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さかさ

作者: 9741

 源太郎の耳は壊れている。もしくは脳が。


「?いなしルーオでケオラカらか今、えねえね」

「んゃじいい !いたい歌嵐、私 ?なかるてれさ信配曲新」

「!んさ母お ?ー何飯御晩の日今」

「よーレカツカなき好のろひさま」 


 彼の耳に入る音は、全て逆さに聞こえてしまう。 

 理由は分からない。耳鼻科や脳神経外科、心療内科にも診てもらったが、原因は不明だ。 


 この病気のせいで源太郎はいろいろ苦労している。 

 学校の授業は一度レコーダーに録音して、あとで逆再生しなければならない。英語のリスニングテストなんか、宇宙人の言葉に聞こえてしまい、勘で答えるしかない。 


 逆さ言葉のせいで、彼には友達が少ない。会話ができないからだ。 

 唯一、源太郎と話をしてくれる友人は……。


『源太郎』 


 幼馴染の香織だけだ。ちなみに源太郎と香織の会話は全て筆談で行っている。 

 だが教室で筆談すると、馬鹿なクラスメイトがいたずら書きをしてきて集中できなくなる。だから彼らは屋上でしか話さない。


『今日の弁当はちょっと自信作なんだ』 


 そうホワイトボードに書いた香織が源太郎に弁当箱を渡す。


『ありがとう』 


 彼はボードに返事を書いて、弁当のおかずを一口。とても美味しかったようで、源太郎はOKのジェスチャーをする。


『良かった』 


 香織が笑う。彼女はたまにこのように弁当を作ってあげる。源太郎にはとても有難かった。 


 だが申し訳ない気持ちも彼にはあった。 


 実は香織は異性からかなりモテる。だがいつも源太郎といるせいで、敬遠されている。男子だけではなく女子にもだ。


『なあ、香織』 


 源太郎はホワイトボードに文字を並べる。


『俺に構ってくれるのは、嬉しいけど。もっと他に友達作った方がいいんじゃないのか?』 


 そう彼が書くと、香織は何かを考える。 

 そしてゆっくりと彼女は口を開いた。


「私は、好きで、源太郎と、一緒に、いるんだよ」 


 彼女が発した言葉は、源太郎が正常に聞こえるように逆に発音したものだった。 

 そして彼女は顔を赤くして、屋上を去った。  


 帰り道、源太郎は駅のプラットホームである決意をする。


「(よし、香織に告白しよう)」 


 彼は香織が好きだった。だからその気持ちを素直に伝えようと源太郎は思った。


「すまし着到が車電に線番2くなもま。いさだくち待おてっが下でま側内の線白らかすで険危」 


 もうすぐ電車が来る。 


 その時だった。 

 

 彼は何者かに背中をドンと押され、バランスを崩し、白線の向こう側に突き落とされた。あとで分かったことだが、歩きスマホをしていた馬鹿が前方不注意で源太郎にぶつかったのが原因だった。 


 電車が彼の目の前まで迫ってくる。ブレーキ音が反転して彼の耳に響くが、とても間に合いそうにない。


「(おいおい、嘘だろ。明日告白しようって思った時にこれかよ。やめろ、こっちに来るな。来るな!!)」 


 彼はせつに願う。 

 電車が源太郎に接触するかしないかの、その時だった。 


 突然、電車がバック、後退した。そして後ろに下がる電車は、ゆっくりとその動きを止めた。


「おい、君! 大丈夫か!!」 


 駅員が源太郎に安否を聞いてくる。 


 彼は耳を疑った。駅員の声が正常に聞こえたのだ。 


 この日を境に、源太郎はとある能力を手に入れた。物事を逆さに反転させる能力を、引っくり返す能力を。 

 彼が自分の能力を自覚するのは、そう遠くない未来の話。

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