表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
短編集  作者: ホムラ
20/24

「サイバーパンク・買われた奴隷」

 2119年。

 科学技術・資本主義が発展しつくした結果、道徳や倫理と言ったモノは売り飛ばされてしまった時代。

 売れるモノは何でも売れ、買えるモノは何でも買え。資本こそが正義。持つモノが正しく、持たざるモノは間違っている時代。

 俺は、持たざるモノだった。

 

「――四番。十五歳男性。電脳化・義体化なしのフレッシュな素体。労働力というよりは実験用のモルモットに最適な奴隷です。では二十万から……」


 ヨミガハラ市、地下の奴隷オークション。

 その舞台の上で、多くの観客達に値踏みされている全裸の男が一人。

 俺だ。

 名前は無い。昨日まではあったが、親の借金のカタに奴隷業者に売り飛ばされた際、戸籍ネットワークから消されてしまった。

 今の俺は"四番"と呼ばれるオークションにかけられた奴隷。ただそれだけの存在だった。

 

「――二十二万、他にございませんか……?」


 オークショニアの言葉を聞き流しながら、俺は舞台の下の観客達を見る。

 不自然なほど整った顔立ちの男女がいる。ヘルメット状の義体頭にモノアイの人物がいる。子供にしか見えない人物がいる。

 普通の人間なんて、誰もいない。

 それがこの時代だ。普通では乗り遅れる。異常でなければならない。

 誰よりも多く金を、誰よりも多く財を、誰よりも多くの富を――自分さえも改造し、どこまでも貪欲に、高速に走り抜ける者達で無ければいけない。

 そうでなければ――俺のように、全てを失うだけだ。

 

「では決定です」


 カンカン、と渇いたハンマーの音がする。俺の買い手が決まった合図だった。

 俺はこれからどうなるのだろう。

 そんな絶望感と共に、俺は舞台袖へと連れていかれるのだった。

 

●●●


「――君は美しいな」


 俺を買ったのは、全身義体の女だった。職業・義体プロレスラー。サイボーグ同士の素手の殴り合いで生計を立てている人だった。

 俺は彼女のマンションの一室に置かれた。何もせず、ただそこにいる事。それが求められたことだった。

 

「私の機械だらけの身体とは違い――君の身体は100%生まれたままだ。一切の電脳化・義体化が無い。それが、とても美しい……」


 何も無い真っ白な部屋で、全裸の俺がただ体育座りしているのを、彼女はじっと見る。

 俺にはよく分からないが、それで彼女は"癒し"を得ているのだという。

 一度、何が良いのですか? と聞いたことがあった。

 

「人は、生まれたままが最も美しい。そのことを確認出来るのが良いのだよ」


 彼女は奴隷の無礼な質問にも関わらず、真摯に答えてくれた。

 

「この時代。人は電脳化・義体化して――機械に身体を置き換えなければ、生きていけない。時代から振り落とされ、富も名誉も失ってしまう。だから私も全身を機械に置き換えたわけだが――だからこそかな。時折どうしようもなく"生身"を恋しく思ってしまうのだよ。私達が失った生身(モノ)。それこそが最も価値のある物だったのではないか――とね。こうして君を見ていると確信するよ。私達が失った生身(モノ)の、なんと美しい事か――」


 恍惚とした表情で俺を眺める主人。

 それを無表情に眺めながら、しかし俺は胸中で思うのだった。

 

 ――生身に価値があると貴女は言うが。生身では、何も得られず、奴隷に落ちるしかない。そんなものに、どれほどの価値がある――?

 

 持たざるモノが、持つモノに憧れる。結局はそれだけの話なのではないか。

 そんなことを思い、しかしそれはおくびにも出さず――

 何も持たない奴隷は、今日も愛でられるのだった。

 

「サイバーパンク・買われた奴隷」END




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