セラ、ゴールド17才
積善省と静のその後
次の日からの積善省は誰から見ても勇者だった。
ゴブリン、ウルフ、オーク、オーガまで約200匹あまりの魔物を魔物特効Mp70のライディン一発で全滅させたからだ。
ライディンの魔法の輝きは独特なキラッキラッとして回り一面を覆い、魔物を黒焦げにした。
二日後のその日、積善省はふらりと城門の外へ出た。
シモンや兵達は城壁の上で弓を構えていた。
その時のシモンが見た光景は今も吟遊詩人によって歌われている。
勇者に襲い掛かる200あまりの魔物の群れ。
勇者は静にたたずみ剣を抜く。
最初に襲うは足の速いウルフの牙。
勇者は横なぎに剣を一閃。
届くはずも無い間合いで振るわれた。
その後には20あまりのウルフの屍が横たわった。
勇者はゆっくり前に歩いていった。
歩くたびに魔物が倒れた。
最後のオーガが棍棒を振るった。
勇者は右前に進み剣を一閃した。
オーガの胴がずれ落ちた。
瞬きする間の夢の光景。
シモン王子は祈った。
おう、我が師、我が勇者よ。
我に力を授けたまえと。
吟遊詩人の詩はこのようにして終わるのだが、シモンの本当の思いは別のものだった。
シモンが積善省の弟子になって初日。
シモンは自分のステイタスを積善省に見せられた。
名前 シモン ビクトリア15歳
称号 ビクトリア王太子
レベル 15
HP 150
MP 70
力 30
体力 30
敏捷 20
器用 30
魔力 40
炎魔法Lv3 ファイアアロー
風魔法ー - -
土魔法ー - -
水魔法ー - -
剣術Lv4
弓術Lv3
シモンは色々聞きたい事があったが積善省の「かかってきなさい」、という言葉を聴いて積善省を見た。
積善省は真剣を構えていた。
何かとてつもない化け物がそこにはいた。
剣術Lv4シモンは相手の実力がわかるぐらいの域には達していた。
積善省は自分の実力を理解していなかった。
武田家では才能のある家来を時々、鞍馬山の道場に修行に出していた。
しかし、ほとんどの者は一月もしなくて山を下りて来た。
心も体もぼろぼろになって。
信玄はそのものたちを叱らなかった。
彼らは里で体とおもに心を休めたのち、戦いに出た。
そこで彼らが見た敵は鞍馬山で見た師たちにくらべたら隙だらけにみえた。
そこからめきめきと実力をつけ皆一軍の将になったからだ。
叔父の武田 晴信も鞍馬山への修行に出た。
そして1年の修行には耐えた。
積善省の目録は武田家初の快挙だったのだ。
鞍馬山の師たちは戦場にでれば一騎当千。
普段は日本中の山々を飛び回る天狗の如き生活をしていたのだ。
積善省はそのような修練に5年間たえた。
耐え切ったのだ。
当然、修練とはこんなものと思っていた。
普通の者が耐えられる修練ではないのに。
シモンに積善省は「早くその剣を抜いてかかってこい」といった。
シモンは恐ろしかった。
掛かっていったら確実に切られると感じたからだ。
それを感じたのか師はのたまわれた。
「修行はまず切られる事から始まる」
そしてこうも言った。
「それが出来なければ破門だ」
シモンは覚悟を決めた。
片手剣を上段に構えて師に震えながらも切りかかった。
その瞬間に自分の腕が宙を飛ぶのが見え、その後に耐え難い痛みに襲われて、その場にうずくまった。
師が「見えたか」と言った言葉は聞こえたがその後の記憶はなかった。
シモンは気を失った。
シモンの近衛兵10名はシモンが切られた時一斉に剣を抜いたが足が一歩も出なかった。
積善省はシモンにパーフェクトヒールをかけた。
それから近衛へシモンをベッドで休ませるようにいいつけた。
その日の修練はそれで終わった。
次の日シモンが師のもとを尋ねた時「まだ修練をつづけるか?」と聞かれた。
シモンは「お願いします」と頭をさげた自分が信じられなかった。
目がさめてからづっと止めようと思っていたからだ。
