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中学校では大輝は剣道部、ユウキはバイトをするようになった。
クラスも別々になり会える時間は減ってしまっていたが、二人の友情は続いていた。
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そんなある日だった。
ユウキが突然転校したのだ。
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「ですから、話せないんですよ。プライバシーの問題で」
「じゃあ、住所は良いです。だからせめて、電話番号だけでも!」
「それも、プライバシーの問題で……」
学校側は、なにも話してくれなかった。
ユウキが転校した理由も、今の住所も電話番号も。
しかし、ユウキのクラスメートや担任からは少しずつ話を聞くことができた。
担任も最初は、プライバシーが……と言っていたが罪悪感もあったのか、ゴリ押しして聞き出せた。
聞いた話をまとめるとこんな話だった。
ユウキはここ半年ほどの間、先輩を中心とした不良グループに絡まれていたらしかった。
殴る蹴るの暴行を加えながらも、顔などの目立つ場所には傷がつかないようにしていたため、発覚が遅れたのだという。
そしてそのうち、金銭要求も行われるようになった。
ユウキが要求を断ると激しく暴行を加え、また家族にも手を出すと脅した。
ユウキには弟と妹がいたのでそれは効果的な脅しだったのだろう。
だがやがて、彼らの要求はエスカレートしユウキのバイト代や小遣いで賄える範囲を超えた。
不良たちは当然のようにユウキに万引きや親の金を盗むように強要した。
しかし、ユウキはそれを拒否した。
いつものように脅す不良たち。だが、ユウキは決して首を縦に振らなかったという。
そして、ユウキはこれ以上の要求には従えない、警察に通報すると言った。
それまでユウキが従順に言うことを聞いていたのだから、彼らにとって衝撃だったのだろう。
その結果、彼らは激昂した。
その結果、ユウキの前身はあざだらけになり左腕の骨とあばらにひびがはいる怪我を負った。
流石にそれだけの怪我をすれば家族に隠すことが出来ず、事件が発覚した。
その後、ユウキの家族はユウキの精神面や不良たちからの報復を恐れ引っ越したのだ。
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話を聞くにつれ、大輝は唖然とした。
最初に激怒した。一言も相談してくれなかった親友に。
そして、思い直して自分に失望した。
親友が追い詰められていることに気付けなかった自分に。
追い詰められている親友に相談してもらえなかった自分に。
とても強く、失望した。
自分が月影大輝であるという事実に、一かけらたりともの誇りを見いだせなくなった。
深い後悔と決してぬぐうことのできない恥だけが後に残った。
鮮明に感じられた世界はその色を失った。
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どうして相談してくれなかったんだ……。
いや、理由はわかっている。
ユウキは優しいから巻き込みたくなかったんだろう。
それでも、僕を巻き込んでほしかった。
……本当に?
そもそも、僕は本当に気付いていなかったのか?
ユウキがたまに怪我をしているのは知っていた。ユウキはそれを転んだ、などと言って笑っていた。
本当に違和感を感じなかったのか?
なにかあると気付きながらも見て見ぬふりしたんじゃあないのか?
今となっては僕にもその答えは出ない。
……どうでもいいさ。
結果は一つだけだ。
僕は、僕がつらい時に支えてくれた親友のつらい時に何もしなかった。
そして、唯一の親友を失った。
誇りとともに。