「シスターコンプレックス」
姉は世界最強の超人だ。
空を自由に飛び、その体躯は鋼の頑強さを誇り、ビルを持ち上げる怪力を持ち、目から熱線、口から凍結吐息、超感覚と彼女の能力は多岐にわたり、その上どれも非常に強い。
文字通りの超・女子、それが我が姉である。
「そんな姉を、何の能力も持たないでがらしの弟であるお前が、あろうことか護りたい、だと?」
とある暗い廃墟の中で。俺は一人の老人と相対していた。
俺は無能力者だ。何の能力も持たない、ごく普通の人間。超人である姉と比べれば、どこにでもいる凡百のモブキャラである。
そんなモブキャラである所の俺が、老人と話しに来たのは――姉を、護るためだった。
「姉さんは最強で最高の人だ。まともに戦えば誰にも負けないだろう。一国と正面から争ったって負けるビジョンが見えない。それぐらい強い人だ」
「なら護る必要なんてないだろう」
「まともに戦えば、の話だ。正面からの殴り合いなら姉さんの敗北はあり得ないけど――どうも、あの人は人を信じすぎる所がある」
「そうだな。世の善性を信じている甘ちゃんだ」
「はっきり言って騙されやすい。あるいは、姉さんの精神を操る――なんて能力者もいるかもしれない。そう言った姉さんが認識しない、出来ない悪意から彼女を護る。俺はそんな力が欲しいんだ」
「ただの人間であるお前が、か」
「ただの人間である俺だからだ」
老人の言葉に、俺は決意を込めて返す。
俺は弱い。姉さんのように超能力を持っているわけじゃない。だがだからこそ、自分や家族を傷つけようとする悪意には聡いと自負している。
弱いから。自分達を害そうとする悪意には鋭くなったのだ。
弱いからこそ得たこのセンスで、俺は姉さんを護りたい。
姉さんが世界中の人々を護るヒーローなら。俺は姉さんただ一人を護るヒーローになりたい。
「シスターコンプレックスもそこまで歪めば面白いな」
老人がそう言って、呵々大笑する。
「面白い。面白いぞ小僧。その歪み具合も含めて実に儂好みだ。――いいだろう、儂の技術・装備・戦闘術――全てくれてやる。それで世界を護るという正義ではなく――姉を護るというエゴを貫くが良い!!」
そう言って差し伸べられた老人の手を、俺はしっかりと、握り返したのだった。
――この日、世界を護る正義の味方・スーパーレディとある意味で双璧を為すヒーロー、悪の敵・アイアンバットが誕生したのだった。
「シスターコンプレックス」END




