背中を預けられる者
最強の敵「大門」と対峙する「豪星」と「葵」。
今二人の「最強技」が解き放たれる!
相手はどんな攻撃も通用しないバケモノ……。
逆に相手の攻撃は、柔を極めている葵でも受け切ることは不可能だ。
けれどそれは、大門が相手である以上豪星とて同じこと。
ならば駄目でもやるしかない。
先手でこちらの攻撃を意地でも通して倒すより他なかった。
豪星は目をつぶると、呼吸によって丹田の気を練り上げる。
「どうした? 怖じ気付いたのか?」
大門の挑発に……豪星は中指を立てた。
「葵、そっちの準備はいいか?」
「はい、こちらはいつでも……」
背後に居る葵が静かにうなずく。
「そうか……」
ならば!
「いっくぜぇぇぇぇぇ!」
豪星は右足を軸に体を背後にねじ上げる。
振りかぶられた拳はまるで野球のピッチャーのそれであった。
だけどボールを投げるわけではない。
投げるのは豪星の拳だ。
「流星砲拳ンンンッ!!」
振りかぶった拳を体ごと前方に投げ飛ばす。
すべての体重と筋力を乗せた一撃必倒の技だ。
豪星は大門との間合いを一瞬で詰め、拳を叩きつけた。
それに対して大門は引き絞っていた岩のような拳を放ち受け止める。
拳と拳との激突。
「おおおおおおおおおおッ!」
すでに豪星の意識は昂ぶる闘志によって振り切れていた。
今あるのは目の前の敵を打ちのめすことのみ。
だが……。
ズ…ズズ……
豪星の拳が押され始める。
「ぬるい! ぬるいはぁぁぁ! この程度で俺を打ち倒せるとでも……」
「ならばさらに打ち込めばいい……」
「!」
いつの間にか豪星の脇に立っている葵。
九頭流古柔術独特の呼吸法によって丹田の気はすでに練られている。
だけどまだだ。
まだ足らない。
左足を残して右側面を引く。
腰を落とす。
足の指で地面を掴む。
「九頭流最終奥義……」
こぉぉぉ……。
呼気が大気を振るわし――、
「機巧! 螺戦激励弾んん!!」
つま先、膝、腰、肩、腕。
すべてを総動員して螺旋状に練り上げた力を一気に解き放つ。
けれど打ち付けたのは大門の体ではなかった。
いつも頼りにしている相棒の背中だ。
豪星の背中の服がはじけ飛び、背筋が盛り上がる。
葵から放たれた力は、豪星の肉体を触媒にしてさらに膨れ上がったのだ。
その螺旋の力は豪星の拳へと伝わり爆発する。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
二人の気迫が大門を圧倒した。
「ぐっ、くっ……! 馬鹿な! この俺が押されるなどとぉぉぉ……!」
大門の拳が弾き飛ばされ――、豪星の拳ががら空きとなった腹筋に打ち付けられる。
「ごはぁぁぁぁぁッ!」
その衝撃は分厚い肉体を透して背中まで貫通した。
豪星の動きが止まる。
意識は取り戻しても目はまだ大門を射抜いていた。
反対に大門の目から意識が失われ、そのまま背後へと崩れゆく。
絶対に倒せないと思われていた大門が倒された。
豪星が後ろを振り向く。
葵は微笑みうなずいた。
パシィンッ!
高らかに鳴り響くハイタッチは、二人の勝利を世界の隅々にまで知れ渡らせたのだった。