Mission-02 就職と巨乳
突如、『ネの国』という異世界に召喚された理系女子、朔夜。
だが彼女は、事態を完全に間違った方向に理解してしまった。
「ナイト……?」
「はい。あなたにナイトの地位をお約束します」
ビショップ(神官)を名乗るミコトという少年の言葉に、フル回転を始める朔夜の頭脳。
そして、導き出した答えは、
(ナイト…………大英帝国勲章!)
――博学とは、時として不幸である。
(という事は……まさか私のロボット工学の実力を知った英国系企業からの、ヘッドハンティング⁉︎ そうか、アタシは『招聘』を『召喚』と聞き間違えちゃったのね)
崖っぷちの就活中とはいえナイトという一言で、ここまで自分にとって事態を都合よく解釈できる朔夜は、やはりトンチキ理系女子であった。重ねて言っておくが、世のリケジョがみんなこうな訳ではない。朔夜がおかしいのである。
(しかし、ヘッドハンターがなぜ少年? ま、まさか、この子は外資系企業の社長の息子? そういえば目の色が違うし、なんか容姿も日本人離れしてる気もするわ! うんうん)
朔夜の思考暴走は続く。
(見たところ歳は十歳ちょいってところか。だが今やオーバー十ぐらいの年の差婚は当たり前! いける、これは玉の輿まで狙える!)
トンチキのくせに腹は黒い。
「就職します!」
この一言で、朔夜の異世界ライフは決まった。
「しゅ、しゅうしょく?」
「あなたのお父さんの会社に入るって事よ。そこを救えばいいんでしょ」
「おお、白銀の勇者の使い手。この世界を救ってくださるのですね。ありがとうございます!」
「大丈夫、ククリが特許を取得すれば、きっと会社を救えるわ」
噛み合ってない会話が、二人の笑顔と共に都合よく噛み合っていく。もはや完全に救えない流れとなってしまった。
「さて……まずはアパートに帰らなきゃだね」
思いもかけず就職先が決まり安堵した朔夜は、あらためて周囲を見渡す。
足元に広がる草原の先に見えるのは、中世を思わせるどこの国とも見当がつかない建築物。やはりどこか違和感があった。
いま少し朔夜に静かな時間があれば、状況を冷静に振り返る余裕が生まれたかもしれない。
だが次の事態が、トンチキ女子大生をさらなる騒動に巻き込んだ。
「あー、ミコト様ーっ! こちらにいらっしゃったんですかー」
底抜けに明るい声――というか、本当に人格の底が抜けた様な、お気楽な大声が朔夜たちに向けて飛んでくる。
二人がそちらに顔を向けると、ボヨンボヨンという擬音が聞こえてきそうなムッチムチ女子が、間の抜けた笑顔で駆け寄ってくるではないか。
「ウズメ」
ミコトがその名を呼びかける。
瞬間、朔夜はその顔を引きつらせた。
(こ、こいつ――巨乳! しかもホルスタイン級!)
朔夜にとって、それだけで怒る理由は十分だった。
前述の通り朔夜も、ムチムチほどではないがプチぽっちゃりである。かつ中途半端な貧乳であった。
それに対し、このウズメという女はちょっと露出度高めな革の鎧から、溢れ出そうな肉が――特に胸元あたりの肉が、ボインボインと揺れている。
見たところ二十歳前の、ある意味完成された隙ありのバディは、朔夜の知るところでは『男子からチヤホヤされる』タイプであった。
(同じぽっちゃりでも、乳がデカけりゃ需要がある!)
求めても得られなかったものを、まるで宿敵を見る様に朔夜が睨んでいると、「キャッ!」というウズメの悲鳴が上がる。
何事、と朔夜とミコトが身構えると、
「うへへへ。相変わらずいい尻しとるのー、ウズメ」
という、あからさまにエロいおっさんの声が聞こえてきた。
「もー、モイカさん。ダメですよー」
そう言いながら、めくり上げられた薄い鎧のスカート部を直すウズメの背後に、本当にエロそうなおっさんが――いやジジイがいた。
「いやいや、もうこの歳になると、若いもんの生気をいただかんと、やってけんのじゃよ」
モイカと呼ばれた男は、そう言って特に悪びれる様子もなく、鼻の下を伸ばしている。
それに対して、
「もー、でもまだお日様も高いのにー」
当のウズメも触られたお尻をフリフリ揺らしながら、笑顔でそれに応じている。
ミコトもただ苦笑しているだけだ。すなわち、これはいつもの事なのだろう。
(な、な、な⁉︎)
あまりの展開に唖然としながらも、
(こ、こいつケツ触られてんのに、それを拒絶じゃなく、むしろ絶妙に受け入やがった)
朔夜の頭脳は、再び暴走という名のフル回転を始めた。
(クソッ、あの牛乳女め! 拒絶でもなく肯定でもない小悪魔対応――すなわち、『あー、こいつ体だけじゃなくて、結構性格もいいのかもー』みたいな好感度アップと、『でも実はそんなに嫌じゃないんですー』的なテヘペロ笑顔のアフターフォローで、『えっ、もしかしたら、こいつ俺に気があるのかも?』という、男を惑わす勘違いと本気が交錯する、魅惑の伏線まで同時に張りやがるとは!)
血走った目の朔夜。続けて彼女は、ウズメの天然ぶりをこう断定する。
(いたよ。いたよ、アタシのまわりにもこういう奴――『あざとい系女子』がよ!)
もはや、なんの話か分からなくなってきた。
だが、ロボット開発という周りの誰にも理解されない研究に、青春のすべてを捧げてきた朔夜にとって、今はこの異世界という異常事態よりも、ウズメという天然ボインボイン女子の存在の方が重要なのであった。いやダメだろそれ。
ともあれ、無言で憤怒のオーラを放つ朔夜を、ミコトがなんとかなだめようとしていると、
「ほう、これがゲートをくぐってきた、白銀の勇者かい」
しわがれた声――それはウズメの尻を触った初老の男、モイカのものだった。
ふと我に返った朔夜の目に映るモイカの顔は、先程までのエロさが消え、何かこう策士を思わせる鋭さを帯びていた。
そして、全長三メートルのロボット、ククリを見つめるモイカの目が朔夜に移り、彼はこう言った。
「で、お嬢ちゃんが、この『神鎧』の使い手かい?」
「神鎧……?」