結末
事務所に戻ると、白瀬がまるで我が家のようにくつろいでいた。
「おかえり、お疲れさん」
「ただいま、お疲れだよ」
そう言いながら奈園はソファーに腰かける。村君も同様に向かいのソファーに身を預けた。
「依頼人は?」
「もう送り届けたよ。とは言ってもそこの公園まで一緒に歩いていっただけだけどね。瀬田くんは無事みたいだったし、登戸くんたちは再会を喜んでたし、これにて一件落着かな?」
白瀬は慣れた手つきで紅茶を淹れると二人の前にカップを置いた。
「まぁ依頼の内容だけ見れば一応解決したってことでいいだろうな」
「引っかかる言い方をするなぁ」
「それがビルでちょいとな…」
そう前置きすると、奈園は先程の雑居ビル内での出来事を話し始めた。
「…で、今に至るわけ」
「あまりにも荒唐無稽な話だねぇ。けど…」
白瀬は眼鏡を外すと奈園の顔を覗き込む。
「どうやら嘘は付いていないようだ」
「水掛け論にならなくて助かるよ」
奈園は紅茶を飲み一息つくと自分の考えを述べる。
「瀬田くんたちは昨日九階に探検に行った、九階の通路にリストバンドの落し物、一晩経っても帰って来ていない。ってとこから考えるにあのエレベーターに乗って行方不明になったのは間違いないと思うんだけどな」
「でも九階には本来エレベーターはない。百歩譲ってあったとして、二百七十七階もあるのはおかしい。ってわけね」
奈園の懸念を白瀬が代弁する。
「そういうこと。お手上げ~!」
大げさに万歳ポーズを取ると奈園はソファーに寝転んだ。すると向かいのソファーに座ったきり発言の無かった村君がボソリと呟いた。
「異世界とかに引き摺り込まれたんですかね」
事務所内が水を打ったように静まり返る。
「なんてね、流石に冗談…「和斗もそう思うかい?」
言葉を遮り白瀬が問う。さっきまでのヘラヘラした態度が嘘のように真剣な表情だ。
「いや、だから冗談…ん?今『も』って言いました?」
「仮にも探偵二人の前で話すにしてはあまりに馬鹿馬鹿しくて遠慮してたんだけどね。実は私もそう思ってる」
きょとんとする村君相手に白瀬ははっきりとそう答えた。
「仮じゃなくて探偵そのものだってば」
奈園のツッコミを華麗にスルーし白瀬は続ける。
「私昼過ぎに快明に電話かけたでしょ。瀬田くん見つかったよ~って報告の」
白瀬は奈園に向き直る。
「あぁ、かかってきたな」
「その後…さっきの話によるとエレベーターが急に動き出して大慌てで逃げ始めた時かな?その時スマホ落としたでしょ」
「あぁ、落としたな。機種変してまだ半年も経ってないのによ」
「電話繋がったままだったから呼びかけながらしばらく音聞いてたのよ。そしたらなんか変な音が聞こえてねぇ」
白瀬はそこで話を区切ると懐からスマホを取り出した。
「私は職業柄電話での会話はすべて録音しているんだ。言質を取るためにね。当然さっきの快明との通話も録音してあるんだが…」
「サラッと怖いこと言うよな」
「説明するより聞いてもらった方が早いね。先に言っておくが、無編集だよ」
そう言うと机の上に置いたスマホをスピーカーモードに切り替え再生ボタンを押した。
『もしもし』
『やぁ快明、お久しぶりだねぇ。さて、いきなり本題で悪いが、行方不明の瀬田くんが見つかったそうだよ』
『はぇぁ!?』
『今さっき登戸くんのスマホに連絡が入ってね、商店街を捜し回ってた嵯峨くんとばったり遭遇したみたいなんだ。その行方不明だった瀬田くんって子と。今から公園で落ち合うって話になったそうだから、私ちょっと送ってくね。事務所は鍵かけとくから』
『ちょ、ちょっと待ってくれ!商店街?なんでそんなとこにいるんだ。だってこのエレベーターに…』
『嘘…だろ…』
『お~いどうした~?』
カシャン、カラカラ
ポーーン
『カ゛ァ゛ーーーーカ゛ァ゛ーーーーカ゛ァ゛ーーーー』
バサバサバサバサバサバサバサ
ガガッ、ガガッ
『………た…………た…す…………て』
ザァ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ッ
プツッ
ツーー…ツーーー…ツーー…