一閃
あらゆる敵を瞬殺して来た鬼堂の前に立ちふさがるのは、どうしようもない昼行灯!?
だが由良はおくすること無く、納刀のまま鬼堂と向かい合った。
果たして勝負を制するのは……。
由良が左半身を引き、腰を落とす。
左腰にある刀の柄にはまだ手を触れない。
触れるか触れないかの距離で保ち、ただ静かに佇んでいた。
それを見た鬼堂がせせら笑う。
「ふん、この俺と早さ比べでもするつもりか?」
だが由良は何も答えない。
鬼の爪と呼ばれる刃によって、すべて電光石火のもとに敵を屠って来た鬼堂。
その鬼堂にしてみれば、納刀状態で自分に対峙するのは挑発以外の何ものでもなかった。
「面白い……」
鬼堂は自分の両手に付けられた鬼の爪を打ち付けると、右半身を引き、両手を突き出して、重心を低くした構えを取る。
「無理だ……」
普段の由良を知るすべての者がそう思った。
ぐうたらでものぐさで、だらけ切ったその様子を見ていた者には、由良が呆気なく斬り殺されるさましか思い浮かばない。
鬼堂がわずかに身をゆるがす。
そして――消えた。
キィンッ!
「え?」
決闘を見守る者たちは何が起こったのか分からなかった。
気がつけば、由良……ではなく、由良の背後で鬼堂が倒れている。
由良はいつの間にか抜刀していて、切っ先が上を向いていた。
由良が鬼堂を切り倒したのだ。
それは脱力状態からの硬化によるものだった。
その柔から剛の振り幅が大きく、硬化に至るまでの時間が短ければ短いほど速く鋭くなる。
由良が昼行灯なのもすべてこの一撃を放つためだった。
常日頃から最大の脱力状態を維持する。
そして技を放つその時に備えるのだ。
由良は静かに納刀すると、大きくあくびをした。
そしてボリボリと頭を掻くと、一眠りするためにその場をあとにする。
ようやく状況を理解した周囲の者たちから歓声が沸き起こった。
由良は背中越しに手を振って、もう一度あくびをした。