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夢の少女 〜Be Brave〜  作者: みずたにみゆう
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17.戸惑い(2)

 放課後、勇也が校門前に出てくると、いつも唯が待っている場所に、由美子が立っていた。


「あれ、水島さんじゃないか」

 珍しい人物の訪問に勇也は驚く。


「木下君、どうも。先日の剣道大会以来ね」


「そうだね。あの時は流山の病院の付き添いをしてくれてありがとう」


「結局、全治三週間ほどの怪我になってしまったわね……」

 と由美子が辛そうな顔をする。


「……流山ならば、今日は部活に向かったぞ? まだ怪我も十分に治ってないだろうに」

 と、話を振ったが、

「いいえ。今日はあなたに用があって来たの」

 と、由美子は勇也を見据えた。


「俺に……?」

 想定外の由美子の言葉に、勇也は身構えた。


「こうちゃんが今、酷く落ち込んでいるんだ。木下君も知っているでしょ?」


「えっ、どうして?」


「どうしてって……、あれ? 西山君が行方不明なことを知らないの!?」


 それを聞いた途端、勇也の顔色が変わった。



 勇也は由美子から純が行方不明になった話を掻い摘んで聞いた。


「そんな、あの西山先輩が家出をするなんて信じられない!」

「私だってそうよ。でも実際に西山君は家に戻ってないわ」


「……全く連絡はないのか?」

「ええ」

「……ったく! 西山先輩は、一体どこで、何しているんだよ!」


「それは、木下君にも言えるわよ?」

 と、由美子が勇也を睨む。


「えっ……!?」


「なんでもっと早くこうちゃんの相談に乗ってやんないのよ! こうちゃんは今、支えを必要としてるのよ? 例えあなたでもまだ役に立つんだから」


「あなたでもって……、随分と酷い言い方だな。水島さん、自覚しているのか?」


 ここ数日、唯と話せてなかった自分が悪いとは感じるが、それでもなかなか理不尽な話のように感じた。

 由美子と仲良く話せる日は来るのだろうか。


「そう聞こえたのならごめんね。でも、正直、あなたの方が私よりもこうちゃんの相談相手になれるかなと思って」


「俺の方が……?」


「そう。こうちゃんは、あなたのことをかなり信用しているみたいだしね。私、これでも何度も励ましてるのよ? でもこうちゃんったら、次の日になると、また死人のような顔をして登校してくるのよ。あんなの、とてもじゃないけど見て居られないわ」


「……神代さん……」


 勇也は絶句してしまった。

 唯は純のことをどう思っているのだろうか?

 幼馴染み、それとも……?


 沸々とした気持ちが湧き上がってくる。

 これは何と読んだらいい感情なのだろうか。

 自分自身がよく分からなくなってくる。


「……分かったよ。後で神代さんに会ってみる」


「ありがと、助かるわ。それじゃまたね」

 そう言うと由美子はスタスタと歩いて行ってしまった。



「あの西山先輩が失踪……? 一体何があったんだ?」


 勇也は、訳が分からず、暫くその場で考え込んでしまった。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 勇也は、唯の家へと向かった。


