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二話目です。
評価、感想よろしくです。
月影大輝は自分のことが嫌いだ。
自分自身を否定したいと思いながらも、なによりも自分自身が自分の存在を肯定してしまってるという矛盾。
今のようにただただ惰性で生きた先に何があるのだろうか?
何かがあるのだろうか?
なにかが変わるのだろうか?
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大輝には一人の親友がいた。
親友の名前はユウヤ。
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大輝が小学生の時だった。
その日はたまたま寝つきが悪くて目が覚めてしまい、水でも飲もうかとリビングに向かった。
リビングの明かりはついていて、大輝の父親が電話をしているようだった。
医者をやりながら政治的なコネも多く持っている大輝の父親には時間を問わずよく電話がかかってくるのだ。
(こんな真夜中にどうしたんだろう?……また仕事の話かな)
大輝は父親の電話の邪魔にならないように水を飲むのをあきらめ、自分の部屋に戻ろうとした時だった。
父親の少し不機嫌そうな声が聞こえた。
「……ああ。わかっている。何度言えばわかるんだ。金は振り込む。大輝もしっかりと育っている。……ああ」
『大輝』という単語を聞いて足を止めてしまう。
(……僕のことを話している?)
自分の部屋に向かおうとしていた足がリビングの扉に近づいき、息をひそめて耳を扉にくっつける。
そして、大輝は真実を知った。
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父親の電話相手の声は聞こえなかったが、相手は酔っぱらってでもいるのか何度も話がループしたおかげで話の輪郭は掴めた。
大輝の父親の電話相手は父親の弟。
つまり大輝の叔父にあたる人物で、その人こそが大輝の本当の父親のようだった。
この時はまだ知らなかったが後に大輝が調べた結果、大輝の本当の父親はギャンブルと酒にはまっていて大輝を育てるのが難しかったようで、なかなか子供ができなかった八歳年上の兄、つまり今の大輝の両親に金と引き換えに大輝を譲ることにしたらしかった。
法的にも大輝は今の両親の実の子となっているらしいが、それは大輝の今の父親が金と政治的圧力によってなんとかしたようだ。
詳しい話は分からなかったが、幼い大輝は一つの事実を認識した。
自分は実の父親から今の父親に売られたのだと。
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事実を知った次の日の朝、珍しく両親とともに朝食をとり――――大輝の両親は家を空けることが多く、また家にいても朝は忙しいのであまり朝食をとらない――――学校に向かう。
いつも通りの月影大輝を演じ切る。
幼いころから多くの習い事に通い、政治家の集うパーティーなどにも何度も参加してきた大輝はいつのまにか自分を演じるのが得意になっていた。
学校での自分、習い事先での自分、そして今朝は両親について何にも知らない自分を演じていた。
たった一日で気持ちの整理がつくわけもなく、本当はわめき散らしたかったが、その感情を自分を演じて塗りつぶす。朝、自分の部屋で確認した。表情は完璧だ。
だから、学校で何度か遊んだことのある友達の一人に授業後に話があると聞いた時も特に何も思わなかった。
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授業後に呼び出された友人――――ユウキ、のところに行くと場所を変えようと言われ、屋上に向かった。
「で? どうしたのさ、こんなところに連れて行って。告白とか?」
大輝が茶化すが、それには反応せずにユウキは大輝の瞳をじっと見つめる。
「大輝君が大丈夫かなって思ってさ」
時間が凍り付いたと錯覚した。
(見透かされた!?……いやありえない。僕はいつも通りの月影大輝を演じられていたはずだ)
ユウキとは友達ではあったが、別段仲良くしているわけではない。
実際、これまで大輝の中では、髪が長めで大人しめの華奢な少年、くらいのイメージしかなかった。
それに、大輝は自分が周りに比べて優秀だと自覚していた。才能か、教育のおかげか。
だからこそ、こんな凡庸な少年に自分が見透かされるはずがないと思った。
しかし、少年の瞳には確信の色が宿っていた。
「何のことかな? そういえばちょっと寝不足気味ではあるけどね」
ユウキは首を振ってこたえる。
「そういうことじゃないよ。でもなんだか大輝君がすごくつらそうだったから」
「ッッ!!」
「僕なんかに何ができるのかって話なんだけどさ、それでもできれば力になりたいんだ」
そんなセリフをまっすぐな瞳で告げられて、気付けば大輝はすべてをユウキに話していた。
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結局のところ、ユウキが大輝の抱える問題について根本的な答えを出してくれたわけではなかった。
でも、それでも、ただ話を聞いてくれるだけで大輝にとって大きな救いだった。
その後の幼少期を大輝がゆがまずにいられたのは間違いなくユウキのおかげだった。
その後も何度も相談したし、それとは関係なく遊ぶことも増え、いつしか二人は親友になっていた。
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いつだったか、僕がどうして僕を助けてくれたのかと聞くと、ユウキは言っていた。
「僕のお母さんがよく言うんだ。『優しい人間になることはとても難しいことかもしれない。だったらせめて、自分の大切な人――――家族、友人、恋人とかの大切な人に優しくできる人になって欲しい』って。だから僕はダイキ君に優しくしたい。助けに、支えになりたいんだ」
ユウキは少し照れながらそんなことを言ったんだ。
それに対して僕は答えた。
「だったら僕は、君にとって優しい僕でいるよ」
ユウキはやっぱり照れくさそうにして笑っていた。
……これは僕の約束だった。
……約束だったはずだったのに。