第四話 四人目の共犯者④
「……作戦タイムは終わったかぁ?」
ナイフ男はにやけた顔で刃をじゅるりと舐めた。再び刃がきらりと輝る。
左右多はカッペリの方を見る。
(カッペリは"私を信じろ"と言った。何らかの作戦があるはずだ。しかしなぜ動かない?何が狙いなんだ?いったい何をするつもりだ!?)
「終わったわ。――どこからでもかかってきなさい!」
カッペリはナイフ男の目を睨んだが、額からは焦りの汗が滲む。汗がきらりと輝る。
「威勢だけはいいな。だが三対一――勝ち目なんてねえぜ?」
ナイフ男はナイフを握り直す。男の視線は一瞬カッペリとぶつかるが、そのまま通り過ぎて初老の目の中に滑り込む。しまった!!――左右多は反射的に身体を強張らせる。ナイフ男に気をとられ、背中は完全に無防備だった。緊張で唾を飲み込む。「ゴクン」と音がなる。だが、周囲は沈黙したままである。首と視線だけを後ろに持っていく。初老の男と目が合った。
少しの間を置いたあと、初老の男が口を開く。
「……ちょっと待てい。まずは自己紹介だ。俺の名前はソルト・レモン。コイツらからはリーダーと呼ばれている。」
ソルトと名乗る男は淡々とした口調で言った。
「……必然的に次は私の番ですね。私の名前はポテトフライ。以後お見知りおきを。」
ソルトの後を横のポテトフライが続く。なんだか美味しそうな名前である。
「ったくリーダーには叶わねぇなぁ……俺はカルーゲ。ま、冥土の土産にしてくれや。」
ナイフ男のカルーゲも流れに乗った。だがナイフは降ろさない。
(……じゃねーよ!何だよこの空気?なんでほのぼのした感じになってんの!?)
「私の名前はカッペリ。とある事情で此処にいるわ。」
(なんでお前までノッてんだ!空気より俺を守れよ!!!)
「……ん?」
ふと違和感を感じた。敵たち視線がこちらに向けられている。カッペリまでも。
「なっなに……?何か文句でもあるわけ?」
「そりゃ、ねぇ?みんな言ったんだし。……その先は言わなくても分かるわね?」
「"分かるわね"じゃねーよ。つーかなんでカッペリがそっちサイドにいるんだよ……」
「おいそっちの姉ちゃんの言うとおりだせ?せっかくいい雰囲気からの和解まで見えてきたのによ☆」
カルーゲはへらへらした表情で、ナイフをひらひら動かしている。
(和解!?まさかカッペリ……これを狙って!)
カッペリは左右多に目配せをした。額には汗がてらてらと浮かび、目は「私の言う通りにしなさい」と叱ってる様だ。
「どうするんだ兄ちゃん?言うか、言わないか」
カルーゲが急かす。ホラホラと、こちらに風を送るように、ナイフを仰ぐ。尖端がちらちらと見えて、恐怖がぶり返す。
「わっ、分かった。言う、言うから!そのかわり条件がある。」
「条件?」
カルーゲの表情がうっすらと曇る。
「ナッ、ナイフを降ろせ!そのだっせーナイフを……はっ!?」
左右多はカルーゲの表情が強張ったのを見て、思わず言葉を切ってしまった。
「何、だと?」
カルーゲの声はさっきよりも一段低い声だ。
(なっ、何かマズイことを言ったか……?)
「もういっぺん言ってみろ……」
「えっ…?」
左右多は訳が分からず、カッペリの顔を伺う。だがその表情を見て強張った。滲んでいた汗はもう嵐のようで、頬を流れて顎には滝が出来ていた。
「うっ……!」
とんでもないものを見たと目を逸らす。左右多の額にも汗が滲む。沈黙が生まれる。
「おい……」
沈黙を破ったのはカルーゲである。
「えっ、はい?」
左右多は抜けたような返事をする。
「えっ、はい?じゃねえよ。今なんて言ったか聞いてんだよ……」
カルーゲは明らかに怒っている。しかし左右多には検討がつかない。かと言ってカッペリに擦りつけることも出来ない。八方塞がりになって、コイツ何言ってんだ?と開き直った目でカルーゲを見たら、
「もういっぺん言ってみろっつったんだ!!!」
と裏返った声で怒鳴られた。
「えっ、えーーーッ!!!?」(どっどうする……もう一度言うべきか?言うべきなのか!?)
しかし何を言うべきか。そもそもなぜ怒っているのか。自己紹介をしなかったから?同調圧力が強い世界なのかもしれない。でも一応敵だぞ?いったい何に同調するんだよ。と考えるほど分からなくなる。
「その……あの……」とうとう言葉に詰まった。
「あぁ!?」とカルーゲは威嚇する。
分からん。「いっぺん言え」って何だ?「いっぺん」をいっぺん言えばいいのか?いや素直に繰り返すのか。えっと、ナイフを降ろせ――。
「あの……じゃあ言いますね。ナッナイフを降ろせ。そ、そのダッセーナイフ……」
「ゆっ……許せんッッ!!!」
再びカルーゲはナイフを構える。その表情にも殺意が含まれている。
「えっ?はっ……どこが駄目でしたか?ちょっと棒っぽかった?」
と左右多は素っ頓狂な声をだす。
「ちょ……バカ!?何言ってんの!?」
とうとうカッッペリが堪え切れず間に割った。
「はぁ?だって"もういっぺん言ってみろ"って言ったじゃないですか!」と左右多は真剣に抗議した。
「いやバカ!?もうバカなの!?」
「え…あれ……また俺なにかやっちゃいました?」と今度は本気で尋ねる。
「……いや何もしてないから。つーかもう何もしないでくれる?」
カッペリは冷たい声と呆れた表情で突き放す。
「えっちょ……いや訳分かんねーわ。ちゃんと説明しても――「おい……」
左右多の文句をカルーゲがドスの効いた声で遮ぎった。
「あ、はい。なんスか……?」
流石の左右多も危険を察知して、カルーゲの声に耳を傾ける。
「和解は無しだ!つまりテメーらここで死ね!!!」
男は刃物を振り上げた。
一触即発。否、すでに遅し。左右多は一歩仰け反った。や、殺られる――!
そのときだった。
「ちょっと待った!!!!」
裏路地に声が響いた。




