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戯れ言 親知らずの手術したんだけど脳内カラオケ大会やってた

作者: とららん

お久しぶりです。間が開いてしまいましたが、いつもの戯れ言になります。

 前から予約した歯の手術をした。

 右の親知らずだ。正直に言おう、滅茶苦茶怖かった。

 心疾患を持つ自分は普通の歯医者では手術できず、結局いつもの循環器科のある総合病院で行った。

 理由は奥歯が虫歯になり、それが埋もれた親知らずにまで進んでしまったと言うことだ。

 

 「何で子供の時に抜かなかったの?」


 手術直前に歯科医が聞く。

 

「年齢的にちょっと遅すぎないかなぁ。歯医者さんや親御さん何も言わなかったの?」

(んなこと、今言われても困るんだけど・・・)


「じゃあ、取りあえず始めようか」と、言うわけで手術開始となったのだが、私は緊張のあまり「ちょっとまった!」と声をかけた。


「足ががくがく言うんでちょっと屈伸させて」

「え? まあ、いいけど・・・・・・」

「何か済みません」

「人生で、普通は二度しか無いことだからね。そりゃ緊張もするよ」


 私はその場で屈伸、伸脚、ついでに腕を振り回し、背伸びをして席に座る。

 医師もスタッフも少しあっけにとられていたが、こっちはそれどころではない。


「じゃあ、やるよ」

「しゃあ! 来いや!!」


 自分に言い聞かせるように気合いを入れる。そして・・・・・・。


「あががががががががっががががが!」

 

 麻酔の注射針が幾度も歯茎に突き刺さり、そのたびに噴出される薬が口と頬をぬらす。

 相手は肉を裂いて取り出す、上下の親知らずだ。麻酔が2、3回で済むはずが無い。

 自然と体を硬直させて、喉からわき上がる悲鳴で針の痛みをごまかす。

 時間にして1、2分程度だったかもしれない、それでも私にとってそれはいつ終わるか解らない地獄の刻だった。見えないだけに余計に怖い。

 脳内でBBクイ○ンズの「おどるポンポ○リン」を熱唱し、水木○郎の「今がその○だ」が流れる。

 訳が分からないが、それくらいパニクっていたことだけは自分でも理解していた。


「はい、楽にして。うがいちょっとして少し待とうね」

「お、おう・・・・・・」

 

 そうこうしているうちに麻酔が終わった。

 その時のうがいほど、安心できるモノは無かった。


 そして、いよいよ本番だが・・・・・・。


 「はい。上取ったよ。」


 できるだけ見ないようにしていたが、ペンチのようなモノが口の中に入ったと思ったら、あっという間の出来事だった。

 麻酔がちゃんと効いていたのだろう。痛みも無く、あっさり上に歯は抜けた。


「じゃあ、次は下の歯行くけど、成長が完了していると思うから、一発で取れるか開けてみないと自信無いけど、がんばってね」

「お、おう」


(何で土壇場で言うんだこの人)と思いつつも、もはや止まらぬ。鬼哭啾々。

 言葉では表現できない、機械と生物的な肉の生々しい歪な音が幾重にも重なる。

 私は・・・陰○座の「甲賀忍○帖」と「氷牙忍○帖」を脳内で流しながら自分をごまかす。

 やけくそだった。

 それがそのうち、ガン○ムシリーズをはじめ、真マジ○ガーやアク○リオン、銀河○道999、宇宙戦艦ヤ○ト、最終的には親が見ていた宇○皇子のテーマソングのダ・カ○ポの「夢○人」に達するまで、さほど時間がかからなかった。

 今思うと、走馬燈の一種だったのかもしれない。

 時間にしておそらく5分程度。

 脳内の一人カラオケ大会は「取れた!」と言う歯科医の言葉で幕を閉じた。


「今からちょこちょこ縫うから待っててね」

「お、おう」


 意気消沈の私は生返事のまま力を抜いた。そして・・・。


「おがががが?」


 口の中に水分があふれ出す。


「ああ、しばらく血がドバドバ出るから気をつけてね。今ガーゼ噛ませるから」

「ほれ、はやふひえ!(それ、早く言え!)」


 総合的に手術にかかった時間は30分程度だっただろうか。

 抜けた歯の確認と、化膿止めと痛み止めの薬の説明などを受け、ふらふらになりながら家路につく。

 

 自分の部屋へ戻り、椅子に腰掛けた私は、まだ肉がこびりついた歯を眺めながら思った。

 やっぱ、怖がらずに子供の時に抜いておけば良かったと。そして、脳内での年代を超えたアニソン大熱唱カラオケ大会が行われることも無かっただろうと。

資料集めや取材などをしていた、長編小説の企画が頓挫してしまいました。

そして、今回の手術・・・まだ痛みがありますが、くじけず、また一から始めようと思います。

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