再会
三時間前───
事務所は静まり返っていた。ソファーには依頼人の登戸景頼とその子のお守として村君に呼び出された白瀬真実が並んで腰かけている。会話がない。正確には、会話が続かない。
「奈園お兄ちゃんたちに任せとけば大丈夫だよ。あんなだけど人捜し物探しは十八番だからねぇ」
「は、はい…」
「…」
「…」
続かない。弾まない。
無理もない。友人が行方不明になり困り果てた末、見ず知らずの土地で得体の知れない探偵事務所に依頼に来ているのだ。中学一年生の少年が耐えられる重圧ではないだろう。
白瀬はプレッシャーで弱り切っているところにあれこれ話しかけるのも悪いと思い、登戸に紅茶を一杯淹れ、その後は事務所の本棚にある本を読み耽っていた。漫画しかないが。
一時間ほど経った頃、スマホの通知音が鳴った。
「あっ!」
送られてきたメッセージを確認した登戸が歓喜の声を上げる。
「わぁ!?どうした?」
ウトウトしていた白瀬がハッと飛び起き声をかける。
「キュウ…!じゃなくて、瀬田が見つかったって!友達の嵯峨って子が商店街で会ったって今連絡が!」
不安の原因が取り除かれた登戸は先程までの余所余所しい態度とは打って変わって、年相応の少年らしい反応を見せた。それを見た白瀬はホッと胸を撫で下ろす。
「それは良かった。何よりだ」
「今から公園に集まろうって言われて…あの、その、依頼料ってどのくらい…」
「あぁ、それなら大丈夫だよ。困り果てた少年からお小遣いを毟り取るほど奈園お兄ちゃんはがめつくないからね。後はお姉ちゃんが伝えておくから行っておいで。…っと、一人で行かせるのもなんだし、公園まで送るよ」
十五分ほど歩くと公園に着いた。
「お~い!ノボルー!」
「シュー!キュウ!」
こちらの姿に気づくと広場のベンチに座っていた少年たちが駆け寄ってきた。
「見つかって良かった~。どこ行ってたんだよ!もーー!」
「いやぁ、ゴメンゴメン」
「心配かけやがってコノヤロー。ノボルなんか大慌てで隣町の探偵事務所まで依頼しに行ったんだぞ」
「ほんとゴメン。探検に夢中になっちゃってさ」
「結局商店街まで戻ってきてたん?」
「そうそう。でっけぇ畳屋の店あるじゃん?あの辺捜してたらふらっと歩いててさ、マジでビビったぜ。昨日あんだけ騒いだのに普通~にいるんだもんこいつ」
三人は久々の、と言っても一日だが、再会に大喜びしていた。一頻り盛り上がった後、シューこと嵯峨周が白瀬について尋ねた。
「ところで…あのお姉さん誰?」
「あぁ、あの人は白瀬さん。ええっと、一から説明するけど…」
登戸は探偵事務所に行ってからの一連の流れを説明した。
「あ、あのっ、ありがとうございました!」
「「ありがとうございました!」」
三人は深々と頭を下げる。急なお礼に白瀬は戸惑う。
「いやいや私は何もしてないよぉ。お礼なら奈園お兄ちゃんに言ってあげな~」
「じゃあもう一回事務所に…」
「あ~待った!今のなし!事のあらましは私が伝えておくから、君たちは暗くなる前に帰りなよ。もう迷子になっちゃダメだぞぉ?」
そういうと白瀬は踵を返し公園を去った。
再会直後の熱も収まり、落ち着きを取り戻した登戸は瀬田に再度疑問を投げかける。
「キュウは結局どこ行ってたの?昨日はシューが捜しても見つからなかったって言ってたけど」
「………実はね、九階の奥に面白い場所を見つけたんだ。今度みんなも行ってみない?」