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夢の少女 〜Be Brave〜  作者: みずたにみゆう
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27.絶望(2)

 終礼が終わると、唯は由美子を引っ張って教室を飛び出した。


「ちょ、ちょっと、こうちゃん。そんなに慌てなくても……」


「だって、やっと目星が付いたんだよ? もしかしたら今日、純のヤツに会えるかもしれない」


「それはそうだけど……」


「あ、チア部の方に休むって言っておかなきゃ!」


 唯に、ようやく部活動のことにも気を遣える余裕が出て来たようだ。



 唯と由美子がチアリーディング部の前に来ると、入り口の前に誰かが立っていた。

 広田美雪である。


 美雪は神代唯の姿を見て声を掛けようとしたが、なぜか先に由美子が反応した。


「あれ? あなたは!?」

 由美子は、美雪の顔を見るや否や、彼女に詰め寄った。


「え、なんですか?」


 由美子は、美雪の顔をジロジロと眺めた。


「ねえ、西山君を知ってる?」


「誰ですか、その人?」


「あなた、名前は?」


「一年の広田美雪です! 何なんですか、一体?」

 急に知らない相手に詰められて、美雪の口調はキツくなった。


「本当に? 嘘じゃないでしょうね?」


「ちょっと、ほんとに何なんですか!? いい加減にして欲しいです!」


 見かねた唯が、ふたりの間に割って入る。

「ちょっと、どうしたの、由美子? 広田さん、ゴメンね。多分、由美子のヤツが勘違いしてるだけだと思うの」


 その言葉を聞くと、美雪はキッと睨んだ。

「神代先輩ってやっぱりそういう人なんですね。ゆーちゃんをたぶらかしておいて、そんなに悠々とした顔で居られるなんて……」


「えっ、何のこと?」


「とぼけないでください! いくら先輩とは言え、私だって堪忍袋の緒を緩めますからね!!」

 しかし、唯には何のことかさっぱり分からない。


「もう! しらばっくれるのは、やめてください! 木下勇也のことです!!」


「えっ、勇也くんのこと?」


「ゆ、勇也くんって……! やっぱり知っているんじゃないですか! それも『勇也くん』だなんて馴れ馴れしく言ったりして! ……神代先輩まで私を馬鹿にして、そんなに面白いんですか!?」


 唯は落ち着いて答える。

「広田さん、あなた何か勘違いしてるよ」


「何言ってるんですか!!」


「確かに、あたしは勇也くんとは仲良しだったけど……」


 唯はこの色々とあった数ヶ月間を思い出す。

 だが、この間の電話以来、話せていないままだった。


「仲良しって……!」

 美雪は勇也とまだ出会ってから、そんなに逢瀬を重ねていないことに気付く。


「もしかしてゆーちゃん、私と知り合う前からあなたと……!?」


「違う、違うって! ……あ、広田さん!!」


 美雪は唯の話を最後まで聞かずに、その場を走り去ってしまった。


 美雪は更に勘違いしてしまったようだ。

 しかし、本人はそんなこと知る由もない。



 校舎の方まで走ってきた美雪は、壁にもたれ掛かった。


「なんだ、やっぱり私のことは遊びだったんだ……。君が好きだなんて言葉に、私はまんまと引っかかったって訳ね。……私はあなたのこと……」


 美雪は耐え切れずにその場で泣き崩れた。



 唯は美雪の様子を見ていて、だいたいのことを理解した。


「そうか。勇也くんはやっぱりあの子と付き合っているんだ」


「そうなの?」


「由美子には分かんなかった? 何があったかは知らないけど、あの子の目は真剣だった。勇也くんを誰よりも想っている。そんな気持ちが伝わってきた。そして、あたしに対する嫉妬の気持ちも……」


