増築階層
「生き地獄ってのはこういうことを言うんだろうな」
ショーケースに入った食品サンプルを眺めながらスティックタイプの栄養食を頬張ると、奈園が恨めしそうに呟く。
「しょうがないですよ。呑気に昼ごはん食べてる時間ないんですから」
そういうと村君はゼリータイプの栄養食を啜った。
六階はレストラン街になっていた。七階に行くための階段はエレベーターの反対側にあるのでそこを通り抜ける必要がある。昼食が栄養食のみの二人にとってはなかなかの苦行であった。
やがて反対側に辿り着くと、突き当りの壁の一部が不自然に切り取られておりその先に上り階段が続いていた。二人は階段を上り、七階に入った。
「なんか…思ってたより…」
「ひどいですね」
奈園が口を濁した部分を村君が容赦なく補足した。
そこは先程通り抜けた階層と同じ建物とは思えない様相だった。床と壁は打ちっぱなしのコンクリートになっており、天井は配管や配線が剝き出しになっている。それに光源が頼りなくぶら下がっている裸電球のみなのでフロア全体が薄暗い。
「もしかして次の上り階段あっちか?」
奈園が通路の奥を指差す。
「そうみたいですね」
フロアマップを確認した村君が言う。一気に九階まで行くつもりだったが階段は七階で途切れている。どうやらこの六階からは、そのフロアを通り抜けて反対側にある上り階段まで行かないと上の階層に行けないようだ。仕方がないので二人は七階へ入り反対側の階段を目指した。
七階には古めかしいレコード店やパンク系ファッションの服屋、ビリヤードとダーツが置いてあるカフェなどが並んでいた。まるでサイバーパンクの地下通路のようだ。とてもここが商店街の中にあるビルの中とは思えない。
「不便な造りだなぁ…。こりゃ本当に迷いっぱなしになってるかもな」
「これだけ入り組んでたらありえますね。窓すらないですよ、ここ」
六階のレストラン街と比べるとフロア全体が薄暗いうえ通路がごちゃついているため油断すると今の自分の場所を見失いそうになる。こんなところを中学生が闇雲に歩き回ったのなら迷子になるのも無理はない。二人は奥へ進みつつ、もしかしたら通路のどこかに迷ったままの瀬田くんがいるかもしれないと思い回りを見渡していたが、そう都合よくは行かなかった。
そのまま七階を抜けて階段を上り、八階も同じように歩き回ったが結局見つからず終いだった。
「次だな」
「はい」
七階以降の建物の雰囲気のせいか、別にこの後何があると決まっているわけでもないのに二人の間には妙な緊張が走っていた。階段を上る。打ちっぱなしのコンクリートにコツコツと足音が響く。
そしてついに、瀬田くんが行方不明になった九階へと足を踏み入れた。