師はのたまわれた。
「自分がいいというまで砦内を走り続けるようにいたせ」
シモンは走った。
近衛兵10名も後に続いた。
一時間で地面に手をついた。
近衛兵10名は立っていた。
師は「やめるか?」といった。
シモンは悔しかった。
自分の実力のなさに。
そして心の中で師は立っているだけなのにと思った。
積善省はシモンの心の中が手に取るように分かった。
自分も経験があるだけに。
それで自分も最初の頃に鞍馬山の先達たちがやってくれた事を思いだしていた。
未熟な自分を前後に縄で結んで山々をすすんでいってもらったことをだ。
積善省はシモンを綱で結んで走り出した。
シモンのスピードが落ちだしたらリジェネーションをかけた。
そして夕方まで永遠と走り続けた。
近衛兵10名は昼頃には全員倒れていた。
走りが終わり、剣の修行に入った。
昨日は怖くて打ち込めなかったが今日は疲れて何も考えることなく打ちかかった。
剣を弾かれ肌を浅く切られて本日の修行が終わった。
ヒールをかけてもらいベッドに倒れた。
積善省の一週間は朝起きたら朝食。
静とシモンと3人でたべる。
近衛兵はシモンの後ろにその間立っていた。
城壁に登り魔物が襲ってくるまで待つ。
静とシモンと3人でだ。
その間、この世界の事をいろいろ聞いていた。
1時間ぐらいして魔物が襲ってくる。
そこを積善省のライディンで殲滅。
それからシモンを綱でつないで夕方まで走りこみ。
剣を交えて一日が終わりの繰り返しだった。
ある時、静とシモンの3人で城壁に登って待っている時に、不意に積善省が一人の女性兵士に声をかけた。
「貴方の名前は何んと言われる」
兵士は名乗った。
「ベラ伯爵家が長女。ルアンヌです」
ルアンヌ、ベラ20歳。
回復魔法の素質はあるがまだ覚醒してない逸材だった。
一ヶ月がたっていた。
そのころになるとシモンは一人で夕方まで走れるようになっていた。
逆に近衛兵たちはシモンについて来れなくなり防具を全て外して走るようになった。
この一月で変わった事がもう一つあった。
静が教えていた弓兵の中から風魔法を矢に纏わせる事が出来るものが3名現れた。
その中の一人、セラ、ゴールド17歳。
ゴールド伯爵家の3女。
貴族で魔法が使える者は全員この戦いに参戦していた。
魔物と闘うこのユグドラシルにおいては当然の事として受け入れられていた。
セラも命をかけて参戦していた。
セラはこの時点で風魔法Lv1ウインドが使えた。
弓術はLv1。
この一ヶ月、静から弓の扱いと風魔法の魔力操作を習った。
静の魔力操作の教え方はセラの体内の魔力をグルグル高速でかき混ぜるといったやり方だった。
セラは始めあっというまに意識を無くした。
最初男女10名の風魔法使いが訓練を受けた。
二日目に起き上がられたものは女性3名だけだった。
この時点で7名が脱落した。
一週間同じ訓練をした。
一週間後、魔力操作が瞬時に出来るようになっていた。
それにともない詠唱がいらなくなった。
最初に風魔法を弓矢に纏わせたのはセラだった。
数日後に他の二名も会得した。
それから木の後ろ10mの所に的を置き、魔力を操作して矢を曲がらせる訓練に移った。
止まっている的へ矢を曲げて打つのは3名とも早くに会得した。
これだけでも3名とも優秀だったがこの後の訓練が難しかった。
動いている相手を予測して矢を当てる訓練だ。
静が言うには矢の速さでもって動いているものに当てるのではなく、相手の動きを予測して当てなくてはならないと言ったからだ。
確かに静はオーガの目に矢を射ていた。
オーガが大きいと言っても目は5cmぐらいしかない。
普通に考えるなら不可能だろう。
しかし静は言う。
「相手の動きを予測してその位置を狙って矢を射るのだ」
「その時、相手に悟らせないように矢を曲げて射るのだ」
見ているものからは矢が相手を追いかけていっているように見えた。