 唯は自分の心境の変化を、勇也のものと重ねた。


「そっか……。勇也くん、あの子に心を奪われちゃったんだね」


 ズキリと胸が痛む。

 複雑な気持ちは勿論あったが、何だかスッキリした部分もあった。


「よし、由美子! 早く純に会いに行こう! あたしは純に会わなくちゃいけないんだ!!」


 由美子はそんな唯を見て笑みをこぼす。


「なんか元気になったね。こうちゃんにいつもの笑顔が戻った気がするよ」

 と言った由美子も、唯の笑顔を見て、元気を取り戻した。



 今日の唯は何かいつもと違っていた。

 一見変わらないようだが、落ち着いて行動してるのだ。

 由美子は唯と一緒に行動していてそれを感じ取った。


 最近ずっと、唯は焦っていたのだ。

 純の姿を見ることが、出来なかったから。


 もしかしたら、もうどこか遠い場所に行ってしまったのではないかという不安さえあった。

 それが酷く彼女を焦らせていたのだ。


 だか、一昨日、唯は確かに純に会ったのだ。自分には記憶は無いけれど。


 あの気を失っていた時、何か幸せだった。


 そして目を覚ました時、掛けられていた純の上着。

 泥にまみれて汚れていたが、とても暖かかった。

 単に暖かかったのではない。心が暖かくなったのだ。


 唯は今日、その汚れた上着をきれいに洗濯して干してから来た。

 まるでそれが自分のものであるかのように。


 だから唯は吹っ切れたものがあったのかもしれない。

 ただ闇雲に探し回るのではなく、この辺にいると確信を得たから。



 加佐未センター街へと辿り着いたふたりは、由美子の提案で、美雪の部活中の写真を活用して、訊いて回ることにした。

 由美子曰く、純と一緒に居た女の子が、美雪に似ているようなのだ。


 探すこと数時間、なんと手掛かりを知る人物に辿り着いた。

 写真作戦は功を奏したようだ。


「えっ! この子を知ってるんですか!?」

 唯は顔を近づけて迫った。


「あ、ああ。瀬口裕子せぐちゆうこって子のことだろ?」

 その男は、唯の余りの驚きように少し焦りながら返答した。

 西山純と一緒に居る女性の名前は瀬口裕子という名前らしい。


「で、どこに住んでいるか知っていますか?」

 と、唯は更に詰め寄る。


「知ってるも何も、その子なら俺と同じアパートに住んでるよ」

 名前も知れた上に居場所にも当たりが付いた。


 その途端に唯の瞳が輝いた。

「お願いです! そのアパートまで案内して欲しいんです!!」


「別にいいけど。……丁度俺も家に帰る途中だったし、案内してやるよ」


「あ、ありがとうございます!」


 唯は何度も何度もお辞儀をした。


 そして由美子と手を取り合って喜ぶ。

「やった、やったね! ついに純のヤツに会えるんだ!!」


「うん、そうだね」


 そんな唯の姿を見ていると、由美子まで嬉しくなってきた。

 純が言うように、唯の笑顔は『天下一品』なのかもしれない。


「ここからすぐ近くだから、俺に付いて来てくれ」


「はいっ!」

 唯は、元気良く返事をした。



 その男に付いて行くと、やはり『下町』の筋に入った。

 確かに由美子の予想は当たっていたようだ。


 それにしても、この辺りの建物はかなり雰囲気が違っていた。

 空気感がセンター街とは全く異なる。

 日中でも踏み入るには勇気が必要だ。

 やはりここに来るのには気が引けた。


 だが、こんな場所に、瀬口裕子という女の子は住んでいると言うのだ。


 何不自由なく育った唯には信じられなかった。

 瀬口裕子の普段の生活がかなり気になってしまった。


「あの……、瀬口裕子ってどういう人なんですか?」


「えっ、知らないのかい? あの子は二年程前に今のアパートに越して来たんだ。初めは女が引っ越して来たと俺も喜んでいたが、そんな気持ちはすぐに吹っ飛んでしまったよ」


「どうしてですか?」


「あの女、目が死んでるんだよ」


「目が……?」


「そう、何かまるで死人のようだった。あの当時、あれで高一とか言っていたが、何かそんな雰囲気じゃないんだよな。なんというか……」


「…………」


「どうも、風俗で働いているらしいんだ。まあ、身寄りもない女の一人暮らしなんだからそれ位しないと苦しいのかもしれないね」


「そんな……」

 唯はその事実を知って愕然とした。


「あ、でも、ここ最近かな、男を見つけたらしいよ。たまに一緒に出掛ける姿を見かけるし……。多分同棲してるんじゃないかな?」

 唯は何も言えなかった。暫く黙りこくってしまった。


 すると、男が立ち止まった。

「君達、着いたよ。ここがそのアパートだ」


 唯ははっとして前を見た。


 本当にボロアパートである。壁も階段もだいぶ年季が入っており汚い。

 二階建てで、各階には五つずつ部屋が入っているようだった。


「彼女の部屋は二階の一番奥だ。それじゃ、俺はここで」


「どうもありがとうございました」

 と、唯は深々と頭を下げた。


 男の方も軽く会釈すると、自分の部屋に入って行った。



 唯と由美子がそのアパートの二階に上がると、一番奥の部屋に『瀬口』という表札を見つけることが出来た。


「……ついに来たんだね、由美子」


「ええ、そうね」


 唯はチャイムを押そうとしたが、その直前で止まってしまった。


「どうしたの、こうちゃん?」

 よく見ると、唯の手が震えていた。


「あのね、心では分かっていても、体が言うことを聞かないの……」


 由美子が一喝する。

「こうちゃん! そんなことでどうするの!!」


「だって……!」


「いい? 今ここで帰ったとしたら、また苦しまなきゃいけないのよ。それでもいいの?」


「また……」


 唯はこの長くて辛い日々を思い出した。

 ずっと、ずっと泣きながら暮らしてきた。

 心が張り裂けそうな位に寂しかった。


「……そうだ、そうだよね。あたしは、もう寂しい思いをしたくない」


「そう、その意気だよ。じゃあ、私は下で待っていることにするわ。頑張ってね、こうちゃん!」


 そう言うと、由美子は通路を戻り、階段を下りて行った。



 唯は、改めて瀬口裕子の家のドアの前に立った。


「そうだ、逃げちゃ駄目なんだ。あたしは、このチャイムを押すしかないんだ」


 唯はついにチャイムを押した。


 ピンポーン!


 唯にはその音が死にそうな位に長く感じられた。


 唯の全身に緊張が走る!

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