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増殖する不安達

師匠が私達の前から姿を消した。

これは紛れもない事実。

どう言う理由があったのか、だけど何が原因か

それ位は私にだって理解する事が出来た。


「……この紙」


この紙だ、師匠はランちゃんの家にあった

この古い文字が書かれてる紙を見て移動した。

何が書いてあるのか、私にはさっぱり分からなかったけど

でも、きっと師匠は分かってたんだ、この古い言葉を。


師匠は本当に何でも知ってる。知らないことがあるのか。

そんな疑問さえ抱いてしまうほどに師匠は何でも知ってた。

そして、私にも新しい課題が出来たと言えるね。


五大貴族の3人、ランちゃん、テールちゃん、ヒューズちゃん。

この3人の護衛と同時にこの文字の解読。

きっと今回の襲撃や問題の答え…までは行かないとしても

きっとヒントくらいは書いてある筈なんだから。


少なくとも師匠が単身で動かざるおえないほどの問題。

師匠が私達を放置して何も言わず単独で行動した理由。

色々な可能性は考察できるのだけど、最も高い可能性が

私達が足手纏いになるほどに危険な問題だったと言う事。


「師匠の行動、そして紙に書かれてる古い文字。

 魔物達の行動の理由、何故五大貴族を狙うのか。

 時の宝玉とは何なのか、魔王がどう言う存在なのか。


 そして、そんな重要な事が書いてある紙と一緒に入ってた

 ランちゃんが今、耳に付けてる真っ赤なイヤリング。

 そのイヤリングを守るあまりにも厳重すぎる設備と

 今の技術とは思えない程の高度なカラクリ。


 衰退してる筈の錬金術で出来た余りにも高度な扉。

 その割には随分とずさんすぎる警備……何かある?

 あれだけ厳重だったのに、最後がずさんだった理由…

 転移の腕輪なんて、高度な錬金術があれば出来たんじゃ?


 それがあるのだとすれば、何であんなずさんだったんだろう。

 転移の腕輪で簡単に侵入が出来るような、そんな……

 いや、違う。露骨すぎる……いや、露骨すぎた。

 あたかも転移の腕輪で飛んでくださいと言わんばかりの……」

「ナルミ、何ブツブツ言ってんのよ! 状況分かってんの!?

 あんたの師匠がいきなり消えて! あの2人の家族も」

「……ランちゃん、そのイヤリング……外せる?」

「……見たでしょ? 外せないわよ」


そうだね、最初ランちゃんの耳にあのイヤリングが勝手に動いて付いた。

この時、ランちゃんは必死にイヤリングを外そうとしてたけど外せない。

色々な情報から考えても、あのイヤリングはきっと錬金術で出来た物。

だから、何かある筈なんだ。ランちゃんに反応した何かが。


「……」

「な、何よ、わ、私の顔をし、真剣そうにジッと見て!?

 い、イヤリング!? ほ、欲しいの? で、でも駄目よ?

 私も外せるなら外すし、外して渡すかもだけど外せないし!」

「……ランちゃん」

「な、何よ……」

「1つ疑問があるんだ、ちょっと忘れてたけど

 色々と考えて、ようやく思い出した疑問。

 明らかに異常な事象に対する疑問」

「な、何よ…」

「何であの時、ランちゃんはあんなに強かったの?」

「はぁ?」


そう、魔物達を倒してるときのランちゃんだ、強くなり過ぎてた。

あの力はランちゃんの本気だったのかな? 今までが手加減してた?

でも、訓練してる際に手加減する理由は? 私の前だったから?

だけどそうなると、何故私の前で手加減が必要だったの?


「あぁ、あの時……それが、私にもよく分からなくて……

 あ、あなたが唐突に姿を消して…しばらくは動けそうに無かった。

 だって、悲しかった……し、死んだんじゃ無いかって、わ、私。


 だって、大事な親友が目の前で……私達の為に

 私が弱くて、もし私がもっと強くて、

 一緒に戦えたらこんな事にはって!


 涙が止まらなかった、弱い自分を怨んだ!

 守られてばかりの自分を! 嫌で嫌で嫌で! 情け……無くて……

 悲しかった! その時よ、私が変な感覚に陥ったのは。


 自分への怒りで我を失いそうになって……でも、その時になんて言うか

 心の底から何だか力が溢れ出したというか、しょ、衝動的に動いて」

「ランちゃん……」

「わ、私だって何でそうなったのかなんて分からないけど。

 で、でも、でもこれが事実なのよ! わ、私が分かる全てよ!

