「復讐するは我にあり」
03、復讐
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復讐するは我にあり。
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「師匠。一つ教えて欲しい」
「何よ馬鹿弟子、あらたまって」
夕日指す道場内。畳の上に正座する少年と、胡坐をかく女性がいた。
少年は年齢に不釣り合いな真っ白な髪をした美少年で、同じく白い忍者装束を着ている。
女性は巫女服の上半身を着崩した軟派な格好で、黒髪を短めに揃えていた。
女性はキセルで一服すると、煙をふぅーっと少年に吹き付ける。
「天魔流忍術の基本はだいたい教え終わった。ここから先は応用で、それには実戦経験が不可欠。
だからもう、アタシにはアンタに教える事なんて何も無いと思うんだけど?」
「天魔流忍術のことじゃない。"復讐"について教えて欲しいんだ。"復讐鬼"と呼ばれた――師匠に」
ほう、と女性が面白そうなことを聞いたと表情を変える。神妙な表情から、何やら面白がるような表情に。
「俺は家族を殺した忍者集団"輪廻衆"が許せない。だから復讐をしたい。仇を討ちたい。
だが――何をすれば、復讐したことになるのだろう」
少年は真っすぐ、しかしどこか歪んだ炎を灯した瞳を師匠に向けながら、続ける。
「輪廻衆の連中を皆殺しにすればいいのだろうか。いいやそれじゃあ足りない。殺した程度で晴れるような恨みじゃない。
生きていることを後悔させればよいのだろうか。いいやそれでも足りない。アイツらが生きているなんて許せない。
――殺しても、生かしても、俺の中の憎悪が消える気がしない。ならば、どうすればよいのだろう」
「どうしたって、同じよ」
少年の疑問に、女性は笑みを浮かべながら答える。
「そもそも馬鹿弟子、お前は勘違いをしている。
復讐ってのは仇を討つだとか、恨みを晴らすだとかそういうことじゃあないのよ」
「――どういう、ことです」
困惑する少年。それに女性は、牙を剥くような笑みを浮かべる。
「復讐ってのは「結果」を求めるものじゃあないのよ。
相手が憎いから殺す、破滅させる――それだけよ。
憎悪を燃料に燃え尽きるまで走り続ける。破滅をまき散らし続ける。それが復讐というものよ」
女性が膝をつき、少年の瞳を覗き込む。女性の瞳もまた、歪んだ黒い炎が燃え盛っていた。
「そもそも復讐なんてものをやろうって奴が、まともにモノを考えるのがおかしいのよ。
不条理で、不合理で、不格好。歪で誰にも理解できない行為。それが復讐。
アンタは何をすれば復讐したことになるのか、と問うたわね?
なら私はこう言うしかないわ。
――思うが儘に動きなさい。殺しなさい。破壊しなさい。
復讐と言う道筋は存在しないけど。アンタが憎悪を胸に走った道が――復讐と呼ばれる足跡になるわ」
それで、アンタはどうする? という女性の問いに、少年はすっくと立ちあがる。
その瞳に何もかもを焼き尽くさんとする黒い炎を浮かべて。
「――俺は、殺す。輪廻衆を。輪廻衆に与する者を。輪廻衆に少しでも関係のあるものを。殺して、殺して、殺し尽くします」
「そう」
「師匠。――お世話になりました」
その言葉だけを残して。白い忍者装束の少年の姿は、かき消えていた。
後に残ったのは、夕日に照らされた道場内に一人佇む女性のみ。
彼女はにっと笑みを浮かべると、再び胡坐を組んでキセルを吸い始めた。
――行っといで、馬鹿弟子。
「復讐するは我にあり」END




