六章 月の宴⑪
「やっぱり“匂い”に頼ることしか私にはできないのかしら。もっと、グランツの役に立ちたいのに……」
「何を言っているんだ。イヴはとても努力家で素敵だよ。匂いで他人の病気を見定めたり、仮面舞踏会の時だって異質な臭いを感じ取って教えてくれただろう? もっと自分に自信をもって良いんだよ」
「グランツ……」
イヴ自身魔法が使えないというコンプレックスを察してくれたのか。優しい言葉を掛けてくれるグランツに心が安らぐ。
魔法が使えないのなら、自分の長所である鼻を活かせることをすれば良い。そう思わせてくれるような言葉だった。
「……イヴと踊れるのが楽しみだな。影なんかじゃなく、私と踊りの練習をしてもいいんだよ?」
「でもグランツには仕事が……」
「少しくらいなら大丈夫だよ。イヴがもう少し休んだら踊ろうか」
「はい」
✿ ✿ ✿
「ねーえ、シンシャ」
「なんですか、フローライト」
それは四人で分担してイヴの部屋の掃除をしていた時のことだった。フローライトは自分の担当しているベッドメイキングをしながら、床掃除をしていたシンシャに対し徐ろに話しかけた。
「イヴリース様のことなんだけど……あの方は魔法が使えないのかしら。あまりそういう話題をしないけど」
「そういう話題に言及してはいけませんよ、フローライト。魔法が使えても使えなくても我々の主には変わらないのですから」
「それは勿論そうよぉ。でももし魔法が使えるなら、いざという時どんなものか知っておきたいじゃない?」
「それは……」
シンシャは知っている。お茶会の時に『魔法が使えない』『才覚がない』と嘆いていたイヴの姿を――だがそれを主自らの口ではなくシンシャ自身の口から話すべきか悩んだ。




