第1階層、再び3
場所を移動しようとして、美湖たちは木がまばらに生えている場所を目指して歩いていた。その途中で、少し厄介な魔物に遭遇していた。それは『グレムリン』という魔物だった。この魔物、俗にいう悪魔族で、ほかの魔物と違い、魔法スキルを持っている場合がある。見た目は、全長120~150くらいの背丈に、身長くらいある大きな翼、額に生えた30cmくらいある角、手足に生えた詰めは10cmくらいある、全身緑色の体毛に覆われた魔物だった。そして、美湖の鑑定スキルによると、『闇魔法』と、『火魔法』を持っているとのことだった。その魔物が2体いた。
「ん~、魔法を使える魔物とは、初めての戦闘だね。どうしよっか?」
「グレムリンとなると、私の魔法は効きにくいです。それは、向こうも同じですが、実際、魔法を使えるものとの戦闘をしたことがございませんので、すみません、案が浮かびません。」
「私もだな。魔法を使う魔物は見たことがあるが、私自身、魔法が使えないし、何とも言えない。」
「私はぁ、精霊魔法があるので、光属性の魔法なら使えますが、悪魔族相手に聞くほどの威力は出ないかと思いますぅ。」
3人とも、これといった案が出ないようだ。美湖は少し考え、
「...ねぇ、ユーナちゃん。吸血スキルでユーナちゃんを強化して戦ってみない?確か、吸血スキルには、自分の生命維持とは別に、任意で吸血して、自己強化できる効果があったよね?」
美湖の提案に、しかしユーナは顔を青くして尋ねてきた。
「...、はい、確かに、そのような効果もありますが、一体誰の血を吸うのですか?」
「ん?ぼくのだけど?」
「...、わかりました。それでは試してみましょう。実は私自身試したことがないのですよ。」
ユーナが受け入れたので、美湖はハードレザージャケットと、チュニックの胸元をはだけ、首筋が見えるようにした。そして、ユーナを招き寄せる。
「ユーナちゃん、緊張してるみたいだけど、これはあくまで試しだからね?吸血したからといって絶対に勝たなきゃいけないなんてことはないんだから、肩の力を抜いて。そんなんじゃユーナちゃんの持ち味のスピードも落ちちゃうよ?」
美湖は、ユーナを抱き寄せ、頭をなでて緊張をほぐしていく。ユーナもされるがままになっていたが、美湖の首筋に口を這わす。アリサとスーリンは、その様子に顔を赤くしながらも、周囲の警戒に当たってくれていた。
「それでは、ご主人様。いただきます♡」
そういって、美湖の首筋に犬歯を突き立てる。そして、湧き出てきた美湖の鮮血を舌で転がすように味わいながら咀嚼していく。
「んっ、くっ、ああっ!!」
美湖は、ユーナが吸うたびに、艶のある声を上げてしまっていた。そして、ユーナが満足するまで、時間にして1分かかった。解放された美湖は、息を荒げ、方が上下していた。大きく深呼吸をして息を整えると、
「さて、それじゃあ、あのグレムリンを討伐してみますか。」
海洋鉱の剣を構え、グレムリンを視界にとらえる美湖。その隣では、赤銅と黒銀の短剣を構えて、準備万端なユーナもいる。
「僕と、ユーナちゃんが相手をするから、アリサちゃんは、続けて援護射撃をお願い。スーリンちゃんは回復魔法をお願い。それじゃ、行くよ。」
美湖の準備の声に、3人は無言でうなずく。
「5、4、3、2、1、GO!!」
美湖の掛け声とともに、美湖とユーナが駆けだす。駆けだしたのだが、
「ちょっと待ってユーナちゃん早すぎ!!!」
吸血により強化されたユーナは、先のゴブリン戦の時とは段違いのスタートダッシュを決めた。そして、グレムリンに接近し、グレムリンが応戦する魔も与えず、グレムリンの体を細切れにしてしまった。
「「「ユーナちゃん(さん)、強すぎじゃないですか...」」」
3人のつぶやきが、またもや重なった。