「私を殺した責任」
●これまでのあらすじ
ある世界は、魔王によって闇に包まれていました。
しかし勇者が魔王を倒し、闇は払われ、人々は救われました。
それから十年後。人々が平和に暮らしていた世界に、再び魔王が現れました。
勇者は再び、魔王討伐の旅に出たのでした。
●●●
「勇者よ。貴様、この十年で何を得た?」
魔王城、玉座の間。魔王に相応しい禍々しく黒い玉座と、多くの臣下が立ち並ぶに足るスペースが広がる部屋。
数百人は優に入れるその部屋には、二つの人影があった。
片や漆黒の鎧に身を包んだ美しき青肌の女性――魔王。
片や白銀の鎧に身を包んだごく普通の青年――勇者。
魔王は玉座に座ったまま、剣を構える勇者に対して言葉をかける。
「十年前、お前は私を倒した。それによって、貴様は何を得た?」
「――平和な世界。人々が魔物に怯えることなく生きていける世界。それを手に入れた」
勇者の答えに、魔王は違う違う、と被りを振る。
「それはお前だけが得たモノでは無いだろう? 平和な世界とやらは、お前達人間共全員が手に入れたモノだ。そうではなく――お前個人が得たモノは無いのか?」
「無い。私利私欲でお前と戦ったわけじゃない。だから平和な世界さえ来るのなら――それでよかったんだ」
「――駄目だな」
勇者の目を見ていた魔王は、はぁ、とため息をつく。
彼の目はどこまでも真っすぐで、愚直で――その言葉に一片の嘘も無いのだと語っていた。
それが、彼女には気に入らなかった。
「貴様、私を倒したのだぞ? 世界を闇に染め、支配した魔王を! そんな男が、何も得ることなくこの十年生きてきただと? なんだそれは」
「――魔王?」
「私は、それが許せない。何も得ずにのうのうと生きる貴様も。貴様に何も与えず、のうのうと生きる世界の人々も!」
だから、と魔王は叫ぶ。玉座の間が揺れるほどの勢いで。
「だから私は復活したのだ! 私を倒しておきながら、私の屍の上で生きていながら――なんだそれは! それが私を殺した者の生き様か!?」
「魔王……?」
「私は怒っている。憎悪している。私を殺しておきながら、何も得なかった勇者(お前)に。私を殺させながら、何もお前に与えなかった世界に!!」
だから――滅ぼすのだ。そう魔王が言い切る。
その表情には怒りと、悲痛さがにじみ出ていた。
勇者は思う。
――俺は、お前を殺したのだから。その罪を背負って、償わなければならないと思っていた。
――俺は、どこまで行っても殺人者で。破壊者で。だからこそ幸せになってはならないと、何も得ないようにしてきた。
――その生き方が、魔王(お前)の誇りを傷つけたのか。
剣を握る手に、力がこもる。剣を構えたまま、勇者が叫ぶ。
「魔王。俺はお前を殺す。世界のために。そして――俺のために。お前を殺して、俺は栄光を手に入れよう。幸せになってみせよう」
その言葉に、魔王はにやりと笑う。
「それでいい! 私を殺すのだ――並大抵の幸せでは許さんぞ!!」
彼女もまた叫び、剣を抜く。
そして再び、勇者と魔王の戦いは始まるのだった。
その戦いの結末は――まだ誰も、知らない。
「私を殺した責任」END




