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椅子取りゲーム




 私が初めて一等賞をとったのは幼稚園の時だった。

駆けっこで一番になり、メダルが授与されたのだ。


それは金色に光る折り紙でできていた。

園児たちが折り紙の中で一番価値を置く紙だ。

たくさんある種類の中で、ピカピカと光る希少な折り紙。

いつも取り合いになる。


そんな折り紙で作られたメダルを

幼稚園の教諭が皆の前で私の首にかけてくれた。

本当に嬉しく誇らしかった。


周りの園児たちも羨望の目で私を見た。

それ以来だ。

私はなんにでも一番になろうと決めた。


幸いにも親は教育熱心だったので、

恵まれた環境で勉学に励むことができた。

私は小学校受験に見事勝利し、

当然中学も進学校に進学した。


合格発表の日、

合格者発表の掲示板に私の受験番号はあった。


両親は自慢の我が子だと言って、

うっとりした目で私を見た。

私は皆に祝福され栄光の中にいた。


近くでうなだれた不合格者をちらと見て、

私は落ちた奴とは違う、

良い人生を歩んでいると強く確信できた。


いつも良いポジションにいた。

クラスでつるむ相手もきちんと選んだ。


部活でも手を抜いたことはない。

当然、部長を務めた。


全国大会に出場するも準決勝で敗退した。

痛恨の極みだ。


そして近所の住人に


「あとちょっとだったのに残念だね」


と慰められた。


あと少しのところで

勝利の果実を味わい損ねた私を憐れもうというのだ。


普段、漫然と日常を過ごし、

晴れの舞台に立つための努力もせず、

なんの結果も出していない凡庸な奴が

この私を憐れみを?


癪に障った。

私は苛立ちを押し隠して返事をした。


「ありがとうございます」



やがて難関大学に入学し、就職活動を卒なくこなした。

そして良い会社へ。


そうでなければ意味はない。

周囲も両親もさすがだと称えた。


私の努力と結果に対する当然の賛辞だ。

私のように得られない者は心底無様だと思った。


会社でも出世のため、

会社で最高のポストを得るために働いた。


一番良い椅子に座るために。

同期に後れを取ってはならない。


職場でも期待の新人と評された。


そのため上司に気に入られたのだ。

「そろそろ君も、家庭をもって落ち着いたらどうだね」

と言われ、その上司の紹介で結婚した。


相手女性は容姿、家柄、性格、家事能力に問題なし。

私の妻として恥ずかしくない女性だった。


親族、友人、知人、職場の関係者が集った盛大な結婚式が執り行われた。


子供が生まれれば、新築のマイホームも建てた。

教育費にも最大限リソースを割いた。


やがて頭角を現した私は、出世街道を驀進した。

蹴落としたライバルもいる。


当然だ、ポストは限られている。

トップに立てるのは一人。


あの椅子に座れるのは一人だけなのだから。


登り詰めた私は、会社では最高の椅子に座るようになったのだ。

誰もが私を尊敬、畏怖、嫉妬が入り混じる目で見た。


私の人生は成功なのだと実感した。

強い幸福感に包まれた。






 いつの間にか家庭での椅子はなくなった。

別の男が座ることになったのだ。


「もう限界です」


そう言って離婚届を突きつけてきた妻、

母親についていくという子供たち。


理解不能だった。

一体何の不足があるのか。


会社で離婚したことが噂になった。

憐れみの目で見る者もいた。


だが不思議と気にならなかった。


元妻と子供たちの荷物がなくなり、

広くなったマイホームの中で、一人茶を飲む。

試しに今の立場に釣り合う女性と再婚するかどうかを考えてみた。



すると昔のことが思い出された。

妻が病院で第一子を出産した時のことだ。


お産を終えた妻が赤ん坊を抱き抱えていた。

その顔は赤ら顔で疲労が浮かんでいる。

顔には何の化粧も施していないから眉毛がなかった。

髪も完全にバサバサだ。

腕の中の赤ん坊は我が子ながら猿に見える。

ベッドの上の妻は笑いながら私にも子を抱くように勧めた。



その光景を美しいと思った。



すぐに忘れたし、普段は思い起こすこともない。


結論から言うと、新しい妻を迎える気にはならなかった。


あの椅子に座れるのは一人だけなのだから。



今気づいたのだ。





努力して得られるものは素晴らしい

だが男が本当に欲しかったのは

勝ち取ったものか

それとも他人からの評価だったのか


はたして彼は勝者か敗者か

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