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四章 令嬢のイヴ⑤

「仕方ねぇ。俺がファブリーゼ家の味ってのを叩き込んでやる」

「あ、ありがとうございます! 宜しくお願いします、オニキスおじ様!」

 ペコリと頭を下げた後、オニキスに微笑みかける。すると心なしかオニキスの顔が赤くなりながらも、気合をいれるかのように腕まくりをした。私もそれにならって腕まくりをすると手を洗いオニキスの横に立った。

「まずはパイ生地。材料は薄力粉、強力粉、無塩バターに冷水、あとは塩。これだけだ」

 広い机の上に道具と材料を広げ、それぞれの分量を伝えて準備をさせるとオニキスは自ら手を出すことなく口だけで指示していった。

「バターは一センチ角に切っておけ。それから小麦粉と強力粉を丁寧に振るいにかけていく。冷水には塩を入れて溶かしておけ」

「は、はい……!」

 言われた手順を頭に叩き入れながら正確に工程を熟していく。

「ボウルに粉類とバターを入れて切るように混ぜていく。そして冷水を少しずつ足したら、水気がなくなるまで混ぜていく」

「ひ、ひぇ……重労働ですね」

「こんなんで弱音吐いててどうする。パイ生地を休ませたらパイ生地を延ばす工程だってあるんだぞ。……ふむ、まあパイ生地はそんなもんだ。袋に入れて生地を休ませるぞ」

 そうしてオニキスは生地を袋に入れ冷暗所で休ませると次の指示を出してきた。

「次は林檎だ! 良いのを選んでやったぞ」

「確かにどれも凄く美味しそうです。材料の仕入れはオニキスおじ様が?」

「大体は契約している農家やらなんやから運ばれてくるがな。例外の仕入れは特に気を使うから俺が見る」

「じゃあ、林檎は例外ですね。林檎を選んでおいてくださってありがとうございます。おかげで美味しそうにできそうです」

「……ふん。料理長として当然だ」 

 オニキスはフイと視線を逸らすと短くそれだけ言った。

(言葉は粗暴なところはあるけれど、なんて優しい人なのかしら)

 今まで誰かから、料理の教えを乞う機会などなかった私にとって、どれも新鮮な体験だ。そしてオニキスが選んでくれた艶のある宝石のような林檎の一つを手に取り水で洗うと、まな板の上で切ろうとしてふと手を止めた。

「あの……、オニキスおじ様。グランツは薄めの林檎とゴロゴロした粒の林檎、どちらが好みですか?」

「ゴロゴロしたほうだ」

「薄めの林檎も少し作っても宜しいですか? 少しやってみたいことがあるんです」

「……んあ? まあ、好きにやって見ろ。困ったことがあれば言え」

「はい……!」

 荒々しい物言いは相変わらず、それでも親身になって見守ってくれるオニキスに対し満面の笑顔を浮かべた。

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