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1 ハンフリー家の姉妹

マリアンヌシリーズ三作目です。

今回の主役は長男ハロルド。

公爵夫妻と妹フローラも相変わらずのキャラで登場します。

「もう帰りたい。疲れたし足が痛いの」

女の子の半泣きの声がした。


(あれ?こんな場所に女の子が?)


 貴族を集めた式典が終わり外の空気を吸おうと、ハロルドは関係者出入り口から庭に出たところだ。

 ここは主に使用人たちが使う通路だ。庭の植栽に隠れた細い通路で、どこかの令嬢が入り込むような場所ではない。不思議に思って声の主を探した。


 十二、三歳くらいの女の子とそれよりだいぶ歳の離れた姉らしい令嬢がいた。年下の方はハンカチを敷いた切り株に腰をかけ、年上の方は座っている子の背中をさすりながら慰めていた。


「もう少しだから、我慢しましょう。さあ、いつまでもこんな場所にいたらお父様に叱られるわ」

「足が痛くてもう無理。立てないもの」

「プリシラったら。仕方ないわね」

「あの」


 思わず声をかけると二人はビクッとしてこちらを振り返った。


「やあ、驚かせてすまない。僕はハロルド・ロマーン。僕も息抜きに来たんだ。脚が痛いのなら、中のティールームでお茶でも飲んで大人たちの挨拶が終わるのを待っているかい?」

「よろしいのですか?」


 座っていた子は救いの神が来たとばかりに笑顔になるが、年上の方はハッとした顔になって恭しくお辞儀をした。顔を見れば少女というより年若い淑女という落ち着いた感じだった。


「ハロルド様、お声がけをありがとうございます。私はエミリア・ハンフリー。妹はプリシラ・ハンフリーでございます。お見苦しいところをお見せしました。もう妹も大丈夫でございます」

「ええ!お姉さま、私は」

「おやめなさい、プリシラ。殿下の御前よ」

「あっ!」


 やっとハロルドの名前に気づいたらしい。ピョコンと立ち上がり急いでお辞儀をした。


「ああ、いいよ。美味しいお菓子を食べたいと思っていたところなんだ。一人で食べるより三人で食べた方が美味しい。嫌でなければどう?」

「はい、ご一緒させてください!」


 プリシラは喜んだ。エミリアは断るのは無礼と思ったようで頭を下げた。




「わあ。広くて美しいお部屋ですね」


 柔らかい室内用の靴を用意されたプリシラは、部屋を見回して無邪気にはしゃいでいる。姉のエミリアは緊張しているのがよくわかる顔つきだ。


「侍女にあなたちの父君への連絡をさせてあるから、あちらの用事が終われば声がかかるはずです」


 ハロルドがそう告げると、姉妹は安心したようだった。

 侍女たちがお茶と菓子を次々に運んでくる。たちまちテーブルの上はたくさんの甘いものと少しの軽食が並べられた。

 プリシラは勧められるままにあれこれと食べていたが、エミリアはあまり食べていない。


「口に合いませんか?」

「いいえ。とても美味しいのですが、張してしまって」


 こういう場合はどうしたらいいんだ? とハロルドは考える。いろんな令嬢と上っ面の会話はたくさんしてきたが、こんなふうに少人数で茶会のようなことをするのは初めてだった。

 プリシラは妹のフローラに雰囲気が似ているので気楽だが、エミリアはあまり接したことのないタイプだった。そもそも年上の令嬢とこんなふうに話をしたことがない。

 そこで困った時の定番の質問をした。


「エミリアさんはどんな趣味をお持ちですか?」

「乗馬です」


 エミリアが意外な返事をする。とても大人しそうなのに、とハロルドは驚いた。「それならば今度一緒に」と言おうとしたところで侍従から「そろそろ参加された方々のお帰りの時間です」と連絡が入る。

 彼女たちの父親のハンフリー伯爵が心配して待っているかもしれない。思いの外長く過ごしていたことに驚いた。


「悪かったね」

「いいえ。楽しゅうございました」

「ありがとうございました」


 侍女に彼女たちの案内を頼み、軽く手を振って別れてほうっと息を吐いた。


 エミリアの穏やかな表情、控えめな物腰、妹のプリシラに対する優しい態度。どれも角がない丸い雰囲気だった。

 丸い。ふんわりしている。髪の毛まで柔らかそうな明るい栗色。瞳は……あれ?瞳は何色だったかな、と考えるが思い出せない。

 思い出せるのは窓から差し込む光で輝いていた白い頬だ。薄く紅を塗った小さな唇も可愛らしかった。

 そこまで考えて慌てて頭を振ってエミリアの残像を振り払う。


「僕は何を考えてるんだ」


 しかしその日からハロルドの頭の中には「エミリアの瞳の色は何色だったかな」という疑問が居座ることになった。

 こんな時にニコラスがいてくれたら、と思う。弟は遊学の旅に出かけたままだ。頭のいい弟に今日のことを話してみたい。と思った瞬間に「僕は馬鹿か」と声に出して自分を叱りつけた。

 情けない。気になる女の子の瞳の色は、優秀な弟に頼るまでもない。自分で確かめればいいではないか。


 その日の夜、父アレクサンドル公爵の部屋に行き、散々口ごもった挙句にやっと切り出した。


「お父様、僕、エミリア・ハンフリー嬢を乗馬に誘いたいのですが、僕の立場だとどう手続きすればいいでしょうか」


 アレクサンドルはハロルドの様子と申し込みに、思わず微笑みたいのをグッと堪えて真面目な顔で対応した。


「ハンフリー伯爵家のお嬢さんは二人いたはずだけど、どちらかな」

「姉のエミリア嬢の方です」

「ふむ。姉の方だね。私の方でなんとかしてみるよ」


 ハロルドが出て行き、ドアが閉まると同時にアレクサンドルが微笑んだ。


「やっと気になる女の子ができたか」


 王になるための教育に時間をとられ、ハロルドは同年代の若者と遊ぶこともなく、休みの日も弟や妹と過ごすばかりだった。男親としては少々心配だったのだ。


 アレクサンドルは早速貴族一覧を開く。そして少しの間、動きを止めた。


読んでくださってありがとうございます。

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