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ある世界にある少年がいた。銀髪銀眼の少年だ。
その世界は剣と魔法の世界で神秘に溢れていて、悪魔によって滅ぼされかけていた。
その少年は確かな王の器を持っており、そして圧倒的な魔法の天才だった。
少年は名をルキウスといった。
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ルキウスは幼い頃、住んでいた村を悪魔に焼かれた。
悪魔が襲ってきたとき、両親はルキウスを隠し部屋の中に押し込んだあとすぐ、家の中に入ってきた悪魔に殺された。
ルキウスが小部屋の中でで膝を抱えて震えていると、絶え間なく上がっていた悲鳴が止まった。
悪魔が村人全員を殺し終えたのか、あるいは助けが来たのか。
恐る恐る外に出てみると騎士団がいた。哨戒任務中に村の異変に気付いて駆けつけてくれたらしい。
助かったと安堵したのもつかぬま、村の惨状に唖然とした。
死があふれていた。昨日、いやさっきまでは普通に生活していた人たちの死体。
その中にいくつもの動物を歪に組み合わせたような醜悪な化け物の死体がいくつか混ざっていた。――――悪魔だ。
悪魔は首や腕に金の鎖を巻いていた。
そんな光景を見てルキウスは決意した、いつかこんな悲劇を世界から消し去ってみせると。
これは復讐ではない。
憎むのは悪魔ではなく、己の弱さだ。
あのとき隠れていることしかできなかった自分の弱さだ。
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ルキウスは悪魔と戦った。戦い続けた。
ルキウスは戦いの中で魔法の力を開花させていった。
千の戦場を渡り、万の敵を屠り、十万の人々を救った。
そうして戦い続けているうちに、いつしか人々はルキウスのことを王と呼び始めるようになった。
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悪魔は世界に穴を開けて魔界からやってくる。
悪魔は人の感情と死を食らう。
魔界では悪魔に実体はなく、この世界に干渉するために肉体を具現化させているのだ。
低位の悪魔は動物をモデルとした醜悪な化け物で知性もほとんど理性もないが、高位の悪魔は人の形をしていたり、あるいは会話をすることさえ可能だという。
低位の悪魔はただ単に人を殺すだけだが、高位の悪魔は惨劇を産み、悲劇を楽しみ、絶望を育み、無残に殺す。
この世界に来る悪魔には一つ特徴がある。
みな一様に首や腕に金の鎖が巻いているのだ。
魔王――――「金鎖の悪魔」の従僕である証だ。
こちら側に来る悪魔はすべて「金鎖の悪魔」の従僕で、「金鎖の悪魔」のみが世界に穴を開けられるらしい。
今はまだ自分が通れるほど大きな穴を開けることはできないが、「金鎖の悪魔」は従僕に人の感情と死を食らわせ自分の力を高めている。
そう遠くない未来、この世界に「金鎖の悪魔」が顕現する。そうなってしまえば手遅れだ。
人間種ヒューマンだけではなく獣人種ライカンスロープに森妖精種エルフなどの亜人種デミヒューマンなどを含めた人類が全て悪魔の玩具になり果ててしまうだろう。
痛めつけられ飽きられたら殺されるだけの玩具に。
だから、そんな未来は絶対に回避しなくてはならないのだ。
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ルキウスは魔法の天才であったがゆえに多種多様な魔法が使えた。
腕の一振りで、紅蓮が舞い、濁流が押し寄せ、稲妻が光り、城壁が築かれる。
そして、何よりルキウスが使える魔法の中でもっとも強力な魔法が未来予知の魔法だった。
未来を予知してその未来にたいしてルキウスの戦力でもって迎え撃つ。
そうやって最善手を打ち続けた。
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ルキウスは一人で豪華な部屋にいた。
まさに王の部屋にふさわしいような部屋だ。
そんな部屋を見渡してルキウスはため息を吐く。
「……こんなに広くて装飾過多な部屋、逆に落ち着かない」
それに今だってどこかの村では飢えに苦しんでいるかもしれないのだ。
しかし、部下たちに王としての振舞いが兵たちの士気にかかわると言われれば仕方が無い。
ルキウスは少し考え込む様子を見せた後、近くにあった花瓶を衝動的に地面に叩きつける。
ガシャン!と花瓶の割れる音を聞きつけた扉の外の護衛がノックする。
「どうかなさいましたか!?」
「いや、なんでもない。少し手を滑らしただけだ」
言い訳をしながら、物にあたってしまった自分にうんざりする。
「……クソッ、クソッ、クソッ、クソッ」
その声は部下たちが聞けば耳を疑うほどに弱弱しい声だった。
「……すまない。すまない。すまない」
その謝罪はルキウスの命令で死んでいった部下たちへのもの。
「ああ。わかっているさ。俺には謝罪することすら許されない。それでも……すまない」
確かな王の器を持っており、そして圧倒的な魔法の天才だったとしても。
最善手を打ち続けるために犠牲にしてきた部下がいた。
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ルキウスの未来予知も万能ではない。
ルキウスの未来予知はあくまでも、未来の可能性を見るものだ。
だからこそ、その情報をもとに未来を変えられるのだが。
そして遠すぎる未来は見通せない。可能性が分岐しすぎて、読み取ることができないのだ。
しかし、それでもその力は十分に協力で悪魔に通用しているはずだった。
ルキウスはある部下に言った。
世界のために死んでくれ、と。
その部下は言った。
喜んで、と。
あなたを信じている、と。
私の願いをあなたに託す、と。
満面の笑顔でそういって死んでいった。
死んだのは皆そんな奴らだった。
自分の命令で何千人、いや何万人死んだ?
その結果がこの様かと己を自嘲する。
それでも戦わなければならない。
死んでいった者達のためにも、起きないとわかっている奇跡を頼りにしてでも。
ルキウスは気を引き締めて扉をあけ放ち、そばの部下に命令する。
「これより召喚の儀式を行う。 直ちに用意せよ!!」
その声には先ほどの弱々しさはなく、王としての威厳だけがあった。
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いつからか、ルキウスの見ることのできる未来はすべて「金鎖の悪魔」の降臨と最終決戦へと繋がっていた。
そして、人類は悪魔に敗北する。
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ルキウスは敗北を知った。
どんな手を打っても敗北以外の未来は見えない。
それでも、諦められないと思った。諦めちゃいけないと思った。
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英雄召喚という魔法がある。古い。とても古い魔法だ。
異世界人を召喚し、その者に英雄の力を宿らせるという魔法だ。
いや、それは魔法というほどの形態をとることのできる代物ではなかった。
もっと人の根源的な部分、願いに依存するようなモノだった。
本来、発動するはずのない奇跡。
ルキウスはその奇跡に全てを賭けた。
(まだ名前も知れない異世界人よ。俺を恨んでくれて構わない。だから、どうか……どうか、この世界を救ってくれ!)
奇跡が起きなければ勝てない戦いならば、奇跡に期待するしかないのだから。