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Mission-05 ククリ初陣


 白銀しろがねの勇者――ミコトがそう呼んだ、ククリが異世界でついに起動した。


 無我夢中でそのコクピットに飛び乗った朔夜だったが、彼女が懸念した転倒という事態は、そこに起こっていなかった。


(なぜ――?)


 朔夜が発見した、磁石をメビウス状に配置すると、絶対的な平行が保てるという『メビウスマグネット』の理論をもってしても、ククリが二足歩行できる重量は三十八キロが限界のはずであった。


 そのための総アルミ製ボディであり、搭乗者が乗った時点でその計算式は破綻するはず――というか、もう既に一回破綻していたのに、今、ククリは朔夜を乗せた状態でその足をしっかりと踏み出していた。


(なぜ……なぜ、ククリが歩けてるの?)


 その事実に、再び驚く朔夜だったが、


(――もしや⁉︎)


 彼女の鋭敏な頭脳は、一つの仮説に行き当たった。


(ここは、重力が小さいのではないか?)


 ぽっちゃりで運動が苦手な自分が、火事場の馬鹿力だったとしても、ギガドン機の投石をかわしながら、あれほどの俊敏な動きができた事は、朔夜本人もおかしいとは思っていた。加えて、ククリのコクピットにも、軽い身のこなしで飛び込めた。


 それらの体感という事実が――論理の筋道をつけた。


(なるほど、それならククリが動けるのも納得できる!)


 重力が小さいといっても、月の様に三メートル級のジャンプができるほどではない。

 だが朔夜の試算では、現状八十八キロであろうククリが動けるほどには――異世界である『ネの国』は――重力が小さいという事だった。ちなみに重ねて言うと、ククリ単体では三十八キロである。朔夜の体重が知りたい方は、引き算していただきたい。


「とにかく……あれを止める!」


 アクセルを踏み込んでも、ククリの二足歩行に乱れがない事を確認した朔夜は、ギガドン機に向け機体をダッシュさせる。


「あー、チルル様! 白銀しろがねの勇者が向かってきちゃいましたよ!」


(あの神鎧カムイ、『使い手』が中に乗り込んだ⁉︎)


 慌てるグッチに構わず、チルルはこの一連の流れの中にある『異常』に疑問を抱いた。


(あいつ、まさか私と同じ――『使い手』でもあり『宿り人』でもあるっていうの?)


 チルルはその焦燥を隠す様に、


「ギガドン、力ならお前の方が上のはずだ! 奴をねじ伏せなさい!」


 ひときわ大きな声で、ククリへの対抗策を指示した。


合点がってん、チルル様!」


 まるでゴリラが鎧で武装した様な、ギガドン機が両手を広げる。


 そこにククリが突っ込み、


「ククリ、いくよ!」


 という朔夜の叫びと共に、ついに両機が正面からぶつかり、お互いの両手をつかみ合う力比べの展開となった。


「うおりゃーっ!」


 両腕に力を込める朔夜。

 ククリの両腕はコクピットのモーショントレーサーで、朔夜の両腕の動きとリンクできる様になっている。加えて乗用車のパワステと同じくパワーアシスト搭載であり、全長三メートル相当の腕力はあるはずであった。


 だが、それを操作するロボットハンドを握る朔夜の両手に、押し戻される感覚が襲ってきた。


「ち、力負けしてるの⁉︎」


「ガッハッハッ! 力で我輩に勝とうなんて、百年早いんでさ」


 ギガドンの高笑いに混ざって、ミシミシッという音が聞こえてくる。


「えっ、ヤバイ!」


 それに焦った朔夜は離脱を試みるが、有利な状況のギガドン機がククリを放す訳がなかった。


「ちょっと! フレームが歪んだら、どーすんのよー!」


 なけなしの貯金をはたいて作ったククリの破損を恐れた朔夜は、気が動転したのか操縦桿も兼ねる右足のアクセルを無我夢中で踏み込んだ。


 次の瞬間、


「おわっ⁉︎」


 というギガドンの声と共に、その機体が足払いを受けた様に横転した。

 そして両手が解放されると、朔夜はすぐにククリを離脱させ、ギガドン機から距離をとった。


「は、跳ね飛ばしやがったのか……?」


 戦況を見つめるモイカが思わず声を上げた。


「なんか、ピョーンって、相手が飛び上がって転んじゃいましたね」


 ウズメもつたない表現ながら、それに同意を示す。


「すごい……さすが白銀しろがねの勇者!」


 ミコトはこの展開を、自身が召喚した『救世の勇者』の力だと主張する。


 だが当の朔夜は、それらの声を背中に聞きながら、状況を客観的に分析していた。


(マグネットパワーが……メビウスマグネットが、こんなとこで役に立つなんてね)


 ククリは前述の、朔夜が発見した磁石の反発力を応用した絶対平行理論――メビウスマグネットにより二足歩行を実現した。

 なので、機体の両脚部には、数字の八の字に配列された大量の磁石が仕込まれていた。


 つまり結果論として――苦しまぎれに朔夜がアクセルを踏み込んだ事により、持ち上がったククリ脚部が空間に放った反発磁力で、偶然にもギガドン機を足払いする形になった、という事である。


 ちなみに、ククリの素材であるアルミは非磁性体である。そこも計算に入れての設計であった。

 そんな理系女子、朔夜の叡智の結晶であるククリだが、ギガドン機に対しての不利に変わりはない。


 腕力で劣り、武装もないロボット。さっきは咄嗟の行動が幸運に繋がったが、次に捕まれば終わりであった。


 だが――


(見たところ、相手の素材は青銅。しかも黄金色こがねいろという事はすずの含有率が高いはず)


 考えながら朔夜は、ククリに岩を握らせる。


すずの含有率が高い青銅は硬度が増すが――その反面、もろくなる!)


 リケジョの頭脳が、逆襲への一手を導き出した。


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