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張りつめて、張りつめて、張りつめて、集中の糸が切れる寸前の極限状態が求められる刹那。
大輝はその刹那を重ねて永遠にも思える戦いに身を投じていた。
英雄の力。それは、とてつもない力だ。
目まぐるしく変わっていく間合いと戦場に最も有効な武器を導き出し、魔法で創造し自由自在に操っていく。
それと同時に神速で空中に複雑な魔法式を描き、次々と魔法を射出する。
それらを可能にしているのが英雄の力だ。
しかし、それでもまだルキウスの瞳には大輝の敗北が映っていた。
ルキウスが起こした奇跡をもってしても勝利は遠かった。
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一瞬で千回攻防が入れかわり、一億の攻撃を交し合うような戦い――――神の次元の戦い。
世界の英雄と世界の破壊者はお互い以外を置き去りにした世界で笑っていた。
「は」「はははは」「はははははは!」「はははははははははは!!」
自分という存在を焼て、命を燃やして、心を焦がすそんな戦いに大輝は『生』を感じていた。
死んだように生きてた日常を粉々に打ち砕く、圧倒的な非日常。皮肉にも大輝は非日常に現実感を取り戻していた。
溢れる感情を笑って吐き出す。
「は」「はははは」「はははははは!」「はははははははははは!!」
相対する金髪紅眼の悪魔も何を思ってか笑う。
いひひひっひひひっひひっっひひっひっひひひひひ。
悪魔は笑う。
破滅的に――――そして悪魔的に。
しかし、大輝はその笑い声に確かに高揚の色を感じていた。
いひひひっひひひっひひっっひひっひっひひひひひ。
「は」「はははは」「はははははは!」「はははははははははは!!」
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空は見渡す限り雲一つなく、どこまでも青く澄み渡り、太陽が燦々と輝いていた。
地面は見渡す限りそこで起きた戦いの傷跡を刻み、その地形すら変えていた。
そんな中に月影大輝は倒れていた。
大輝が自分の体を首だけで見下ろすと、学校指定の制服である黒いブレザーと白いポロシャツそして紺色のズボンが見えた。
その全てが、血によって鮮やかな赤一色に染め上げられており、悪魔によって切られ、貫かれ、射貫かれ、焼かれ、噛まれ、潰されたことによりボロボロになっている。
辛うじて、服の役割を果たしているのは、これも向こう側から大輝が持ち込んだ品であるからだろう。
腕や足には悪趣味な金の鎖が何重にも絡まっていて、体には同様の鎖の先に金の鏃がついているものが何本も貫通していた。
少し体を動かすだけでもだけでジャラジャラと耳障りな音を立てる。
大輝はそんな自分の姿を見て、もし制服の着こなしに厳しい生徒指導の教師が、自分の姿を見たらなんと言うのだろうかと思い、少し笑ってしまう。
この世界から与えられた恩恵の力を感じる。
凄まじい力だと思う。
こうして横になっているだけで、大輝の体に刻まれた傷が目に見える速さでどんどん塞がっていくのだから。
しかし、そんな力をもってしても大輝は無茶をし過ぎたようだ。傷は塞がっても金の鎖から流し込まれた呪詛によって生命が蝕まれていくのを感じた。
もうすぐ大輝は死ぬ。
その事実を理解しても恐怖はなかった。
戦いに身を投じる前からこうなることはわかっていた。
大輝は満足気にため息を吐くと、空を仰ぎ見た。
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大輝と悪魔の戦いは、最後の攻防が終わり――――結果は相打ちだった。
大輝は呪いによってすでに死ぬことが決定し、悪魔は大輝の剣に貫かれたまま実態を維持できなくなり、その体が少しずつ砂金に変わっていき、きらきらと光る。もはや、体を動かすこともかなわないようだ。
そして最後に大輝と同じように満足気なため息を吐いて砂金になって崩れてしまった。
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ザッザッザッと土を踏みしめる音が大輝に近づいてくる。
「やあ」
足跡の主に大輝が声をかける。
「ああ」
感情を感じさせない能面のような表情を浮かべ、感情を感じさせない平坦な声で少年が返事を返す。
「……」
「……」
「……君の記憶を見たよ」
「……そうか。俺もお前の記憶を見た」
「そんな気はしていたよ。……あのさ」
「なんだ?」
「お願いがあるんだけどさ」
「俺は、いや俺たちはお前には大きな借りがある。できる限りのことはする。言ってみろ」
「……僕と友達になってくれない?」