 何であんなに強くなったかなんて分からない……私もおかしいとは思った。

 だって、あのエルザと同じ位に戦えるようになるなんて」

「エルザと?」

「そう……いや、私には分からないのだけど、エルザとミルスがそう言って」


……あの2人がそう言うなら、きっと間違いないんだと思う。

あの状況で2人はランちゃんが戦う事を止めてなかった。

確かな強さを目の当たりにして、守る必要が無いと判断したのかな。


あの状況下だったし、僅かでも戦力が欲しい状況だった。

そんな状況でランちゃんが何かしらの要因で強くなって

出来れば下がって欲しかったけど、市民の救助のために

強くなったランちゃんにも協力して貰ってたのかも知れない。


それだけでも、ランちゃんがあの瞬間。

並の兵士よりも強くなってたと言う事になる。

不自然だ、余り訓練に割く時間が無かったランちゃんが

ずっと訓練をしてた兵士さんと同等かそれ以上の実力を得るなんて。

勿論、エルザや私の様な例外が存在してるのは間違いない。


だけど、私達はあの両親の娘、

才能だとか、そう言う物が存在しているのなら

私達が天才という部類であり、異常な成長性を持ってた。


だけど、ランちゃんの家系は五大貴族とは言え貴族。

戦いに重きを置いた家庭では無い、ランちゃんだって

魔法の才能があったのは間違いないけど、まだ完全に開花は出来てない。

それなのに、ランちゃんがあの短期間でお父さんとエルザに認められるほどの

余りにも絶大な成長性を見せた? そんなの……だって、数日し……か……


「な、何よ、ナルミ……こ、これ以上何か言えと言われても

 わ、私は何も言えないわよ!? だ、だって私だって分からないんだもん!

 い、異常なのは分かってる! 分かってるわよ! 私はそんなに強くない!

 多少は強いかもとは思うけど、エルザとミルスに認められるほどは強くない!


 だ、だって、私は確かに強さに憧れてた。ご先祖様の様な強さに。

 だけど、現実は非情で、私なんかご先祖様の足下にも及ばない。

 勿論、あなたの足下にも及ばない。エルザの足下にも。

 でも、あの時、あの瞬間だけは何故か、わ、私は……強くなれた…」


ランちゃんの耳に付いてるイヤリングが僅かに動き

少しだけ日の光を反射させ、きらりと輝く。

間違いない、この数日の間でランちゃんが異常に成長する要因。

この数日の間に起った、ランちゃんにある確かな変化。


それは、あのイヤリングだ。あのイヤリングが耳に付いた。

見付けた瞬間、よく分からない力で動き出したイヤリング。

そのイヤリングがランちゃんの耳に勝手に動いて付いた。


おかしいよ、明らかにそれはおかしくて、同時にランちゃんにも

おかしな事象が起った。それが、あの異常なまでの成長。

今は分からないけど、その瞬間だけエルザや父さんに認められるほど

一緒に戦う事を認めて貰えるほどに強くなった。


「私は私が恐いわ。何であんな風になったのか…出来れば考えたくなかった。

 だって、自分が不意にまるで自分じゃ無いように強くなるなんて

 そんな事、あり得ないわよ。でも、現にあり得たんだから……

 でも、考えたく無かった。私はあなたほどに頭はよくない。

 

 私が考えたって、答えには行き着かないだろうし

 恐い考えばかりが頭を支配するの。不安で不安で。

 だから、考えたくなかった。だって、だって恐いんだもん!

 こんな短い間で、訳が分からない事が何度も何度も何度も!


 意味の分からない相手に命を狙われたり

 意味の分からない変な道具が家にあったり

 意味の分からない文字が書かれた紙があったり

 意味の分からない空間が家の地下にあったり

 意味の分からない装飾品が耳に付いたり

 意味の分からない力が溢れ出したり、恐いのよ!


 私はあなたみたいに頭がよくない。

 未知に対してわくわく出来る程頭がよくない!

