魔力ゼロ
反面、エルクは強い、とは言えない。
魔力ゼロ。
先天的に、体内に魔力を蓄積することが出来ない体質なのだ。
この致命的な体質は、永いエルクの王家でも類を見ない欠点だ。
だが、武術はそれなりに鍛えているので、人間の領域ではそれなりに戦えるとエルクは楽観している。
エルクは、全く魔法が使えない訳ではない。
魔力結晶を使ったり、大気のマナを直接利用したり、他者から魔力を貰ったり。
そういった物で行使は可能だ。
しかし、大気のマナを利用する場合は発動速度が致命的に遅くなる為、戦闘には向かない。
エルクがリア、ジャンヌと共に朝食をとり、エルクは部屋に戻り出発の準備をする。
支度を整え、リアとジャンヌが待つ広間に着くと、部下が呼び止める。
「エルク様、誠に申し訳ありません。出立前に御願いしたい事が御座います」
「御願い・・・ああ、水かな?」
エルクが思い当たる。
「左様で御座います」
「構わないよ」
エルクは部下の先導で、溜め池に着く。
確かにかなりかさが減っている。
「日照り続きだったからねえ」
ジャンヌがうんうん、と頷きながら言う。
「ジャンヌ」
エルクが呼びかけると、
「うん、エルク、どうぞ」
ジャンヌが首を差し出す。
エルクがジャンヌの首筋に牙を立てる。
「ん・・・」
ジャンヌが声を漏らす。
七色の輝きをその体に宿したような、万能感がエルクの体を満たす。
吸血による魔力増強は、飛躍的な効果をもたらすが・・・ジャンヌの血は格別の効果を持つ、エルクはそんな気がしている。
ジャンヌの首筋から牙を抜き、軽く舐めると、ジャンヌの首筋の傷が塞がる。
「有り難うジャンヌ」
ジャンヌに礼を言い、再び溜め池の方を向く。
そして。
「水よ、在れ」
世界に対する強制。
緻密、かつ、暴力的なまでに強力な魔力は、魔法を構成。
世界の理を歪ませ、上空に水が出現。
そのまま落下し、あっという間に大きな溜め池からは水が溢れ出した。
エルクは、魔力こそ体内に貯められないものの・・・その魔法構成能力は異常と言えた。
今やった事だけでも、農業生産が保証されるという事であり、世界のバランスが崩れかねない事だ。
無論それだけではない。
各種禁呪も修めており、外部には秘しているが、敵国の遠征をエルクの魔法で撃退した事は数多い。
「流石です、お兄様」
リアがうっとりして言う。
「ほとんどの国民は知らない、謎の溜め池の秘密。何度見ても凄いなあ」
ジャンヌが惚れ惚れして言う。
「一人でこれができるなら、もう少し自信も持てるのだけどね」
エルクが苦笑する。
「じゃあ、行ってくるよ、リア、ジャンヌ」
ジャンヌに口づけをする。
「はい、行ってらっしゃいませ、お兄様」
「早く帰ってきてね、エルク」
こうして、エルクは二人と部下に見送られ、人間の領土へと向かった。