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三章 秘毒のシンシャ

 私は物心ついた頃より、あらゆる“毒”を生み出せた。

 初めてそのことに気付いたのは、薄汚くて穢れた売人が下流貴族に私を売り付けた時だ。下流貴族は下劣な趣味を持っていた。下流貴族が売人を殺せと命じた時、私は初めて自分の“毒”で人を殺した。

 そして私が“毒”持ちだと判ると、別の嗜好へと変質していった。

 貴族にとって気に入らない者を、不利益な者を、次々と殺すように命令された。

 泡を吹いて倒れた大人がいた。

 喉を掻き毟って苦痛に悶える大人がいた。

 吐瀉物にまみれ、血を吐いて死んでいく大人がいた。

 その中心に――私はいた。

 やがて下流貴族は、興味本位から私に“毒”を盛った。

 “毒”を生み出すと同時に“耐性”があった私は、ソレを上手く解毒できずに悶え苦しんだ。

“耐性”はあっても“痛み”や“苦しみ”が消えないわけではない。ただ息だけはしていられる。ただ生きていられる。

 その時だ――自分がとんでもないことをしていたことに、ようやく気付かされた。

 だが、奴隷は主人に従順でなければならない。

 ましてや意見を言うなど以ての外だ。

 惨劇は、繰り返された。下流貴族が飽きるまで――その生命が終える時まで。

 惨状を面白おかしく見世物にしていた下流貴族は、ある日天罰が下った。

 グランツ・フォン・ファブリーゼ様――その人の名を以て厳罰に処刑された。

 ファブリーゼ家に引き取られた私はメイド長と執事の二人から厳格な指導を受けた。特に“毒”を生み出す魔法については何度も厳しい訓練を積まされた。

「毒は他人を傷つけるものでしょ? なのにどうして私なんかを生かしておくの? 貴方達に何かあったらどうするの? 私は、貴方達を簡単に殺せるのよ」

 私は訴えた。

 自分の“危険性”と“毒性”を――。

 だが、いくら言ってもグランツ様もメイド長であるオパール様も、執事であるオブシディアン様も恐怖する気配など微塵も見せなかった。

 悪いのは“魔法”ではない。

 悪いのは“シンシャ(あなた)”じゃない。

 悪いのは“魔法”を使う、術者次第だと――そう言った。

「すべての魔法が悪いわけではないんだ」

 “魔法”は誰のために使うのか。

 その意味さえ履き違えなければ “毒”は“(くすり)”となる。

 何のために使うのか。

 それをよく見定めなさい。

 そう、説き伏せられた。

「………………」

 引き取られてから一年が経つ頃には、不安定だった“毒”の魔法も、安定して望む“毒”を生み出せるようになっていた。

 耐性も、以前は解毒が上手くいかず悶え苦しむことばかりだったが、今では水を飲み干すかのように簡単に魔法で解毒をすることができる。

 その業を習得できた時、主人を含めた三人はとても褒めてくれた。

 その時からかも知れない。自分の在り方をどうするか考え始めたのは――。

 グランツ様の役に立つには、みんなの役立つにはどうしたら良いだろう。一般的な侍女ではなく、一線を画した侍女になるにはどうしたら良いだろう。そう、考えるようになった。


「グランツ様、私を毒見役のお付として指名してください」


 それは、考えに考えた末の――主人を護るための方法だった。どんなものでも一口口にさえすれば、どんな毒か判る。その特性を活かして主人を護りたいと思ったのだ。

「駄目だよ」

 だが、グランツ様は反対した。

「どうしてですか? 私ならグランツ様に降りかかる脅威も、毒も未然に防ぐことができます……!」

 何が足りないのですか? そう問いかけ項垂れた私の頭を、グランツ様は優しく撫でた。

「シンシャ――キミをそんなつもりのために引き取ったんじゃないんだよ。それは解るね?」

「ですが……もっと、グランツ様のお役に立ちたいのです」

 そのために、侍女として覚えるべきことはすべて覚えた。他の侍女仲間とは一線を画し、武芸にも長けたリーダーとして振る舞えるように尽力してきた。

 それなのに、まだ何か足りないのだろうか。

「――その気持ちはとても嬉しいよ。でもね、キミには私の生命よりも護って欲しい人がいる」

「それはいったい……どなたですか?」

「近い内に屋敷に連れてくるつもりだ。イヴリース・フォン・リセッシュ……将来の、私の妻になる女性だ。彼女を全身全霊全力で、彼女を害するモノから護ってあげて欲しい」

「イヴリース・フォン・リセッシュ様……。かしこまりました。このシンシャ、生命に代えてもイヴリース様を御守り致します」

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