこちらへどうぞ」
ハインツ子爵に招かれる形で別室へと移動する。幸いなことにシンシャも付いてきてくれているが、緊張は解けない。なにせ相手は闇オークションの首謀者なのだ。
「パーティーは楽しめているかな?」
「ええ、とても。でも人の多さに驚いてしまいました」
「そうか。確かに今回は普段よりも多めに人を集めたからね」
そう言って会場から離れた別室へと通された。
そこは簡素な客室で椅子とテーブル、そしていくつかの調度品が置かれている質素な部屋だった。
「何か飲み物でも持ってこさせるよ」
そういうとハインツ子爵は部屋を後にし、イヴとシンシャだけが残された。
「イヴリース様、ご無事ですか……」
「……き、緊張しました」
直ぐ様駆け寄ってきてくれたシンシャに礼を言いながら、ひとまずソファーで休もうと提案すると、ちょこんとソファーに座る。
シンシャも隣りに座りながら、心配そうな瞳を向けていた。
「あの御方がハインツ子爵でしたか。初めて拝見しました。一見穏和そうには見えましたが……本当のところはどうなんでしょうね」
警戒心を孕んだ声でシンシャは呟く。




