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短編集  作者: ホムラ
3/24

「復讐するは我にあり」

03、復讐


●●●


 復讐するは我にあり。

 

●●●


「師匠。一つ教えて欲しい」

「何よ馬鹿弟子、あらたまって」


 夕日指す道場内。畳の上に正座する少年と、胡坐をかく女性がいた。

 少年は年齢に不釣り合いな真っ白な髪をした美少年で、同じく白い忍者装束を着ている。

 女性は巫女服の上半身を着崩した軟派な格好で、黒髪を短めに揃えていた。

 女性はキセルで一服すると、煙をふぅーっと少年に吹き付ける。

 

「天魔流忍術の基本はだいたい教え終わった。ここから先は応用で、それには実戦経験が不可欠。

 だからもう、アタシにはアンタに教える事なんて何も無いと思うんだけど?」

「天魔流忍術のことじゃない。"復讐"について教えて欲しいんだ。"復讐鬼"と呼ばれた――師匠に」


 ほう、と女性が面白そうなことを聞いたと表情を変える。神妙な表情から、何やら面白がるような表情に。

 

「俺は家族を殺した忍者集団"輪廻衆"が許せない。だから復讐をしたい。仇を討ちたい。

 だが――()をすれば(・・・)復讐(・・)したことに(・・・・・)なるのだろ(・・・・・)()

 

 少年は真っすぐ、しかしどこか歪んだ炎を灯した瞳を師匠に向けながら、続ける。


「輪廻衆の連中を皆殺しにすればいいのだろうか。いいやそれじゃあ足りない。殺した程度で晴れるような恨みじゃない。

 生きていることを後悔させればよいのだろうか。いいやそれでも足りない。アイツらが生きているなんて許せない。

 ――殺しても、生かしても、俺の中の憎悪が消える気がしない。ならば、どうすればよいのだろう」

どうしたって(・・・・・・)()じよ(・・)


 少年の疑問に、女性は笑みを浮かべながら答える。

 

「そもそも馬鹿弟子、お前は勘違いをしている。

 復讐ってのは仇を討つだとか、恨みを晴らすだとかそういうこ(・・・・・)とじゃあな(・・・・・)()のよ」

「――どういう、ことです」


 困惑する少年。それに女性は、牙を剥くような笑みを浮かべる。

 

「復讐ってのは「結果」を求めるものじゃあないのよ。

 相手が憎いから殺す、破滅させる――それだけ(・・・・)よ。

 憎悪を燃料に燃え尽きるまで走り続ける。破滅をまき散らし続ける。それが復讐というものよ」

 

 女性が膝をつき、少年の瞳を覗き込む。女性の瞳もまた、歪んだ黒い炎が燃え盛っていた。

 

「そもそも復讐なんてものをやろうって奴が、まともにモノを考えるのがおかしいのよ。

 不条理で、不合理で、不格好。歪で誰にも理解できない行為。それが復讐。

 アンタは何をすれば復讐したことになるのか、と問うたわね?

 なら私はこう言うしかないわ。

 ――思うが儘に動きなさい。殺しなさい。破壊しなさい。

 復讐と言う道筋は存在しないけど。アンタが憎悪を胸に走った道が――復讐と呼ばれる足跡になるわ」

 

 それで、アンタはどうする? という女性の問いに、少年はすっくと立ちあがる。

 その瞳に何もかもを焼き尽くさんとする黒い炎を浮かべて。

 

「――俺は、殺す。輪廻衆を。輪廻衆に与する者を。輪廻衆に少しでも関係のあるものを。殺して、殺して、殺し尽くします」

「そう」

「師匠。――お世話になりました」


 その言葉だけを残して。白い忍者装束の少年の姿は、かき消えていた。

 後に残ったのは、夕日に照らされた道場内に一人佇む女性のみ。

 彼女はにっと笑みを浮かべると、再び胡坐を組んでキセルを吸い始めた。

 

 ――行っといで、馬鹿弟子。

 

 

「復讐するは我にあり」END


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