二章 イヴとグランツ⑦
「はぁい。じゃあドレッサーで髪を整えましょうか」
長くて癖のない髪を櫛で梳かされた上で、魔法で生み出した温風によって丁寧に乾かされていく。
「フローライトさんは、風の精霊の加護をお持ちなんですね」
「はい〜。ささやかではありますが、色々な役にたちますよ」
「ボクの特性はまだ秘密かな。でも、イヴリース様の役にはたてることは保証するよ」
「私は火……と相性が良いように思うな」
口々に自らの“特性”を口にしていく侍女達だが、その話題の中にシンシャが入ってくることはなかった。
(やっぱり、もしかして……)
夢の中で見た、感じた匂いが間違いないのだと確信する。だがそれを敢えて今此処では詮索するのは違うだろうと思った。だから私は、密かにシンシャのことを気にかけながらも大人しく身支度を整えていった。
「さぁて、今夜は何を着ましょうか〜」
私のドレスのサイズを把握した侍女達は朝よりも遥かに多いドレスを用意しながらも、落ち着いた色味にしようとラピスラズリ色のドレスを選び取った。
「これなどシックで、イヴリース様の白い肌に合いそうです」
「素敵じゃないかな。どう? イヴリース様」
「こちらの淡いピンク色も素敵ですけど〜、またの機会かしらぁ」
「貴女達、イヴリース様にお選びになって貰いなさいと朝も言ったでしょう」
四人の侍女達は仲が良く、喧嘩することなく互いを尊重している。そんな姿を微笑ましく思いながら、私はアンデシンが選んでくれたラピスラズリ色のドレスに袖を通した。
「そちらの髪飾り、大切な物なのですか?」
ドレッサーで髪を整えて貰いながらも、ついチラチラと自前の髪飾りを見ていると、不意にシンシャに声を掛けられた。
「はい。――亡くなった母様の形見なんです。だからいつも身に着けておきたくて」
「左様でございましたか。不躾なことをお聞きしてしまい、申し訳ございません」
「不躾だなんてそんな……だって、みんな知らなかったことでしょう? 気にしないで」
「……では、私達もそれには触れないよう留意致します」
「そ、そんな……。でも、お心遣い、ありがとうございます」
最後にパチリと桜花の髪飾りで髪を留めると、ドレスを見下ろした。昼間に着たアイスブルーのドレスとはまた異なる大人らしい雰囲気に緊張しながら、私は侍女達に御礼を言った。