「……」
「知っていると思うけど友達がいないんだよ、僕」
「……ああ。お前は俺の友だ。俺にとって唯一のな」
「知ってるよ。君も友達が少ないんだよね」
「……ああ」
「王様に友達は必要ないと思ってきたんでしょ? 完璧な王様を演じるために」
「…………そうだ。俺は王だから」
「だったらさ、僕の――――友人の前でくらい王様をやめてもいいんじゃないかな?」
「…………」
「僕は君を知っている。君の弱さを。本当の君を」
「…………すまない。……すまない。……俺がお前を巻き込んだ。……だから……お前は!」
王としての表情が崩れ去り、人前に出さないようにと抑え込んでいた感情がこぼれ始める。
「違うよ。僕が死ぬのは僕が選んだことだ」
その事実は譲れない。大輝自身の誇りだから。
「でも、俺が召喚しなければ……」
「もし、そうなっていれば、僕はただ無意味に生きて死んだだけだ。向こうの世界でね。そんな人生、死に続けているのと変わらない」
「俺はお前を知っている。お前のあの時の後悔も、なんで戦ってくれたのかも。……それでも……それでも俺は!」
ポタポタと滴が地面に落ち、吸い込まれていく。
「僕は感謝しているんだよ。僕みたいなクズでもこうやってたくさんの人と君を救うことができたんだから。ルキウスありがとう」
「違う!! お前はクズなんかじゃない。……お前は…………俺は、もっとお前と――――大輝と一緒にいたかった! 大輝に生きていて欲しかった!」
ルキウスの被っていた無表情の仮面はすでに消え去り、一人の少年としての感情だけがあった。
「そうだね。僕もこの世界で君と一緒に生きたかったよ。でもさ、だからこそ僕の分も君が生きてほしい。君は僕の憧れだから」
「……俺はお前に憧れてもらえるような人間じゃない」
「自分のことは案外わからないものだよ」
「そうかもな。じゃあ、俺はお前に憧れるよ」
「えーないよ。ないない。本当に僕の記憶を、人生を見たの? 何もしていない――――できない人生だった。最後は少しはましだったかもしれないけど」
「自分のことは案外わからないものなんだろう?」
「これは一本とられたなぁ」
大輝が力なく笑うと、ルキウスも少し笑う。
「……」
「……」
会話が途切れ、優しい沈黙が場を支配する。
「……」
「……」
「……そういえばさ、英雄召喚の魔法って波長の合った者を召喚するんでしょ?」
「確か、文献にはそう書いてあったな」
「考えてたんだ。君と僕の共通点を」
「確かにな。こんな風に異世界で異世界人のために戦うほど俺は愚かじゃないな」
口は悪いが、その言葉は大輝への感謝である。
「僕も世界から悲劇を無くそうなんて理想を掲げるほど強欲でもないしね」
同じく、その言葉はルキウスへの称賛である。
「それで、わかったのか?」
「うん。それはきっと『弱い』ことだと思う」
「……」
「僕は自分の『弱さ』から目を背け続けてきた。けど君は違うだろ? 自分の『弱さ』を認めながらも、必死にあがいてきたじゃないか」
「……」
「だからさ、あんまり自分を責めないでよ。君の部下は誰一人君を恨んでいないはずだから」
「……そんなことあるわけ」
「あるよ」
ルキウスの弱音を大輝が即答で叩き切る。
「…………」
「…………」
大輝とルキウスの視界が交差する。
「………………わかった。善処する」
疲れた様にため息をついてルキウスが先に折れた。
「善処じゃダメ。約束してよ。君が君のことを好きになるって。すぐじゃなくてもいいんだよ。ゆっくりでもいいからいつか」
「仕方ないな。わかった。約束だ。必ず守るよ」
「うん。それがいいさ」
「……」
「友人の将来について安心したら眠くなってきたよ」
「そうか」
涙が再び溢れてルキウスの視界をゆがめる。
「……最後にもう一度……言わせてもらうね。ありがとう。……ほんとうに……ありがとう、ルキウス」
「俺のほうこそ……ありがとう。俺は……お前の創った未来を……お前に誇れる未来にして……みせるよ、大輝」
ルキウスの声は涙声になっていた。
「……」
「……」
「……そろそろお別れだ。さようなら、僕の友達」
「……どうかやすらかに。お休み、俺の友」
そして、大輝は息を引き取った。
「…………………」
涙が滂沱として流れ落ちていく。
「…………………」
涙を止めなくてはならない。
「…………………」
友人のいなくなった今、自分は王なのだから。
「…………………」
だから、弱い自分は隠さなければならない。
「隠さな……ないと……駄目……なのに……くそ……うぅ、ああ、あああああああああぁッッ!アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!」
戦の終わった戦場に再び孤独になった王の慟哭が響いた。