負けらんねぇ
不動との激しい拳の打ち合いは明らかに小津の方が劣勢だった。
だが、帰るべき場所がある小津は気迫で上回り始め……。
激しい拳の打ち合い。
だが小津の拳は不動に届いていなかった。
速さ重さリーチ。
どれを取っても不動が上回っている。
小津がいくら拳を放ったところでその前に、岩のような拳が打ち込まれるのだ。
そして今までにない一撃が頬に当たった。
脳が揺さぶられ、小津の膝が崩れる。
やべ……、だけど……負けらんねぇ。
負けるわけにはいかねぇ。
もう、あいつの泣き顔を見るのは嫌だ――。
どっせいッ!
体が崩れ落ちるところを両足で踏ん張って耐えた。
俺は勝ってあいつのところへ帰らないといけないんだぁぁぁッ!
ビリビリと大気を振るわすような気迫に、圧倒しているはずの不動が気圧される。
な、なぜだ。こいつは格下のはず。すべてにおいて俺が上回っているはずなのに、なぜ……!
小津が拳を放った。
その鋭き一撃は不動の顔をぶれさせる。
こ、この……。
不動も拳を打ち出すが、その前に小津の拳が直撃した。
ば、馬鹿な! これではさっきの逆ではないか!
次々と打ち込まれる小津の拳。
しだいに不動の巨体が崩れ落ち始める。
そしてついに片膝を突いた。
人間のポテンシャルは測りしれない。
もし、最大の力を出せるのなら、鍛えていない人間でも車を持ち上げられるという。
普段はそうならないようにリミッターがかかっているわけだが、リミッターということはその行為が危険だということだ。
もし潜在能力のままに車を持ち上げたとしたら、全身の筋肉も骨も破壊されてしまうだろう。
小津はまさにそのリミッターを外しつつあった。
その証拠に、拳を打ち込むたびに皮膚が裂け、筋肉が弾け飛ぶ。
精神が肉体を凌駕し、ただただ闘争本能に身を任せて戦っていた。
両膝を突いた不動に対して、小津の拳が止む。
けれど攻撃の手を緩めたわけではない。
最後の一撃をお見舞いするために拳を引いたのだ。
右半身を後方に下げる。
腰を落とす。
それから右足で地面を蹴り、それと同時に腰を捻って右半身を前方に送り出す。
最大の力が乗った極大の一撃。
不動は頭を後ろへ弾き飛ばされ、その巨体を背後から沈めた。
だが次の瞬間、小津の全身から鮮血が吹き出した。
限界を超え小津もまた倒れ伏しそうになる。
それでも両足を踏ん張って耐え、背後に向き直った。
ああ、腹減った……。
あいつにオムライスでも作って貰うか。
半熟の卵と真っ赤なチキンライスを思い浮かべながら、ぐぅぅぅと腹を鳴り響かせたのだった。