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女性ファースト  作者: 七星北斗


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13/13

一 理


 帝国議会鉄学議事堂。

 白磁の床に反射する光は冷たく、まるで人の体温を拒むかのようだった。


 円形に配置された議席を埋めるのは、女、女、女。

 この国において、政治とは女性の特権であり、男性――「しゅう」は、管理され、利用され、処分される存在に過ぎない。


 裁く側と、裁かれる側。

 その境界線は、もはや越えられないほど明確だった。


「――それでは、大帝国鉄学議会を開始します」


 総理大臣・沙弥煌羅の声は、澄んでいながらも刃のように鋭い。

 長い睫毛の奥で、感情を伏せた瞳が議員たちを見渡す。


「本日の議題は、男性犯罪者の増加に伴う、新法制定について。……覚悟は、よろしいですね?」


 軽く微笑む。その仕草だけで、場の空気が引き締まった。


「はーい。覚悟っていうかさぁ」


 間延びした声を上げたのは、労働大臣・宮野日向。


「イケメン以外、全員死刑でよくない? 効率いいし。どうせ男なんて、子種と労働力しか価値ないんだから」


 笑い声が零れる。

 それは冗談のようでいて、誰一人として否定しない現実だった。


「……日向」


 煌羅は名前だけを呼ぶ。

 それだけで、日向の喉が小さく鳴った。


「公の場での発言よ。言葉を選びなさい」


「はーい、ごめんなさーい」


 日向は舌を出しながらも、視線は煌羅から離さない。


「でもさぁ、総理。男に興味ないの、ほんと勿体ない。こんなに綺麗なのに……女同士なら、いくらでも慰めてあげるのに」


 その言葉に、総務大臣・有屋百合が鋭く割って入る。


「宮野日向。私語は慎め」


 そして、ちらりと煌羅を見る。


「……総理、議事を」


「ええ、ありがとう。百合」


 名前を呼ばれただけで、百合の表情がわずかに緩む。

 それを、日向は見逃さなかった。


「……意見のある方は?」


 煌羅の問いに、静かに手が挙がる。


「秩序ナノ公安委員長です」


「どうぞ」


「犯罪を犯す“可能性”のある男性を、事前に隔離すべきかと」


 秩序の声には、一切の感情がなかった。


「更に、処刑前に拷問を施し、その映像を公開する。恐怖を教育として利用するのです」


 ざわり、と空気が震える。


「男に人権なんて与えすぎたのよ」


 法務大臣・水之七が、愉しそうに笑う。


「痛みを覚えさせなきゃ、理解しないもの」


「ただし――」


 煌羅が口を開く。


「今は、まだ早い。一部の男性は、依然として影響力を持っています」


「力を削ぐのが先、ですね」


 外務大臣・柴紫が頷く。


「では……人質を」


「人質?」


「元総理の子息、安原勝治を管理下に置くのです。生かしたまま」


 “生かしたまま”。

 その一言が、何より残酷だった。


「男性は、希望がある限り抗う。ならば、その希望を――首輪にすればいい」


 沈黙。


 やがて、煌羅が微笑む。


「……素晴らしい案です、柴」


 その声は優しく、慈愛すら含んでいた。


「彼を守りたいがために、男たちは従う。私たちは、その間に法を整える」


 煌羅は議場を見渡す。


「決まりですね」


 反対の声は、なかった。


 ――議会は、淡々と終わった。


 夜。執務室。


 煌羅は一人、椅子に身を預け、ネクタイ代わりの装飾を緩める。


「……疲れた」


 女たちの欲望、理性、愛情。

 すべてを受け止める立場の重さ。


「針くん……」


 小さく、誰にも聞こえない声。


「今は、会えないね。でも――」


 彼女は胸元に手を当て、目を閉じる。


「約束は、守るよ。だから私は……この国を、完成させる」


 その微笑みは、救いであり、断罪でもあった。

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