 何も知らないで、ただ吐き捨てるように時間を過ごす。

 本来はそれだけでよかったはずなの。

 いや、正確には違うけど…挑戦はしようとしてたけど…」


ランちゃんが少しだけ涙を流しながら、必死に言葉を紡いでく。

あれはきっと、ランちゃんが必死に押さえてる心の内。

当然だと思う。だって、今のランちゃんが置かれてる状況は

とてもとても理不尽で、とてもとても残酷なのだから。

家族共々命を狙われていて、自分を狙う化け物が居る。


その化け物から自分を守る為に周りが必死に戦って

その度に被害が出てる。これだけでも恐怖だけど

ランちゃんはそこへ更に自分への疑問まで出て来てしまってる。


何故不意に強くなったのか

何故自分の家によく分からない道具があったのか

何故自分の家に意味の分からない言葉が書かれた紙があったのか。

何故自分に取り外すことが出来ない意味の分からない道具が付いたのか。

何故自分が不意に異常なほどに強くなったのか。


怯えない方がどうかしてるくらい、今のランちゃんは疑問に包まれてる。

それも自分の身に危険が及んでしまいかねない程の疑問。

だけどランちゃんは、私がこの話をするまで

こんな弱々しい姿を見せてないし、不安そうな素振りも見せなかった。

それが何故なのか……簡単に理解する事が出来た。


「ごめんなさい、ナルミ…ちょっと衝動的になりすぎちゃった。

 でも何だか……その、勝手なんだけど……少しだけ楽になった」

「んーん、元は私が悪いの。ごめんね、ランちゃん。

 とても無神経な質問しちゃった……やっぱり私、馬鹿だよね。

 でも今は、少しだけ自分が馬鹿で良かったって思った……

 勝手かもだけど、お陰でランちゃんの気持ちが分かった」

「……その」

「ランちゃん、悩んだら私に相談して。私は馬鹿だけどさ

 考えるのは得意なの。一緒に答えを探すのを手伝うよ。

 それにランちゃんの悩みや気持ちの捌け口にもなるよ。

 それが親友だからね、気兼ねなく話して。

 ランちゃんがどんな状況だろうとも

 私はランちゃんの味方だから」

「ナルミ……」

「勿論、私だけじゃ無いけどね。でも、私は確実に味方だよ。

 そう宣言するよ。神様に誓ったって良い」

「……ありがとう」


涙声でランちゃんが小さくお礼を言ってくれた。

同時にランちゃんはその場にへたれ込み涙を流す。

私はソッとランちゃんの横に寄りそう。


「……本当は」


ランちゃんが私に抱き付いてきて、小さく言葉を続けた。


「本当は……あ、あんたにこんな情け無い姿…見せたくなくて…

 でも、でもね……同時にこうも思うの…」

「ん?」

「あんたなら、こんな情け無い私でも……受け止めてくれるって…

 でも、恐くて……嫌われたら…いやって…だって、だってそうじゃ無い。

 私の…私の悩みは…とても贅沢で……あの2人の方が、も、もっと辛いのに。

 わ、私が泣き言を言うわけには行かないって……

 相談しても…ぜ、贅沢言うなって……言われるかもって…」

「そんな事」

「そうよ、あなたはきっと思わない…だけど、私はそう思う……」


ランちゃんの言葉は震えてた、確かに怯えてるのが分かった。

普段強気に振る舞ってるランちゃんだけど

その実は普通の人と同じ位…いや、もしかしたらそれ以上に

弱気で気弱で臆病なのかも知れない。


だけど、だからこそランちゃんは、

色々な人の支えになる事だって出来る。私はそう思った。

だってランちゃんは少なくとも2人の支えになってる。

今、あの2人は少しだけ元気を取り戻してるのだから。

それは彼女が必死にあの2人の支えになろうとしたからだ。


「ランちゃん、確かにね、辛い思いをしてる人は沢山居ると思う。

 でもね、自分が辛いって思ってるなら辛いって言って良いんだよ。

 それは贅沢じゃ無い、当然なんだから。辛い時は誰だってあるよ。


 我慢しないと行けない理由なんてないんだよ。

 むしろ我慢しないで吐き出してさ、スッキリした状態で

 他の辛い思いをしてる人を助けようって思えば良いんだよ」

「そんな事したら、相手に対して失礼よ…」

「辛い思いを抱えたままで辛い思いをしてる人は助けられないよ。

 自分の辛い思いを受入れたり、乗り越えた人じゃ無いと

 きっと誰かは救えない。なんてね、私が言っても説得力は無いかな」

「……いや、そんな事無い…あなたが私を助けようとしてくれてる。

 私を支えてくれようとしてること、私には分かるんだから…

 本当にありがとう……私の言葉に耳を貸してくれて。

 そして……死なないでくれて……ほ、本当に……ありがとう…」


私を抱きしめてるランちゃんの力が強くなる。

私はそんな事を感じながら、ランちゃんを出来るだけ優しく抱きしめる。

辛い思いは吐き出さないと溜まり続ける。それは当然なんだと思う。


不安はいくらでも増殖する。だから、誰かに思いをぶつけるのは

やっぱり大事なんだ……うん、私は幸せ者かもね。

そんな辛い思いをぶつけることが出来る相手が居るのだから。

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