Prologue
山の子供はラッパの音にも気付かず眠る。
山々を反響して、呼び声が聴こえた。
男たちを連れ去る、呼び声が聴こえた。
赤子は気持ちよさそうに、眠っている。
その寝顔に邪気はなく、この世の穢れを知らない子。
遠くの土地で起こる争いを知らない子。
紅の大軍に砲声が燃え上がり、多くの人々の血が大地を染める。
白の大軍に兵士は叫び、人々を戦場に駆り立てる。
ラッパの音が大きく聴こえた。
村の男が次々と、連れて行かれる。
扉を通して、家の前、召集を知らせるラッパが鳴る。
赤子の寝顔を愛おし気に眺め、男は立ち上がった。
「それでは、行ってきます」
男は悲しみに顔を歪める女にいった。
女は涙を流しながら、迷いと、悲しみが浸み込み、湿る声で問うた。
「還ってきますよね……?」
男は女に駆け寄り、華奢な肩に手をそえた。
「これから、しばらくの間、辛い想いをさせてしまうと思います。けれど、どんな姿になろうとも、必ず還ってまいります」
男は女を抱きしめる。
「私がいない間、幾多の辛いことや悲しいことがあることでしょう。そんなときこの言葉を唱えてください」
そういって、男は愛詩を口ずさむように唱えた。