少年の依頼
「ごめんね、うちの先生が驚かせちゃって。大丈夫?」
村君が優しい声色で少年に尋ねた。
「は、はい。大丈夫です…」
口ではそう言っているが少年は明らかに居心地が悪そうにソワソワしている。久々の依頼人でテンションが上がった奈園が居酒屋の店員のようなテンションで出迎えたのだから怯えるのも無理はない。中学生の少年ともなればなおさらだ。
「先生、スーパー行ってジュースかなんか買ってきてあげてください。あとついでにコーヒーもお願いします」
奈園はなにか言いたげな顔をしたがすぐに溜息をつき事務所を出て行った。村君は少年の方に向き直る。
「それじゃあ依頼の内容を聞かせてくれるかな」
「じ、実はビルではぐれた友達がそのままいなくなっちゃって…。見つけてほしいんです」
少年はポツポツと話し始めた。
少年は昨日、三人の友人と一緒に商店街の雑居ビルに遊びに行った。買い物を済ませた後、みんなでビルの中を探検しようという話になりあちこち歩きまわっていた。最上階の九階を散策し始めた辺りで『門限の時間だからそろそろ帰ろう』派と『この階で最後なんだからもう少しだけ見よう』派に分かれ、結局二人は先に帰り二人はさらに奥に進んだ。帰路を歩んでいると後ろから探検に行ったはずの一人が息を切らしながら走ってきて「キュウがいなくなった」と言った。みんなは慌てたものの今から戻って捜す時間もないため仕方なくその日はそのまま家に帰った。キュウこと瀬田 喜勇の両親は二日前から出張で家にいないため昨晩は問題にならずに済んだが、今朝家を訪ねたらまだ帰って来ていないようだった。今晩には両親が出張から戻ってくるためそれまでに瀬田くんを捜し出さないといけない。大事にしたくないから警察に相談するわけにもいかない。困り果てていたところ、隣町に探偵事務所があるという話を聞き大急ぎで依頼にきた。
という内容だった。
「なるほどね…」
村君は腕組をしながらソファーの背もたれに寄りかかり壁際の振り子時計を見た。十二時五十分。中学生の門限がだいたい夕方六時くらいだとすると…タイムリミットは約五時間か。
「オーケー。その依頼、この村君 和斗が請け負った」