四章 令嬢のイヴ⑧
食事を食べ終えた私は侍女達に心配されながらも再び厨房へと向かった。ひょっこりと入口から中を覗き込むと、黙々と調理をしているオニキスの姿が見える。
その邪魔をするのは些か心が痛んだが、躊躇いがちに名前を呼んでみた。
「オニキスおじ様……?」
「おお、来たか。しっかり喰ったか?」
「はい。とても美味しかったです!」
「そうかそうか」
私の答えに満足そうに笑うオニキス。
怪物、と侍女達は騒いでいたけれど私からしてみれば実家の義母や義姉のほうがよほど怪物に見える。それと比べるだなんてことはしないが、少なくとも自分自身の中ではオニキスは優しくて頼りになるおじ様なのだ。
「パイの編み方を教えてください、オニキスおじ様。それとパイで花模様も添えたいのですが、できたりしますか?」
「そんなのクッキー型を使えば良い。そんなことより、まずは寝かせていたパイ生地を伸ばすところから始めるぞ」
「はい」
魔法の冷暗所のおかけで冷え切ったパイを取り出すと、棒で丁寧に伸ばしていく。これがなかなか力作業で、途中で休みたくなったが何度もパイ生地を伸ばしては折りたたみ伸ばす。
層を作ることでより食感の良い生地になるのだそうだ。
「よくやったな。次はようやく成形だ。フィリングを載せたいように並べていけ。……花の形にしたいんだろう?」
「はい! ……いきます」
緊張しながらも、ゴロゴロとしたフィリングを均等に敷き詰めては中央に薔薇の形をフィリングで成形する。そしてオニキスの指示通りにパイ生地を編んでいき、最後にクッキー型で抜いた花模様をパイ生地の上に添えるとようやく一つのホール型のパイ生地ができた。
「で、できましたぁ……! うぅ、完成して良かったです」
林檎もたくさん詰めたせいか、ずっしりとした重みを感じる。
「何言ってやがる。焼くのはこれからだぞ。予熱はしといてやったから、早く窯に入れろ」
「はい……!」
落とさないよう気をつけつつ窯の中にいれると、ホウと大きく息を吐いた。なんだかとても大きなことを成し遂げたような充実感を得ながらも、私は改めてオニキスにお礼を言った。
「ご指導頂きありがとうございました。一人ではあんな大作を作れそうになかったです」
「……ふん。料理長だからな。指導くらいはする」
そういうオニキスの感情の匂いは、とても嬉しそうな匂いをしていた。




