表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/11

漆.黎明の兆





黎明(レイメイ)(キザシ)







*



 ずっと、君が来るのを待っていた。

 僕を見つけて。

 憎しみでも、なんでもいいから。


 僕を見て。

 僕をわかって。


 僕はここにいるのだから――。











***



 初游は笑みを浮かべる少年を見て、不思議に思った。

 外は朝を迎えるらしく、光が徐々にさしこんでくる。そしてそのあたたかな光は、そっと包み込むように那蛇叉を照らしていた。



「あたしに、できること?」

 この人のために、それから孤独を恐れる蛇のために、自分になにができるのだろう。それは初游の切実な問であった。

 なにかしてやりたい。互いに生きてゆく方法は、無理矢理調教するだけではないはずだ。




『なにができる?この小娘に』

 蛇はせせら笑うように、那蛇叉に話しかける。

『なにもない。そうだろう?』

 頭に響く彼の否定的な言葉を押しやり、那蛇叉は口を開いた。



 ――夜があけた。

「初游。君が、そばにいて」

 ――「僕ら」の、そばに。


 

 穏やかな気分で那蛇叉はつづける。今までで、いちばん清々しい心持ちであった。


「僕らは器用ではないけれど。蛇はとてつもない寂しがり屋なだけなんだ。僕らには、孤独から救ってくれる存在が必要なんだ」









*



 ――ごめんね。


 あのときの、彼女の言葉が頭に響いて止まない。


 ――ごめん、ごめん、ごめんなさい……。




 理由がわからなかった。

 ただそのときは、裏切られたという事実だけが目の前につきつけられて、どうしようもなく悲しかった。そしてそこではじめて、自分がどれほど彼女に心奪われていたかを思い知ったのだ。




 ――大好きよ。




 ならば、なぜ?

 その想いは切ないほど迫る。


 ならば、なぜ封印をした?

 なぜ裏切った?!

 俺様を愛していなかったのか!


 悲しみと憎しみと、それから寂しさがどっと波のように押し寄せてきて、暗闇に突き落とされた。

 もう、二度と光は見えない……。





 それから何年も、何十年も、何百年もひとりだった。人間の身体に封印され、やってきた彼女そっくりの“蛇遣い”に調教される。

 笛の音は心を切り裂いた――



 今回も、同じだと思った。ハナから期待などしていなかった。




「君がそばにいて」

 と、自分の憑いた人間が言う。“蛇遣い”は目を見開き、それから驚くことに、柔くほほえんで言ったのだ。

「あたしが、ずっとあなたのそばにいてあげる」




 ――ごめんね。


 あのときの、彼女の顔が鮮明に蘇った。


 ――大好き。





 そのとき、さすはずのない明かりが、一気に頭上に輝き、包むように暗闇を照らし出した気がした。







 笛は……

 ふいに目に入った、代々“蛇遣い”に受け継がれる、不思議な紋様の入った笛。


 あの笛は、かつて自分がもっとも愛しい者にあげたものであったことを、そっと蛇は思い出した――。










評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