五章 閃風のフローライト⑨
「とんだ不届者がいた者ですねぇ。ご無事で良かったです。やはり舞踏会にもシンシャを同席させるべきかしらぁ」
「も、もし叶うなら今度はそうして貰うわ」
微かにプルプルと震えながらもフローライトの言葉に同意をする。
ガタンゴトンと馬車に揺られながらやがて屋敷に着くと、馭者のアンバーはグランツを迎えに行くためにまた来た道を戻っていった。
「アンバー、忙しないわね」
「そうですねぇ。でもそれが彼の仕事ですからぁ。イヴリース様はシンシャの所へ参りましょう」
そう促されるがままシンシャのもとへ行くと、部屋に戻るなり抱き締められた。
「不届者は? フローライト」
「いたようですぅ。でも、グランツ様が御守りになったようですよぉ」
「嗚呼……よかった。やはり私も着いていくべきでした。グランツ様とイヴリース様の二人きりの邪魔をしたくないと思って控えておりましたが……今度からは必ず、絶対に、着いていきます」
ググッと掌握るシンシャに思わず苦笑する。
「それで、解毒をしてあげたいのよねぇ、ほらぁ、私達がするわけにもいかないし、このままじゃあお辛いでしょうからぁ」
「そうね。イヴリース様……失礼致します」
シンシャはそう言うとイヴの口唇を、まるでリップを塗るかのように拭った。そしてそれを舐め取ると『なるほど……』と呟いた。
「リーベの実から取れるリキュールのようですね。これなら解毒薬があります」
そういうと戸棚からガラス瓶に入った小粒の飴玉のような物を取り出してきた。
「舐めても飲み込んでもいいですから、これを一つお食べください」
「はい……」
薬と聞くと苦そうなイメージを持っているせいか、思わず唸ってしまう。それでも一粒だけ口に入れると、それは糖衣に包まれていて本当に飴のようだった。
「美味しい」
「それは良かったです。舞踏会、お疲れ様でした。後はゆっくりとお休みになられてくださいね」
「はい」
カラコロと口の中で飴玉を転がしながらイヴはコクンと頷いた。




