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四章 令嬢のイヴ⑥

「……。やっぱりアンタは変わっとる。大抵の使用人らは俺と話そうとせん奴が多い。こんなに喋ったのは久し振りだ」

 不意にオニキスはそう呟く。

 その表情はどこか曇っているように見えた私は、スンと匂いを嗅いでみた。するとオニキスの感情(こころ)は寂しげで悲しんでいるような匂いだった。

「……オニキスおじ様……。もしアプフェルシュトゥルーデルが出来上がったら、グランツと一緒にお茶会をしませんか?」

「んあ……? そんなモン、料理長の俺には必要のないことだ。仕事の範疇でもねぇ」

「お仕事ではなくて……その、私が作ったお菓子の味を、オニキスおじ様にも食べて知って貰いたいんです。……駄目でしょうか?」

「……………………」

 オニキスは唸るような渋い顔をしていたが、ジッと自分のほうを見つめる私の視線に根負けしたのか、溜め息を吐き出す。そして、

「わぁかった。そんな目で俺を見るな。できたら喰ってやる」

「本当ですか……! 厨房で一人で、なんて駄目ですよ? 一緒に食べましょうね! オニキスおじ様!」

「わぁかった。……だからいい加減手を動かせ」

「はい!」

 オニキスの答えに満足すると、手元に気をつけながら林檎をいくつか切っていく。皮付きと皮無しとで迷ったが、より林檎らしさを残そうと皮付きにし赤色に色付けることにした。鍋に砂糖とレモン汁を足しカットした林檎を入れては水分がなくなるまで煮詰めていく。

 その工程で林檎がグチャグチャにならないよう適度にかき混ぜると厨房内に甘いフィリングの香りが漂った。

「最後にシナモンを振りかけて混ぜて馴染ませたらフィリングの完成だ。バットに広げて、フィリングを冷ましたら、次はパイ生地を伸ばして成形していく。ファブリーゼ家の伝統の編み方はあるが、アンタ……何か案でもあるのか?」

 薄めにカットした林檎とゴロゴロした林檎の二種類を作っていたからだろう。オニキスはチラリと私のほうを見ると、パイ型を取り出しながら問いかけた。

「はい。薔薇の装飾を施したいんです。グランツの好きなお花ですから」

「んあ? 薔薇? 林檎でか? ……つくづく変なことを考えるモンだな。まあ、飾り切りの一種と思えば同じ、か……?」

 不思議な生き物でも見るかのようにこちらをみてくるオニキスに微笑んだ。

 ボーン……!

「え……?」

 その時、昼を告げる鐘の音が鳴った。

 気付けば朝ごはんも食べずに熱中してしまっていた。

「飯の時間だ。アンタは食べてこい。旦那様が帰るのは夕方だ。午後から作り始めてちょうどいいくらいだろうよ」

 パイ生地もゆっくり休ませられる、そういうオニキスの言葉を信じるとペコリと頭を下げた。

「それでは、午後にまたお邪魔致します。宜しくお願い致します、オニキスおじ様」

「おう、しっかり喰ってからまた来るんだな」

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