六章 月の宴
「舞踏会のお知らせ、ですか」
つい先日参加しだばかりなのにと驚きながらも、イヴは侍女達から告げられたその言葉に半ば呆然としていた。こんなにも晩餐会や舞踏会が日夜あるものなのか、と。しかもレディに至ってはお茶会の招待状も増えるという――気が遠くなりそうな話だった。
「イヴリース様、ご安心を。舞踏会と言っても行うのは、この屋敷で行われます。……というよりも、舞踏会の形を模したパーティーと思って頂ければ」
「パーティー? そ、そうなの?」
「ええ。ですから気軽に……けれどマナーをしっかりと見ていきますので気を緩めないように」
「は、はい……。でも舞踏会なんて、いつ催されるの? グランツの予定はいっぱいだった筈……」
「そこは無理やり開けたそうですよ。グランツ様」
「そんな……」
連日の仕事続きで倒れないかと心配している身としては、内心ハラハラしてしまう。
「倒れないかしら……」
「それは……」
イヴの言葉に、シンシャは口を噤む。
「大丈夫ですよ〜、イヴリース様ぁ。グランツ様にはオブシディアン様が付いていますから」
安心して欲しいと励ますフローライト。
「でも最近、流行病が蔓延してるそうだよ。用心するに越したことはないね」
フォスフォフィライトの言葉に小さく声を上げる。
「流行病……! そ、そんな……」
「大したものじゃない。風邪みたいなものだってさ」
アンデシンは頭を撫でながら言ってくる。
「風邪……。それなら良かった」
流行病ときくと嫌な思い出しかない。思い出したくないくらい、辛い思い出。思わず傍にいたシンシャの手を握る。
「イヴリース様……?」
「病は嫌いよ。……誰も幸せにならないから」
だから、オルヴァの病を臭いで見つけられた時は本当に嬉しかった。早期治療さえできれば、助かるのだから……。でも、流行病はそうは行かない。言葉のごとくあっという間に蔓延するものだから、不安なのだ。
「大丈夫ですよ、イヴリース様。ですから、パーティーを楽しみましょう?」
「ええ……」
一抹の不安を覚えながらも、それを拭い去るように紅茶に口づけるとゆっくりと一口飲んだ。
「舞踏会は週末ですから、それまではダンスの練習も致しましょうね」
「う……」
ダンスと聞いて言葉が詰まる。
先日のユングフラウ家での舞踏会はダンスが散々だった。グランツに誘導して貰いながらとはいえ、息も上がりステップを覚えるだけで、悪戦苦闘したのだから。
今度はそんなことがないよう、しっかりと動きたい。
「ダンスが上手くなるコツってあるかしら?」
ポツリと呟いたその言葉にアンデシンが答えを出した。
「頭で覚えるんじゃなく、身体で覚えることかな? 後は楽しむことさ。なにより楽しむことが、上達への近道だからね」
「楽しむこと、かぁ……」
その言葉に、グランツと踊った時のことを思い出す。
忙しなかったけれど、一緒にいられるのは楽しくてグランツとの近い距離が嬉しくて仕方がなかった。もっと踊れるのなら踊り続けていたいと思えるくらい、一緒にいられる時間は幸せだった。