セラには相手の動きを予測する事が難しいように思えたのでその事を静に尋ねた。
静師匠曰く。
「魔物の動きは簡単でしょう」
「相手を騙すような動きはしない」
「後は実地で修練あるのみ」
いわれてみればそうかとセラは思った。
セラも間違いなく天才だった。
それからは城壁から魔物相手に修練が始った。
3名は魔物の目だけを狙って弓を射た。
ひたすら倒れるまで弓を射らせられた。
一月後、セラの弓術はLv5、風魔法Lv5にまでなっていた。
矢も3回に1回は魔物の目を射ることが出来るようになった。
一ヵ月後、シモンは新たな段階に来た。
風魔法を剣に纏わせるのだ。
この時点でシモンはまだ風魔法の覚醒をしていなかった。
この時積善省は神からの啓示を得た。
神の啓示に従いシモンにウインドを放った。
シモンは3mぐらい吹き飛んだ。
積善省はシモンにヒールをかけ立たせた。
そして言った。
「その身をもって魔法を受けるべし」
二発目のウインドが放たれた。
シモンはぐっと構えた。
今度は当った瞬間に自分から後ろに飛んだ。
気づけばウインドを覚えていた。
ここからは静と同じやり方だった。
シモンの魔力を高速でグルグルかき混ぜた。
シモンはあっというまに気を失った。
しかし3時間ぐらいで気がついて起き上がった。
積善省はまたグルグルかき混ぜた。
これをその日3回繰り返した。
積善省の魔法指導はまず未覚醒の魔法をその身をもって受けさせて覚醒させ、
無詠唱で魔法が使えるように、
魔力操作を魔力をグルグル回して覚えさせると言うやり方だ。
三日後、シモンは無詠唱で風魔法Lv1ウインドを使って見せた。
積善省の鍛錬はここから厳しさを増した。
シモンに剣に風魔法を纏わせさせ打ちかからせた。
しかしシモンにしてみれば、どんな魔剣を手にしても打ち込めるものではなかった。
打ち込んだ瞬間に切られると分かる段階まで来ていたからだ。
積善省が一歩前に出た。
シモンは一歩自然に下がっていた。
気が付けば城壁に背中が着いていた。
そして切られた。
ここからの日課はまず走りこみ。
終われば素振り5000回。
そのあと師、積善省との真剣での立会い。
何回死んだかわからないくらい切られた。
何故自分はこんな修練をしているのかわからなくなっていたが止めるとは口に出さなかった。
いつでも止められたのにだ。
気づけば三ヶ月が過ぎていた。
シモンの修練に新たな科目が加わった。
それは積善省と一緒に城門の外へでて剣にて魔物を倒すことだった。
シモンは剣に風魔法を纏わせ魔物に相対した。
相対してあらためて思った。
師の方がどれだけ化け物かと。
シモンは魔物の動きに合わせて無心で剣を振るった。
気が付けばレベルが1上がっていた。
剣術レベルはLv6になっていた。
4ヶ月目に入り状況が変わってきた。
襲ってくる魔物の数が減ってきたのだ。
5ヶ月目のある日、魔物に襲われて逃げてくる一団がやって来た。
男女約50名ばかり。
男の身長が皆150cmぐらい。
女性は120cmぐらいだ。
オーク20匹ぐらいとオーガ5匹に追われていた。
東の城門まで200m。
最後尾が追いつかれた。
10人の男達が先が金属で出来た木槌をもって応戦に当たった。
オークの棍棒が男に振り下ろされた。
倍の伸長差から繰り出された棍棒がもろに当たった。
やられたと思った。
しかし小さい男はその棍棒を押し返した。
その隙にまた走り出した。
シモンは城門を開け打って出た。
近衛兵10名も続いた。
その後から積善省もついていった。
シモンと近衛はオークをあっというまに倒した。
オーガにはシモンが立ち向かった。
風魔法を纏った魔剣の前にオーガは体を切り裂かれ倒れていった。
積善省は後方でそれを見守っていた。
そこへ一人の逃げていた男がやってきて跪き「王様?」といった。