 曜日的に、今日はK高校前まで来てくれるかもしれないと期待して校門前で少し待ってみたが、結局彼女は来なかった。

 それだけ、彼女に異変が起こっていると考えて、間違いなかった。


 川田に貰ったお古のママチャリで加佐未センター街を抜けると、彼女が住む真っ白な家が見えてきた。

 その近くには、純の家の、青い屋根が見えていた。



 勇也は、唯の家のチャイムを鳴らす。

 しかし、応答はない。


 少し時間を空けて、再度チャイムを鳴らす。

 だが、応答はない。

 留守にしているのだろうか。



 勇也が帰ろうとすると、後ろから声を掛けられた。


「あなたはどなた?」

 外見や年齢からして、唯の母親のようだった。


「済みません、俺は木下と言います。神代唯さんの友達です」

「唯の?」

「はい。唯さんは家にいらっしゃいますか?」

「ええ。居ると思うけど……」


 唯の母親は、唯の部屋の方を見上げた。明かりは点いているようだった。


「良かったら、唯さんに会わせてもらえませんか?」


「……その様子だと、西山君のことは知っているみたいね。……分かったわ」


 ご近所さんなので、唯の母親も、純が失踪したことを知っていたようだ。



 唯の母親は、勇也を玄関に通してくれた。


 唯の家は、室内も白を基調とした、欧風のデザインで統一されていた。

 玄関には、シャンデリアが備え付けられており、随分とおしゃれだ。

 他の装飾品も含めて判断するに、彼女の家は少し裕福なのかもしれない。



「唯の部屋はこの階段を上がってすぐの所よ。でも、もしかしたら、うまく相手は出来ないかもしれないわ」

「はい、分かりました。大丈夫です」


 勇也は、息を飲むと、階段をゆっくりと上がった。


 階段を上がったすぐ左側に「YUI」と可愛らしく装飾されたプレートの架けられた部屋があった。

 彼女の部屋は、ここで間違いなさそうだ。


「神代さん、神代さん?」

 勇也は、優しくドアにノックをしつつ、唯に声を掛けた。

「……神代さん?」


 やや遅れて、

「……勇也くん……なの?」

 と返事があった。


「うん、そうだよ。急に押し掛けてしまってごめんね。水島さんから話を聞いて……、心配でやって来たんだ」


 その声を聞くと、ドアがゆっくりと開いた。

 そこには、目を真っ赤にした寝巻き姿の唯が立っていた。


「入っても大丈夫?」


「……う、うん……」


 勇也は、唯を刺激しないように、ゆっくりと部屋の中に入った。



 室内は、白を基調とした洋風の体裁で、いかにも女の子らしい部屋と言った感じだ。


 ベットの周りには、ぬいぐるみがたくさん並んでいた。

 まだ少し、幼さが残っているのだろうか。

 ただ、『RAIZA』関連のグッズやゲームが山積みになっているのは例外だが。


 勇也は、女の子の部屋に入るのは初めてだったので、凄い緊張していた。

 唯の甘い匂いがする。


 ただ、それ以上に、唯の様子が気になっていた。



 勇也は、唯のベットに並んで座った。

 流石にベッドの上は気が引けたのだが、散らかっているからと、彼女がそこを指定したのだ。


「西山先輩が失踪したという話を聞いたよ? 本当なのか?」

「うん。純のヤツ、もう三日も家に帰ってないんだ」

「三日か……」


 流石に、友人の家を泊まり歩いているとは言えない日数になっていた。


「何か心当たりはないの? いくらなんでも、何か予兆はあったんじゃないかって思うんだけど」


 勇也は、西山純とは最近会っていなかった。

 当初四人で遊びに出掛けていた頃はよく会っていたが、唯とふたりで出掛けるようになってからは、少しご無沙汰になっていた。

 純から勇也宛に、電話が掛かってくることも無くなっていた。


「実はね。あたし、純のヤツにデートに誘われたの」

「えっ……!?」

 勇也は、急に胸が苦しくなってくる。


「神代さん、西山先輩とデートしてたのか?」

「ううん、違うの」


「いや、だって……!」

「アイツなんか様子が変だったの。それで待ち合わせしようとしたんだけど、それから連絡が取れなくなって……」

「…………」


 勇也は混乱した。

 西山先輩は、唯のことが好きなのだろうと理解した。

 ただの幼馴染みの関係ではなかったのだ。


 それを聞いて、無性に腹が立っている自分が居ることに気付いた。


 これが嫉妬という感情なのだろうか。

 ただ、その感情が、唯に対してなのか、純に対してなのか、どちらに向けられているのかは自分でもよく分からなかった。

 それは、初めての感情だったから。



「勇也くん、お願い。アイツを探すのを手伝ってくれない?」


「えっ……!?」

 勇也は、全身が金縛りにあったように動けなくなった。

 手にピリピリとした感覚が広がってきた。

 息が苦しい。


「今は何も手掛かりがないの。だけど、早くアイツを見つけて、文句のひとつでも言ってやらないと気が済まない。だからね、お願い?」


「…………」

 勇也は何も答えられない。何と言ったらいいか分からない。


 唯は、真剣な顔で、勇也を見つめる。



 勇也は、疑心暗鬼になった。

 彼女は、一体どういう感情を持って、自分に西山純を探すのを手伝って欲しいと言っているのだろうか。


 自分は、彼女にとってどういう存在で、西山純はどういう存在なのだろうかと。


 ――唯は言ってくれていた。

 自分はどこにも行かない。ずっと勇也の側に居ると。


 だが、目の前に居る唯からは、そんな気持ちは感じられなかった。

 胸がぎゅっと締め付けられる。



 勇也は、不安を振り切ろうと、そっと唯を抱き締めようとした。


「勇也くん……?」

 と、唯が驚いたような不安そうな顔をしたが、


 だが、勇也はそれ以上、何も出来なかった。


 ――怖かった。

 彼女に拒絶されるのが怖かったのだ。


 そして、こう答えた。

「分かったよ……。俺も西山先輩を探す」


 すると、唯の顔がパッと明るくなった。

「ありがとう、勇也くん!」

 と、嬉しそうに勇也の手を取ると、ぴょんぴょんと飛び回った。



 いつもならば、唯に手を握ってもらえて、凄くドキドキしていたはずなのに。

 今は手にピリピリとした感覚があって、苦痛でしかなかった。

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